第20話 エピローグ

 カレンの復帰ライブから一ヶ月が経った。


 あの日、死にかけたところをカレンに助けてもらった。カレンが声をかけてくれたおかげで、侑李の体調はみるみる回復していった。何でも底をついていた霊力が湯水のように湧き出てきたんだとか。生きようという意志が霊力を増幅させた、と犬飼のおじいちゃんは言っていた。


 そんなわけで侑李の体調は今まで通り、健康そのものだった。

 今日は休日だ。

 休日は推しにより一層時間を費やすことができる。


 体調は1ヶ月前と変わらないのだが、体調以外に変わっている事が多々ある。


「ワシはな……お前は絶対にできる奴だと信じておったぞ……あの時のお前はまさしくご先祖そのもの……うおおおおおん!」


 一つ、じいちゃんが泣きやすくなった。


 付き合ってられんと部屋に戻ると、咲希がいつの間にか部屋にいた。ベッドにもたれて座っている。


「あ、おにぃ。漫画借りてるよ」


「あー、うん」


「……隣、座ってもいいけど」


「え……」


「座ってよ」


「あ、はい」


 二つ、咲希が甘えん坊になってしまった。


 前みたいな刺々しさが減った気がする。そして、こうやって距離を詰めようとしてくる。


「ん……?」


 スマホが振動する。画面を見ると、LINEの通知が来ていた。陽子からだ。


 三つ、陽子からよく話しかけられるようになった。学校でも、LINEでも。


『新しい衣装にしてもらったんだけど、どうかな!?』


 文章とともに自撮り写真が送られてくる。どう、と言われても困る。以前より露出が増えている気もする。ただ、可愛いということだけは分かるが、言葉に出来ないのが歯痒い。


「ゆーくーん、イチャイチャしよー……って! 咲希ちゃん! ちょっとくっつきすぎだよ! 抜け駆けはダメだからね!」


 侑李と咲希の間に入り込み、グイッと腕を掴まれる。いや、掴まれるどころか関節技が入っている。


「いてててて! 決まってる! 技ありだからそれ!」


 姉はいつも通りである。咲希が将来こうならないことを祈るばかりだ。


『おい小僧! そろそろ時間だぞ! はよ! はよ!』


「はっ! そ、そうだった!」


 姉と妹を振り払い、パソコンに飛びつく。


「頼む……頼むぞ……」


 祈るようにマウスを何度かクリックし、そして表示された画面には……。



 チケットをご用意できませんでした。



「あああああああああああああ! ちきしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」


『何してくれとんじゃ貴様ああああああああああああああああああああああああ!』


 マサムネと一緒に盛大に叫んだ。叫んだ理由はもちろん、『アイ☆テル』武道館ライブの抽選が外れたからである。


『あれだけ我が祈ってやったのに……! おい! さっさとこのイーなんとかという輩を祓うぞ!』


「やめんか! イープラスさんに悪気はないんだぞ!」


 四つ、マサムネのオタク度が増した。


「というか、おにぃは『アイ☆テル』の専属霊媒師になったんでしょ。チケットとか貰えたりしないの?」


「何を言うか! ファンなら自力で勝ち取ってこそだろうが!」


「勝ち取れてないじゃん……」


 そして、侑李は『アイ☆テル』の専属霊媒師となった。

 専属霊媒師と言っても、ただ彼女たちが困った時、少し格安で優先的に依頼を引き受けてあげられるだけだ。


「はぁ……くそぅ」


 落ち込んでいると、スマホに通知が入る。SNSの通知だった。


 画面を開くと、カレンが投稿していた。


『ライブに向けて練習中! 期待して、待っててくださいね!』


 文章とともに、カレンをセンターにしてマイカ、リリの3人がピースしている写真だった。


「……うん、今日も推しは眩しいな」


 嫌な気持ちが一瞬にして吹き飛んだ。俺の推しは、今日も輝いていた。

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