バイトリーダー、騎士団長に会ってみる。

 騎士。

 厨二系男子において賢者や忍者に並ぶ憧れの職業の1つだ。

 中世風のこの世界にはその憧れの存在がいっぱいいる。めちゃくちゃいる。

 前世では部屋の数を裕福さのバロメーターとして利用すると聞いたことがあるが、今世では抱えてる騎士の数をそれと同等に捉える傾向があるらしい。

 そして貴族は見栄を張るのも仕事の1つ。

 よって多くの貴族は騎士団を所有してるのである。

 我がリッズフラント家も騎士団を2つも所有してたりする。

 王都用と領地用だ。一般的には領地用が本社。王都用が支社となる。

 ウチも王都には30人くらい。領地には200人くらいの騎士を置いてるからね。どっちがメインの騎士団かは語るまでもない。

 けどリッズフラント第一騎士団は王都用の方だったりするから、両騎士団の間にはそこそこ以上の確執がある。

 なお、王都用の騎士団を第一とするのは、有事の際を考慮したものだ。

 国王の警護に予備っぽい印象のある第二騎士団を就かせるのは不敬に値する。そんなアホらしい考え方が蔓延ってるせいだね。

 要するに、建前上のことなのだ。

 どうせ王都には他に大勢の騎士がいる。何かあった時に協力し合える王都よりも、自分達だけで対応しないといけない領地に多くの戦力を置くのは当然のことだ。

 しかし大多数の騎士はそれを理解してくれない。

 第一騎士団は少数精鋭という言葉を持ち出して図に乗り、第二騎士団は本隊という言葉を持ち出して調子に乗る。

 これはツェザーランド家も同じらしく、ジャミルも苦笑いしてたな。貴族あるあるってやつだ。

 だがそもそも話で言えば、法律上での騎士は騎士爵を持つ貴族に限られる。

 本当の意味での騎士はウチの騎士団でも両手で数え切れるほどしかいない訳だ。

 そのうちの1人。第一騎士団長であるランスロットに俺らは会いに来た。

 元近衛騎士ロイヤルガードのエリートさん。身長190オーバーにして筋骨隆々の細マッチョ。国内に10人もいない【剣聖】ソードマスターのクラスを保持するイケメンだ。

 近衛騎士団は国王の代替わりに合わせて刷新する。まだ現役バリバリの30代半ばなのだが、それで新任の近衛騎士団長と上手くいかなくて辞表を提出したらしい。

 そこをジジイがスカウトしてきたとのことだけど、何と言うか、世知辛いね。

 結局は騎士の世界も名誉とか栄誉とかよりも職場環境が第一なんだよ。

 パワハラ上司の下では働けない。それはどの世界でも共通の認識なんだなぁ。

 その実、リッズフラント騎士団は近衛騎士団より高給だから、ある意味では転職の成功例と言える。

 ただ、国家公務員と民間警備会社部長くらいの差があるからね。周囲の目を気にしないならという条件はどうしても付いてくる。

 よその騎士団から天下り騎士とか言われてるみたいだからな。絶対に嫉妬だけど。


「ランスロット、少し良いかしら?」

「はっ」


 さすがは元プロ。事実上の王妃が練兵場にドレス姿で現れてもまったく動じない。

 逆に言えば、大半の連中がダメだ。滅多に姿を見せないルージュに不躾な視線を送ってる。訓練中によそ見とは随分と舐めてるね。

 この辺の意識の違いが貴族と平民の差なのかなってたまに思う。メイドでも男爵家の三女と商家の娘でかなり違うしな。

 前者には気品や余裕があり、後者には気が利くという別個の利点があるものの、やっぱり庶民にはちょっとしたことでがっかりさせられることが多い。

 下品とまでは言わないけど、下世話と言うかね。浮つきやすいんだよな。


「ウチの騎士団にも見習い騎士っているわよね」

「はい。第一騎士団に3名。第二騎士団に20名ほどおります」

「その見習い騎士の待遇についてこの子達に教えてあげて欲しいのだけど」


 はい? って言いたくなるような命令だな。そんなのわざわざ騎士団長に尋ねることじゃないだろ。担当の執事にでも尋ねろやって思ってそう。


「はっ。承知いたしました」


 そうでもないっぽい。真面目だな。

 それはそうと、初対面のはずだから先にジャミルの紹介でもしとくか。


「こちら。ツェザーランド伯爵令息のジャミルくん」


 俺の言葉に合わせてジャミルが礼儀正しくお辞儀した。ダメだよ。それは前世の常識だよ。この世界では年齢が上でも立場が下の相手には頭を下げたらいかん。

 そのせいか、ランスロットは俺に軽く一礼してから、


「ジャミル様、初めてお目にかかります。リッズフラント第一騎士団、団長を務めるランスロットと申します」


 膝をついちゃったよ。ジャミルが頭を下げなければ敬礼で済んだのに。

 なんか名刺のマナーを思い出すな。格下は交換の際に相手の名刺より下から渡さなきゃいけないみたいなやつ。

 異世界に来てまでこんなくだらないマウント合戦をしたくないんだけどなぁ。

 団長が大仰な態度を取るからジャミルも畏まっちゃったし。

 まったく。先が思いやられるね。


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