第15話 病ニモ負ケズ
「う……」
あまりよく眠れなかった。起きた時にズキっと頭が痛んだ。
「っつぅ……」
視界がぼやけ、頭がぐらぐらと揺れている。体調は最悪だった。
『おう、起きたか』
「あぁ……おは──うわぁ!?」
侑李がまず驚いたのが、部屋の中の惨状だった。本棚に収納している本は床のあちこちに散乱しており、机に置いてあった文具や教科書は宙に浮いている。
極め付けは部屋の中に悪霊がフヨフヨと浮いていることだ。おそらく部屋を荒らしたのはコイツらが原因だろう。
「何事ぉ!?」
(それはこっちが聞きたいわ)
「マサムネ……一体何が……ってうおおおお!?」
マサムネが悪霊をモグモグと食べている。刀に霊が吸い込まれている絵面だが、モグモグと咀嚼音が聞こえる。
「こらっ! ペッしなさいぺっ!」
『うげっ!?』
刀をぶんぶんと振って食っていた魂を吐き出す。このまま食べさせていては成仏ではなく、消失してしまう恐れがあるからだ。
『くそっ……! せっかくの魂が……!』
「勝手に食うな。しっかり成仏させる」
次々と辺りに漂っている霊を祓う。
「侑李、これは何事じゃ……!」
「あ、じいちゃん」
ほとんどの霊を祓い終えた頃、宗一が部屋にやってきた。
「いやぁ……朝起きたら何故かこうなってて……」
「……お前、呪われとるんじゃないか?」
「止めてくれよ、縁起でもない。それに、もう祓ったから大丈夫だって」
「じゃが……」
心配する宗一を避けて廊下へと出る。
「あ、ゆーくんおはよー」
凛とすれ違った。
「あぁ、おはよ──う」
ふらっと、一瞬意識が飛んだ。
「あら?」
「え?」
意識がはっきりとしてまず感じたのは、柔らかな感触だった。
「ゆ、ゆーくん……?」
「……」
侑李は実の姉の胸に倒れ込んでしまったようだ。そのおかげで怪我をすることは無かったが、非常に気まずい。
「ゆーくん、今日は甘えん坊さんだね♡」
「……」
そう、気まずい。姉はまだいい。後でいくらでも弁解できる。しかし、姉の後ろにいた妹の冷ややかな目は弁解できる気がしない。
「咲希、違うんだこれは──」
「……大きな胸なら誰でもいいんだ。実の姉でも」
「んな訳あるかいっ!」
朝から大惨事だった。
「うぅ……」
登校してから机に突っ伏す。朝起きた目眩は一過性のものだと思っていたが、明らかに体がダルい。
家から出た後も、悪霊がしょっちゅう纏わりついてきた。来るたびに祓っていたが、立て続けに来られて参ってしまった。
「侑李氏、今日も素晴らしいカップリングが誕生して──おぉ……侑李氏、かなり参っておるな」
「あぁ……金山くん。今はカップリングの話はいいかな……」
「うむ……確かに、この様子なら1組が限界か……」
「いや、1組でもキツイけども」
「みんなー、おはよー!」
元気な陽子の声が響き渡る。いつもはこっちまで元気になるような声だと思っていたが、今日は元気が出ない。
「おはよ──って芦屋くん、何か元気なさそうだね……」
「い、いや全然。大丈夫だから」
陽子に気遣いをさせまいと気丈に振る舞うが、体のダルさは拭えないし速攻で陽子にバレてしまった。熱で寝込んでいる時と同じ感じだった。
「おーい、朝のホームルーム始めるぞ。席に座れー」
「あ、先生きた。辛かったらすぐに言うんだよ?」
「うん、ありがとう」
「よし、座ったな。出席とるぞ」
この時点で教室が少しざわついていた。いつもの日常と少し違っていたからだ。
「みんな、何を騒いで──あぁ、遠山か。彼女は家庭の事情でしばらく休みがちになるそうだ」
えぇー、と声が上がる。家庭の事情、というのは嘘であることを侑李だけは知っている。復帰ライブに向けて練習するため、と言ったら情報がリークしてしまう可能性があるからだ。
「ほら、静かにしろー」
しばらく教室は騒がしかった。それだけカレンは侑李たちの生活に溶け込み、馴染んでいたのだろう。
「……」
カレンがいない。その事実がさらに体を重たくさせたような気がした。
「お、終わった……」
ようやく今日の授業が全て終了した。やはり体が重い。熱や風邪というわけでは無いので休むに休めなかった。
「芦屋くん、本当に大丈夫?」
「う、うん……大丈夫……でも今日は早めに帰ろうかな」
「うん、その方がいいと思う」
「あはは……じゃ、じゃあ」
「う、うん。バイバイ」
教室を出て校舎を出る。
その時、またフラッと体が揺らいだ。やばい、今度こそ倒れてしまうと思ったが、誰かに体を支えられた。
「……もうっ! 全然大丈夫じゃないじゃん!」
「い、犬飼さん……!?」
陽子はするりと体の内側に滑り込んできた。自然と陽子に肩を貸すような形となってしまった。
「う……」
陽子の体の柔らかい部分を嫌でも感じ取ってしまう。汗臭くないだろうか、変なところ触らないようにしなくてはと気が休まらない。
「芦屋くんはもうちょっと周りを頼って欲しいな。何かあったら力になるから、ね」
「……ごめ──いや、ありがとう」
「うん、よしよし」
慌てて謝罪の言葉を取り消す。また謝ってしまえば、きっと陽子に怒られたことだろう。
「芦屋くんの家まで送って行くから」
「いや、流石にそれは……」
「むむむむむ……」
可愛らしい唸り声をあげてくる。全く恐ろしくもないが、このままだと離してくれそうにもない。
「……分かった。お願いします」
「お安い御用っ」
陽子に言われるまま、女の子に肩を貸しながら帰る。道行く人にジロジロ見られ、非常に恥ずかしい思いをした侑李であった。
「おはようございますっ」
「あ、カレン!」
「久しぶりー! 元気してた?」
カレンが事務所が契約しているレッスンルームに着いた時、既にメンバーは揃っていた。マイカとリリ、お馴染みの顔ぶれを見た瞬間安心した。
「久しぶりっ! 二人とも!」
「もう平気なの?」
「うん、大丈夫! 今日から練習しなきゃ!」
グッと握り拳を作り、やる気満々の様子を示す。
「結局原因は分かったの?」
「……ごめん。リリが教えてくれた有名な霊媒師さんの所に行ったんだけど、原因が何かまでは分からなかったの」
「えぇ……マジかぁ。役立たずだなぁその霊媒師……大丈夫? ぼったくりとかされなかった?」
「そういうのは全然大丈夫だから! あ、でもでも! お守りとかくれたし、色々と見てもらったからきっと大丈夫だよ!」
「……そ? なら良かった、のかな?」
「それにしても……やっぱり気になるよね。あの時のこと」
「確かにねー。マネちゃんメチャ大変そうだったの可哀想だったなぁ」
マネちゃん、というのはマネージャーの西山さんの事だ。怪奇現象が起こった時、出演者に説明したり、ロケ中に警察が駆け込んできた時もあったため、事情聴取を代わりに受けたりと非常に裏方の仕事に徹していた。
「マネージャーにもちゃんと報告しなきゃ。それと、復帰ライブの日程組んでくれてありがと、ってね」
「よーし! そろそろレッスン始めよっか!」
レッスンルームにチャラそうな男の人が入ってきた。
「あれ、新しい人?」
「あ、まだ聞いてないカンジ? あの人有名なダンサーらしくて、社長がスカウトしてきたらしいよ」
「海外でも有名だからきっとダンスが上手くなるはずだよ。リリの本番中のおてんばも、少しは無くなるかもよ?」
「ひっどーい! あれはミスじゃなくてアドリブだもーん」
二人が笑い合う姿を見て思わずカレンも笑ってしまう。復帰ライブを諦めなくて良かったと改めて思うカレンだった。
「つ、着いた……」
「おぉ〜、立派な神社だねぇ」
「あ、家はこっちの方だから。もうここまでで大丈夫だよ」
「ダメ、部屋まできっちり送り届けるからね」
「部屋まで!? ちょ、ちょっと待った! 部屋は流石に……」
「あー、見られたら困るものでもあるのかな? えっちだねぇ、にひひ」
「そそそ、そんなんじゃ無いけどね!?」
侑李も男だ。部屋に見られたく無いものの1つや2つや3、4、5つは当然のようにある。
陽子にまぁまぁと言われながら、結局自室の前まで来てしまった。
「犬飼さん、もう大丈夫だから」
「そう? 本当に大丈夫?」
「うん。ほら、ちゃんと歩けるし。部屋だってすぐそこ──」
その瞬間、ドアノブが思い切り開かれた。
「へぶぅっ!?」
顔面に直撃。視界がチカチカする。
「あ、芦屋くん!?」
「いってて……一体何が……」
頭を振り、視界を明瞭にする。すると目の前に広がっていたのは、大量の悪霊だった。
「ってまたか!?」
『おー、帰ったか小僧。こいつら無限湧きするぞ、鬱陶しいことこの上ない』
マサムネはこの状況に慣れてしまったのか、抵抗する素振りすら見せない。悪霊も相変わらず辺りを漂っているだけだ。
「コマちゃんっ!」
陽子がコマちゃんを召喚した。コマちゃんは悪霊をあっという間に食い散らかし、満足そうに鼻を鳴らした。
「よしよーし、いい子だね」
「あ、ありがとう」
「もしかして、芦屋くんの体調が悪かったのって……」
「あー……うん。今朝もすごい数の悪霊が部屋に来てて……襲ってきたりはしないんだけどいるだけで気分が悪くなるというか……」
「今朝も!? そ、そうなんだ……」
陽子は顎に手を当てて考え出した。
「この悪霊の数……これだけの数が一つの場所に集まるなんて普通じゃないと思う」
「確かに……俺も初めて見た」
「何か心当たりはない? 最近恨まれるようなことをしたとか……」
そう言われて真っ先にカレンの顔が思い浮かんだ。思い浮かんでしまった。
「ふんっ!」
「あ、芦屋くん!?」
邪念を振り払うべく自分の顔面をぶん殴る。ジンジン頬が痛むが、これは自分に対する罰だと言い聞かせる。
「なんでもないよ」
「なんでもないことはないでしょ!」
もう! と言われながら頬に手を当ててくる。
「ちょっ……!」
「ほら、痛そう。ダメだよ、自分の体は大事にしなくちゃ」
距離が近すぎる。陽子といいカレンといい、2人は時々距離感がバグってるんじゃないかと思う。
「も、もう大丈夫だから! 本当に!」
「そう?」
距離を即座に離す。まだ心臓が高鳴っている。
『おい、乳繰り合うのも大概にしろ』
「ち、ちちくりっ!?」
「下品な言葉を使うなっ」
『そんなことより、ほれ。らいぶ? とやらを見終わったぞ。今回も悪くは無かったな』
見るとパソコンの映像はチャプター選択画面で停止をしている。ばっちり全編通して観たようだ。
「素直に面白かったと言えばいいものを……」
「あ、これ『アイ☆テル』のライブ映像?」
「そうそうこれはその中でも特に感動的なライブで──はっ!」
すっかり陽子がいるのを忘れていた。
「そ、そう。これは3rdライブの映像。すごく面白いんだ、ははは」
『ん? いつもの早口はどうした? 今日はやけにゆっくりではないか』
「ちょっと黙れ……」
机の上に置いてある食塩をパッパと刀に満遍なく振りかける。
『うげげ! 塩はやめろ塩は!』
「……ふふっ。あはは! すごく仲良しだね!」
『仲良しぃ? 小娘は頭がイカれて──』
「コショウ持ってくるか」
『やめろ! くしゃみで呼吸困難を引き起こすつもりか!?』
「まぁまぁ。私は気にしてないから。それより、私もそれ、観ていい?」
陽子はパソコンを指さした。
「ライブを?」
「うん。音楽番組で踊ってるのは観たことあるんだけど、ライブ映像とかは観たことなくて。芦屋くんさえ良ければ、一緒に観たいな」
「う、うん。別にいいよ」
「やったっ。ありがとっ」
そうして陽子と一緒にライブ映像を観た。フルで観るのは時間がかなり要するので、できるだけ初心者向けのチョイスをして映像を再生する。
「……」
「……」
陽子は集中すると無言になるタイプらしい。こういった鑑賞会みたいなのは一緒に観ている相手と何か話さなきゃいけないのでは? と気遣うのが嫌だと思っていたが、陽子とは一言も喋らなかった。
『む……おい小僧。今の歌の途中でなぜ人間たちは奇声をあげているのだ? 尋常じゃないぐらい気持ち悪いではないか』
「コールな。気持ち悪い言うな」
マサムネの横やりはグサグサと侑李に刺さっていた。
「はぁ〜。終わったねぇ」
「ふぅ〜。素晴らしかった……」
ライブ映像が終わり、一息つく。
「なんか……すごいね! 私、詳しいことは全くわからないんだけど……とにかくすごかった! こう、うわーっ! って感じ!」
語彙力を失った陽子から解析不能な感想が告げられる。しかし、侑李もうんうんと頷く。侑李は初めて見た時はひどいことになっていた。
『おい、侑李。醤油取ってくれんか』
『あい』
『おい……こりゃマヨネーズじゃろ。醤油じゃ醤油』
『あー』
『おーそうそう。これを目玉焼きにかけてじゃな……ってこれはめんつゆじゃろがい!』
といった具合に、思考が完全に停止したものだ。
「芦屋くんはどの曲が一番好きなの?」
「え? そ、そうだなぁ……」
侑李の頭はフル回転。ここは王道を征くシングル曲の方が無難だろう。だがしかし、にわか扱いされることは間違いない。ここは──。
「ど、どれも良い曲ばっかで選べないなぁ」
「分かる! 選べないよね!」
あぁ、超無難な答えで済ましてしまった。
「カレンちゃんって、やっぱりアイドルなんだなぁ……。復帰ライブ、成功するといいね」
「……そうだね」
「原因が分からないのはモヤモヤするよね……あ、そういえば映像とか無いのかな。ほら、怪奇現象を捉えた瞬間の映像」
「いや……テレビで放送されてるのは全部編集された映像だから、怪奇現象が起こった瞬間の映像は残ってないんだ」
「そっか……あ、でも、編集前の映像とか残ってないのかな? 番組のAD? の人とか持ってたり?」
「それもレンレ──遠山さんに聞いてみたんだけど、持ってないって。カメラ回していないところで起こってたみたい」
「むむむ……」
陽子が頬を膨らます。事態が進展しないことに苛立ちを覚えているみたいだが、側から見ると可愛いだけだ。
「じゃあ私たちが守るしかないね!」
「守りたいのは山々だけど……流石にライブの時はどうしようも……」
「うーん。会場周りだけでもどうにかできないかな……」
侑李は頭の中で想像する。会場の外であの露出度の高い格好をした陽子がウロウロとしているところを。
「芦屋くん?」
「い、いや!? 流石にちょっと難しいかなーってね! 思ってね!」
「そっかぁ。私たちにできること、ないかなぁ」
二人して考えるが、特にいい案が出ることはなく、その日はお開きとなった。
「それじゃ、芦屋くん。お大事にね。なんだか顔色も良くなってるみたいだし、大丈夫だとは思うけど、無理はしないようにね」
「う、うん。今日はありがとう」
「困ってたらまず相談、だからね!」
陽子が手をひらひらとさせながら出て行った。
「困ったら相談、か」
陽子の言われた通り、侑李は身近なところに相談をすることにした。
「侑李。お前の部屋じゃが、結界を施しておいた。これでひとまずは大丈夫じゃろう」
宗一はお札を用意し、侑李の部屋にペタペタと貼っていった。これで朝起きたら悪霊に囲まれている、なんてことは無いらしい。
「ありがとう。じいちゃん」
「……なぁ侑李。あの子の事だが──」
「あ、そういえば! ねぇねぇゆーくん!」
凛がウザ絡みをしてくる。ガッツリ腕を組んできておかげで胸に腕が沈んでしまっている。
「あのですね、今じいちゃんと話してて──」
「今度ね、ゆーくんの好きな、えーと、あいてる? の人たちとお話できるかもしれないんだよ! すごくない?」
「……は?」
「ホントみたいだよ、凛姉の言ってること」
何を言ってるんだコイツは、と呆れていたが、咲希から補足が入る。
「私も話聞いたんだけど、今度『アイ☆テル』のライブやるみたいじゃん。そのライブの護衛を任されたんだって」
「そう! 咲希ちゃん補足ありがと〜」
「ちょ、撫でないでよ」
姉妹で百合空間を広げているが、侑李にとってはそんな空間はどうでも良い。
「それ、ホントにホントなんだな!?」
「ホントにホントだよ〜。ぶいぶい」
凛は両手でピースピースしている。こんな様子では到底信じられない。
「……後で遠山さんに確認してみるか」
「え〜。ホントなのにぃ」
急いで食事を取り、自室へと戻る。スマホを取り出し、アプリを開く。後は通話ボタンを押せば通話できるのだが、留まる。
「すぅー、はぁー」
深呼吸をし、息を整える。さぁかけようと思った時だった。
ピロピロピロン。
通話がかかってきた。その事に気づいたのと同時に、通話ボタン、ではなく応答ボタンを押していた。
「うおぅわ!?」
「へっ!? ど、どうかしたんですか!?」
聞こえてきたのはカレンの声だった。どうやらあちらも通話しようとしていたらしい。
「す、すごく早く出てくれましたね……」
「いや、これは、その……! た、たまたま俺も通話しようと思ってて……」
完全に引かれた。そりゃあ通話ボタン押してすぐに応答が帰ってきたら誰だってびっくりするだろう。
「……ふふっ。それなら嬉しいです」
ドン引きするどころか嬉しいと言ってくれた。通話の相手は女神なのかもしれない。
「えっと……それで、用事って……?」
「え? あぁ、えっと……そ、そう、報告! 近況報告です! 練習はきちんとできていて、特におかしな事は起きませんでした、はい!」
「そ、そうなんだ。それはよかった」
まだ1日しか経っていないのだが、と思ったが言わないでおく。
「……芦屋くんの方は、大丈夫ですか?」
「え?」
「何か危ない目にあってないか心配で……。今までも、共演者の方やスタッフさん達と仲良くなりだしてから、変なことが起きてましたから……」
カレンの声がどんどん小さくなっていく。自分のせいで、と責任感を感じているのかもしれない。
「心配しなくても、こっちは大丈夫。もし何かあっても、俺は対抗できる力を持ってるし、全然、大丈夫だから」
「……そう、ですよね。芦屋くんなら、きっと、大丈夫ですよね」
「うん」
本当は既に事が起こっているのだが、余計な心配はかけさせたくない。
「そ、それで、芦屋くんは私に何かお話があったんですか?」
「え? あ、そうだ!」
侑李は凛が言っていた内容を伝えた。
「そ、そうなんですか!? 確かに、ライブをする際には警察の方にも協力してもらうと言っていたような」
「じゃあ本当なのか……」
凛の話が本当であるとこれで確信が持てた。それが分かれば自分のすることは自ずと決まってきた。
「俺、ライブ会場の警護に協力できないか相談してみる」
「ほ、本当ですか!?」
カレンの声が大きくなる。
「す、すみません。急に大声出して」
「い、いや。まだ決まったわけじゃ無いんだけど、姉さんに頼んでみるよ。まぁ、役に立つのかは分からないけどね……」
「……いえ、絶対に役に立ちますよ。少なくとも私は、芦屋くんがいるだけで、安心できますから」
「え……?」
「あ、明日も早いですから! そろそろ電話切りますね、それじゃ、おやすみなさいっ!」
「あ、お、おやすみ……」
思わせぶりなセリフに思わず顔が赤くなり、心臓の鼓動が早くなってしまう。
「よし……!」
侑李は早速行動に移した。
「いいよ〜」
「いいの!?」
凛に頼んでから紆余曲折あると思われたが、こうもあっさり返事を貰えるとは思わなかった。
「いや、そんなの姉ちゃんだけで決められるもんじゃ無いと思うんだけど……」
「大丈夫だよ〜。まぁ、お姉ちゃんがどうこうするんじゃ無くて、最終的にはおじいちゃんに協力してもらう事になると思うけどね」
「じいちゃんに?」
「おじいちゃん、ああ見えて結構警察の人たちとコネがあったりするんだよ? きっと大丈夫だよ」
確かに、宗一がたまに警察のらしき人と話をしているのを何度か見た事がある。霊媒師としての仕事をするにあたって警察と仲が良ければ仕事がやりやすいんだとか。
「じゃ、早速相談してみよう」
凛と一緒にリビングへと向かい、風呂上がりの宗一に相談する事にした。
「ダメじゃ」
「ダメじゃん」
「あれぇ?」
凛が大丈夫だと言っていた頼みの綱はあっさりと引きちぎられてしまった。
「いーじゃん、けちー」
「けちではないわ。警察に頼み込むのも簡単な話じゃないんじゃぞ? それに、ワシらは霊関係ならまだしも、生身の人間相手には素人じゃ。もし不審者が侵入した時に侑李のせいで警察の方たちの仕事を邪魔するような事態になるやもしれん」
宗一の言うことは何一つ間違ってはいない。しかし、このまま引き下がれない。
「頼むよじいちゃん。俺、どうしても遠山さんの力になりたいんだよ」
「……侑李。ワシは何と言われようと──」
「俺が霊媒師を継ぐって言ったら?」
「え、まじ……?」
一瞬にして宗一の心は揺れ動いていた。
「ま、まぁ家業を継ぐことも視野に入れてもいいかなーと」
「言ったな? マジなんじゃな?」
宗一の目の方がマジである。
「……俺の力が遠山さんの役に立ててるかもしれないって、最近思うようになってさ。こんな風に、誰かの助けになれるのなら、悪くないかも……とは考えてる」
「……成長したな、侑李ぃ……」
「いや……何も泣かなくても……」
「いや……お前は成長したぞ、侑李。お前の成長に免じて、今回はワシも警察の方には話をつけておこう」
「ほ、本当か!?」
「あぁ。任せておけ」
「よかったね、ゆーくん!」
「二人とも、ありがとう……!」
宗一は涙ぐみながらも頼みを聞いてくれた。後は、当日に備えるだけだ。
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