バイトリーダー、騎士の裏事情を知る。
貴族の令嬢を立ちっぱなしにさせて話すのは大変よろしくないことだが、ルージュはそう言ったマナーや様式よりも合理性を重視する傾向がある。
そのせいで我々ちびっ子も立ち話で応じることになった。手身近に頼むよ。
「ではまず騎士について説明させていただきます」
一方のランスロットは片膝をついたままだ。6才児と目を合わせて話すためだね。
「大きく分けますと、騎士と呼ばれる者は3種類います。国王陛下直属の
ここでも貴族さんの高すぎるプライドが発揮されてる。リッターは確かドイツ語で騎士を示すけど、なんかガソリンの単価みたいでかっこよさを感じないな。
「差別的な意味合いを感じますね。リッターはいわゆる蔑称なのでしょうか?」
ジャミルがそう思うのも無理はない。けど一応は真っ当な理由もあったりする。
「半々ですね」
「と言いますと?」
「ナイトとリッターでは忠誠を捧げる対象が異なります。ナイトは国王陛下。リッターは雇用主です。端的に申し上げれば、指揮系統が違うのですよ。なのでナイトとリッターの混成部隊は上手くいかないことが多々あります。ナイトは国王陛下のため、リッターは雇用主のために動きますから」
「なるほど。目的の齟齬は確かに問題ですね」
「はい。その上、雇用主の思惑次第でリッターの目的も変わりますからね。おそらくリッズフラント騎士団と、ツェザーランド騎士団の混成部隊でも上手くいかないでしょう。なので、戦略上で重要な作戦にリッターが投入されることもありません」
「総司令官の視点で言うと不確定要素が多すぎるからですね」
「リッターには平民が多いので信頼度の問題もあるとは思います」
「ああ、教養の問題もありますか」
「文字の読み書きが不得手な者も少なくありませんので」
「そうなると命令の意味を履き違える人も出てきそうですね」
「指揮官クラスになれば問題ないとは思いますが、末端となると無いとは言い切れないのが実情です」
「改善の予定はないんですか?」
「どうしても戦闘訓練の方が優先となってしまいますので」
それも当然と言えば当然の話だ。
武官に求めてるのは強さであって、賢さを求めるなら文官を揃えるべきだからね。
脳筋のマッチョとインテリのヒョロガリ。ボディーガードにするならやっぱり前者だよ。ランスロットみたいなインテリの細マッチョなら文句なしだけどさ。
「練度はどうなのでしょう? ナイトとリッターで大きな差はあるんですか?」
「完全に個人差ですね。私は元ナイトなので現役のナイトと遜色ないはずですが」
そこでランスロットは練兵場の端っこの方に目を向けた。俺らが来た時からずっと腹筋を繰り返してる少年が3人いるね。
「あの3名はまだ戦力としてカウントできません。例の見習い騎士として先月からここで鍛えていますが、実戦に出せるまでまだまだ時間が掛かりますし、仕上がるまでに2名は辞めるでしょうね」
「え。3人に1人しか続かないということですか?」
「いえ。先月に受け入れたのは10名でして。既に7名がいなくなっております」
「……離職率が高すぎる」
「育成の費用が無駄になってばかりで公爵には申し訳ないのですが、騎士は命がけの職業ですからね。生半可な覚悟の者はいなくった方が双方の利にもなりますし」
「有事の際に護衛対象をほっぽりだして逃げてく騎士は僕も雇いたくないですね」
ジャミルの言い分も分かるが、いざとなったら自分が1番可愛くなるのが人間ではなかろうか。少なくとも、主のために死ねという命令を俺は出せないと思うし、逆の立場でそんなことを言われたら、そいつを殺して逃げたくなりそうだ。
「ちなみに見習い騎士は本人の一存で辞めることができるんですか?」
「そうですね。見習い騎士の給与は日払いなので、入団初日の夜に無言でいなくなる者もいます」
騎士でもバックレってあるんだ。まさにバイトみたいだな。
「入団の条件は?」
「紹介状がある場合とない場合で違いますが、主に面接と実技試験で決めます。クラスやステータスはさほど重視しません。当然ながら身分もですね」
学歴や資格は気にしないタイプの企業ということか。中小ではよくあるね。
「つまり、見習い騎士の多くは気軽に日銭を稼げる場所として騎士団に応募して、自分に合わないと感じたり、一定の金額が貯まったり、もっと良い条件の騎士団が見つかったりしたら勝手にやめてしまう存在だと」
「その解釈で間違っていないと思います」
ジャミルが俺を見てきた。そうだな。俺も同じ意見だよ。
見習い騎士のムーブはバイトとそっくりだ。これは要検証だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます