バイトリーダー、バイトリーダーになる。

 度重なる検証で【歯車の王バイトリーダー】の効率的な起動方法は確立してある。

 

 1:ジャミルが困る。

 2:ジャミルに手助けして欲しいとお願いされる。


 この2点さえ組み込めば発端や過程はどうでも良いらしい。

 つまり、八百長でも構わないのだ。


「ジャミル。ランスロットを腕相撲で負かしなさい」


 こうしてルージュに無理難題を課して貰い、


「兄上、勝利のために手伝っていただけませんか?」


 ジャミルから協力の打診をされる。すると、


【ジャミル・N・ツェザーランドよりアシスタント業務を依頼されました。

 アルバイトを始めますか? Yes/No】


 こうなる。

 もう慣れたものだね。

 少なくともアシスタント業務に関してはこのテンプレでいける。後はYESと念じるのみだ。


【ジャミル・N・ツェザーランドからのアシスタント業務を受託しました。

 タスク完了までアルバイト状態になります】


 これで依頼主=ルージュ。雇用主=ジャミル。バイト=俺の構図が完成だ。

 奇妙なやり取りをしたせいでランスロットがめちゃくちゃ不思議がってるが、そこは一旦スルーでいこう。


「ジャミル。見習い騎士もバイトに誘ってみよう」

「はい。待望の検証ですね」


 当然だが、バイトリーダーはアルバイトの束ね役だ。

 俺の下に付くバイトがいないとリーダーを名乗ることなんて不可能。

 だから俺達は『アルバイト急募!』という張り紙を設置したい気持ちでいっぱいだったのに、屋敷の連中にバイトの概念が通じないせいで上手くいかなかった。

 けどあいつらは違う。

 日銭を稼ぐために騎士団の門を叩き、ちょっと苦しくなったり、もっと割の良い仕事が見つかったりしたら、将来が不利になるというのに平気でバックレる人種だ。

 居酒屋のバイトの時にもいっぱい見たな。

 連絡もなく遅刻や欠勤をする奴なんて数え切れないほどいた。しかも連絡を入れても反応がないどころか、翌日以降も来ないとかもね。

 2日目にしてそんな暴挙に出る奴も少なくなかったし、採用の通知を出したのに姿を見せなかった猛者もいた。

 そのたびに店長が苦笑いしてたな。

 あの無責任なバイトの連中がもっと仕事に真摯だったら、少しくらいは店長の負担が減ったのかもしれない。

 そうしたら、あんなことにはならなかったのかもしれない。

 まあ、終わったことに対してあーだこーだと考えてもしょうがないけどね。

 考えずにいられないくらいのトラウマというだけで。

 兎にも角にも、今は移動だ。移動。


「訓練中に失礼します」


 ジャミルが声を掛けたのは、汗だくで腹筋を繰り返してる少年達だ。

 繰り返しと言っても、1分に1回もやってないけどね。もう体力の限界っぽい。

 見るからに貴族という連中が寄ってきたのに、姿勢を正さないどころか、返事の1つもしないからね。脳が酸欠状態で正常な判断能力がなさそう。

 いつからやらされてるのかな。ウチの騎士団、ブラック企業臭がヤバいんだけど。


「突然ですが、ランスロット団長に一泡吹かせたいと思いませんか?」


 本当に突然だな。そんな問い掛けだと普通は「思います!」とはならないよ。

 しかしながら現実は違った。

 3対の眼球が一斉にジャミルを見据えた。

 そこには闘志、いや、憤怒や憎悪と言ったものが窺えるね。

 どうやら長時間による過酷な訓練が彼らを普通じゃなくしたらしい。

 度重なるパワハラでストレスが限界だったのかも。やっぱブラックはダメだよ。


「ルージュ様」

「なあに?」

「条件を確認させていただきます。ランスロット殿を腕相撲で負かす。ご命令はこれのみでよろしいのですよね?」

「そうよ」

「つまり、1対1である必要はないんですよね」


 そりゃそうだ。タイマンが条件だったらジャミルは俺に手伝いを依頼することもできない。わざわざ確認するまでもないことだ。


「協力して良いってことか?」

「じゃあ俺らにもチャンスはあるんじゃ」

「3人がかりでやれば余裕なんじゃねーの?」


 だがその情報は見習い騎士に希望を与えた。その上、


「なお、勝利した暁には1人100ルピスの報奨金を差し上げます」


 ジャミルが懐から出したのは中サイズの銀貨1枚。日本円にして約1万円の価値がある硬貨である。


「あなた方が敗北しても責任を問うことはありません。また、団長が敗北しても同様です。これはレクリエーションの一環だと思ってください」


 勝ったら賞金。負けてもノーペナ。こんなの金に飢えた若者がやらない手はない。


「お貴族様がそこまで仰るなら!」

「団長! 覚悟してくださいよ!」

「負けても八つ当たりしないでくださいね!」


 見習い騎士が悠然と立ち上がった。めっちゃ足がぷるぷるしてるけど。


「では皆さん。ご協力よろしくお願いいたします」


 ジャミルがそう言った直後、


【デニム、ボリス、カイルの3名がバイト仲間になりました】


 聞いたことのないメッセージが届いた。苗字がないということは孤児なのかな。


「兄上、指揮をお願いできますか?」

「任せろ」


【雇用主から指揮権を委ねられました。

 バイトリーダー状態になりました】


 おっしゃ!

 バイトリーダーになったくらいではしゃぐなんてアホらしいけど、おっしゃ!

 よし、まずはこの朗報をルージュとジャミルに伝えよう。

 腕相撲はその後に、


【バイトリーダー状態に移行したことにより各種権能が使用可能となります】


 えっ。権能ってなんぞ?


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