バイトリーダー、覚醒する。
一応は参考という形で
そう思った矢先のこと、室内にノック音が響いた。
「アルベルト様、ジャミル様。ルージュ様がお呼びです」
さっきのメイドだな。どうやら時間切れらしい。
「じゃあまた近いうちに来るわ」
「今度はこちらから伺いますよ」
「引きこもり生活を続けなくていいのか?」
「パソコンもスマホもない部屋に引きこもっても暇でしょうがないですし」
「間違いないな」
「それに」
ジャミルがのそのそとベッドから降りた。やっぱ細いな。ちゃんとメシを食べてるのか不安になるくらいだ。
「親不孝は前世だけで充分ですから」
「あぁ」
そうだな。俺も前世では就活のことで散々心配させた挙句に先立ってしまったし。
「何をしたらあのロリ令嬢達にとって親孝行になるのかねぇ」
「兄上の場合は王位継承なのでは?」
「ルージュはそういうのにまったく興味を示さないな」
「そうなんですか。ネルさんは興味津々なんですけど」
「お前、母親のことをそんなふうに呼んでんの?」
「人前では母上と呼んでますよ」
「そりゃそうか。ってメイドさんを待たせすぎるのもよくないな」
「そうですね。では参りましょうか」
「というか着替えなくていいのか?」
「ご存じでしょう。貴族の着替えはアホほど時間が掛かるんです」
「要するに、めんどいってことか」
「ウチはしがない伯爵家ですからね。公爵家からの呼び出しに対してお待たせする訳にはいかないんです」
「そんな格好で対応するのも大問題だと思うけどな」
「そこは兄上からのフォローを期待しております」
「意外と調子の良い奴なんだな」
「ただの陰キャですよ」
そうして2人揃ってドアの前まで歩いていき、
「自分が開けます。ここからはお互いの身分を意識していきましょう」
そんなことを小声で言われた。直前に言うのはズルくないか。断れないじゃん。
「分かった。俺は俺の、お前はお前の役割をしっかり演じるってことで」
「あっ、くれぐれも自分へのフォローを忘れないようにお願いしますよ?」
「はいはい。分かった分かっ」
【ジャミル・N・ツェザーランドよりアシスタント業務を依頼されました。
アルバイトを始めますか? Yes/No】
は?
俺は思わず周囲を見回した。
「どうしました?」
「いや、いま聞き覚えのある声が」
前世のラストシーン。炎に身を包まれる直前に聞こえたあの声だと思う。
どこか神々しさを感じる、俺の健勝と多幸を祈ってくれた声だ。
「何も聞こえませんでしたが」
俺にしか聞こえないパターンか。となると、
「唐突だけど【
「……本当に唐突すぎますね」
「お前からアシスタント業務を依頼されたけどバイトするか? って頭の中で声がしたんだよ」
「な、なるほど?」
「しかしそうか。バイトリーダーなんだからバイトをしないとリーダーも何もない訳か。よくよく考えると当然のことだったな」
「当然ですかね? この世界にはバイトの概念がありませんし、何より公爵令息かつ第一王位継承者の兄上にバイトをさせるという発想は不敬罪になると思うんですが」
言われてみればそうなるのか。
バイトをするなら俺は労働者となり、それを依頼する奴が使用者となる。
そして労働者は基本的に使用者の命令を受ける立場にあるが、アルベルト・R・リッズフラントに何かを命令できる人間なんてそうそういたりしない訳だ。
これ、つくづくゴミクラスなのでは。
って思ったのも束の間だ。
「ジャミルが宰相になれば良いのでは?」
「え?」
「傀儡政権だっけ? ジャミルが国王の俺を裏から操ればいい」
「なんかとんでもないことを言い出しましたね」
「大前提として【歯車の王】の効果が絶大だった場合に限られるが、何か問題が発生するたび、それを解決するための依頼をお前が俺に出せばいいんじゃねーの?」
「確かに理屈で言えばそうなりますが」
「という訳で、早速だがバイトをしてみようと思う」
とりあえず心の中で『YES!』と強く念じてみる。
【ジャミル・N・ツェザーランドからのアシスタント業務を受託しました。
タスク完了までアルバイト状態になります】
アルバイト状態ってなんだよ。そんなステータス異常、聞いたことがないぞ。
「ふむ。どうやら俺はアルバイト状態になったようだ」
「まったくもって意味が分かりません」
「俺も分からん。とにかくアシスタント業務とやらをこなしてみようか」
「はぁ」
兎にも角にも、ロリ令嬢達を相手に実験してみよう。
これで俺の未来に光明が見えると良いんだけど。
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