第6話 護身用の刀
放課後、カレンと屋上で話すのがすっかり日課となっていた。毎日が夢のようでびっくりする侑李だった。
「ということで、霊力をあげて霊を祓うっていうのは現実的じゃないみたいなんだ」
「そうですか、残念です」
「確認したいんだけど、あれから変な現象は起きてない?」
「……はい、今のところは」
取り敢えずのところは大丈夫らしい。宗一が渡したお守りも後日改めて渡したので、その辺りは安心だ。
「……やはり、霊感を身につけたりするというのは無謀なんでしょうか」
「そうだなぁ。あるっちゃあると思うんだけど……」
「あるんですか!?」
ずずい、っと距離を詰められる。
(か、顔が近いぃっ!)
カレンから発せられるいい匂いに頭がおかしくなりそうだが、口の中で舌を噛み、平静を装う。
「こ、これは非常にリスクが高い方法だから、あまり言いたくはないんだけど……ごふっ」
「あの……口から血が」
「お気になさらず」
ふきふきと口元から垂れた血を拭う。少し強く噛みすぎてしまったらしい。数日後には口内炎になってしまうこと間違いなしだ。
「遠山さんは俺の家に来た帰り道、変な気配を感じたって言ってたよね」
「はい。あの時は、誰かに見られてたような気がしました」
「うん。実際、あの時は悪霊が遠山さんを狙っていたからね。あの感覚を鍛えることができれば霊感が身に付くはず、だけど」
「だけど?」
「前みたいな悪霊は見つけようと思って見つけるものじゃないんだ。偶然見つけちゃった、って事例が圧倒的に多いと思う。それに、あれぐらいの悪霊じゃ、変な気配を感じたぐらいにしかならないと思う」
カレンに聞いたところ、カレンの周りで起こってた怪現象が発生する前に、妙な感覚は感じなかったという。であれば変な気配を感じる、ぐらいではダメだということだ。
「俺の経験則ではあるんだけど、強い怨念を持った悪霊、これは悪霊の上位互換の怨霊って言うんだけど、それと対峙した後に霊を感じる力が強くなったことはある」
「ということは、すごく悪い霊を見つける必要があるんですね」
「うん。ただ……」
そんなすごく悪い霊なんて最近は見たことがない。敢えていそうな場所に近寄っていない事もあるが。
「身近にいればいいんだけど……」
「あ、あれはどうですか? 最近クラスの人たちで話題になってる5つの怪談……あの手の話なら、追っていけば怨霊がいるのかも……」
「え、聞いたことないんだけど……」
「え、クラスの人たちが話してたはずですけど……」
一瞬、空気が凍る。
「あ、そ、そうなんだ。へ、へぇ〜。そういえば聞いたことあるかも、ははは」
真っ赤な嘘である。
1ミリも聞いたことないのである。
侑李は大体金山くんとオタトークで盛り上がっているため、学校でホットな話題の情報などまるで入ってきていないのである。
(在学期間の長い俺より詳しいって……さすがレンレンだ……)
きっとクラスの人たちがひっきりなしに話しかけるので自然と学校の情報も入手しているのだろう。
「七不思議ならよく聞く怪談話ですけど、5つの怪談って初めて聞きました。ふふっ、ちょっと面白いですよねっ」
「そ、ソウダネー。えっとちなみにどんな話だっけ。最近物忘れが激しくて……」
「えっと、確か……」
カレンから話を聞いて、5つの怪談の全貌を知った。
一、音楽室のトロンボーン
二、理科室のアルコールランプ
三、図書室の呼び鈴
四、トイレの花子さん
五、家庭科室の包丁
「うーん……なぜ定番と微妙に違うんだ……」
「そ、そうですね。トイレの花子さんは定番ですけど……」
5つの怪談はさておき、学校という場所は恨みや生前の後悔が発生しやすい場所であることは確かだ。悪霊、さらには怨霊が出てくる可能性は少なくはない。
「……調べてみるか」
「本当ですか!?」
また距離が近くなる。心臓がいつ破裂するかヒヤヒヤする。
「で、でも行くなら俺が1人で……」
「それじゃあ意味がないじゃないですか。強い悪霊と対峙しないと霊感は鍛えられないんですよね?」
「そうだけど……あ、危ないよ」
「……心配してくれるんですね」
「そ、そりゃもちろん!」
思わず声が大きくなってしまった。カレンもびっくりしている。
「ふふっ、優しいですね、芦屋くんは」
「い、いや、その……」
「でも、ここは譲れません。それに、もし危ない目に合ったら、芦屋くんが守ってくれますよね?」
「う……」
上目遣いで見つめられる。まるで魔法がかかったように、侑李は肯定することしかできなくなっていた。
「……がんばってみるよ」
「やったっ」
カレンの魔力にまんまと乗せられ、夜の学校探検が決定してしまった。
「というわけで、ちょっと学校に行ってくる」
「なーにがというわけで、じゃ!」
「そうだよっ! もし何かあったらどうするの!? お姉ちゃんをショックで殺すつもりなの!?」
猛烈に反対された。主に宗一と凛にだが。
「でも、これぐらいしか方法が浮かばないんだよ」
「……まぁ、侑李の言うことも間違いではない。実際そういう事例は数多くあるからな」
「おじいちゃん?」
「あ、はい。怖いから睨むのはやめていただけると……」
凛の目が赤く光っているように見える。前世で人殺しでもしていたんじゃなかろうか。
「でも、おにぃいるんだから大丈夫なんじゃない?」
「咲希……!」
「囮にも使えるし」
「咲希ぃ……」
お前なんぞどうにでもなってしまえ、と言いたげな顔だった。
「でも、夜の学校なんて危ないからダメだよ。霊の問題だけじゃなくて、不審者とかいたらどうするの?」
「う……それは……」
凛の言う通り、霊が襲ってきても侑李は対処できるかもしれないが、大の大人が襲いかかってきたらと思うと足がすくんでしまう。
「でも……俺はレンレンの為に力になりたいんだ。推しの為に何かできるのなら、何かできる力を持っているのなら、俺は──」
「……はぁ」
凛は深くため息をついた。
「いつの間にか逞しくなっちゃって、もう」
「ね、姉さん?」
「ゆーくんが本気だってことは分かった。でも、一人で行くのは危ないから、お姉ちゃんがついていく!」
「あ、ありがとう! 姉さんがいれば絶対大丈夫だよ!」
「もう、煽てすぎだよぅ」
と、モジモジして可愛らしい様子を見せているが、姉の職業は警察官である。しかもバリバリの肉体派。この前も銃を持った銀行強盗3人組を一人で、しかも素手で制圧したとかしていないとか。
「侑李」
宗一から真面目なトーンで声をかけられる。
「な、なんだよ」
「お前は天性の才能を持っていることは確かじゃが、それでも夜というのは悪霊が活発になる時間じゃ。もしものこともある」
「……覚悟はしてる」
「たわけ。覚悟は万全の状態に加えて必要な心構えじゃろうが。今のお前はそもそも万全ではない。少し待っておれ」
宗一は立ち上がり何処かへ行ってしまった。そして、少しすると布に包まれた棒状の物を持ってきた。
「コイツを持っていけ」
「何これ」
包まれた布を取ると、出てきたのは紛れもなく刀だった。
「……ホンモノ?」
「ホンモノじゃ」
「ちょ!? これ銃刀法違反ってやつじゃないのか!?」
「アホ! ちゃんと許可は貰っとるわい!」
「お姉ちゃんも了承済みだよー」
警察官がそう言っているのなら問題はない、のかもしれないが、家にこんな立派な刀があるなんて知らなかった。
「そいつは祖先から代々伝わる芦屋家の家宝じゃ」
「そんなもの使っていいのか……っていうか俺刀なんて使ったことないけど」
体育の授業で剣道の経験があるぐらいだ。もちろん使っていたのは竹刀だし、真剣なんて使ったことなどある訳がなかった。
「妖刀マサムネ。ご先祖様が使いこなし、数多の悪霊怨霊をこの刀で薙ぎ祓ってきたという伝説の妖刀じゃ」
「妖刀……」
メルカリとかで売ったら高値で売れるのでは? と侑李は売ったお金で何が買えるかと頭をフル回転させる。
「お前、売ったら何が買えるかとか考えとるんじゃないだろうな」
「……べ、べっつにぃ〜」
「ばっかもん! この罰当たりが! そんなことをすれば間違いなく呪われるぞ!」
貸せい! と宗一が侑李の手からマサムネを奪い取り、少しだけ刀身を覗かせて見せた。その刀身にはお札のようなものがベッタリと貼られている。
「良いか? この刀は呪われておる。呪われておるから妖刀なのじゃ。その呪いは悪霊すら喰らうそれは凄まじい呪いなのじゃ。今はこうして刀身を護符で包んでおるから心配はないがの」
「へぇ」
侑李が護符に手を伸ばそうとする。
「こらっ! 剥がれたらどうする!?」
「そんな粘着力弱いのかよ……」
「万が一があったら困るじゃろうが! お〜怖い怖い!」
宗一は怖がっているが、侑李は全く信じていない。どうせ都市伝説のようなものだろうと思っていた。
「とにかく! 万が一はコイツを使え」
「はいはい。分かったよ」
宗一から刀を授かり、その刀身をまじまじと見る。護符の隙間から覗かせている刀身を見るに、護符が剥がれた時にはさぞ綺麗な白銀の刀身が見えるのだろう。
(くくく……)
「うん?」
侑李は刀に耳を傾ける。
「何をしとるんじゃお前は」
「いや、刀から何か聞こえたような……もしかして音声機能でもついてる? ヘイ、マサムネ。悪霊の位置は?」
「いや、Siriじゃないんだから無理でしょ」
咲希が冷静なツッコミを入れてくれる。とにかくこれがあれば強い悪霊が現れてもどうにかできるらしい。
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