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それは眼球を潰さんとする程の攻撃的な光だった。
眼前の光の中にあの日の妹に似た誰かが立っている様な気がして、眼球に激しい痛みを感じつつ、佐柳は恐る恐る右手を前に伸ばして、妹の名前を叫ぶ。
しかし、妹と思われる何かにその声が届く事はなく、彼女の肢体に纏わりついている光の障壁が依然として強い光を放つばかりで変化の兆しすら認識できない。
佐柳は伸ばしていた右腕をだらりと脱力させた。
次第に左腕も両足も胴体も力という力が抜けていってしまい、糸の切れた操り人形の如く、その場に崩れ落ちてしまう。
もがこうと叫ぼうと体と口を動かすが、路上の芋虫の様に肉体が小さく蠢くだけでステーキを貪っていた口もあぅあぅと喃語に似た音しか出せない。
その場で見悶えていると口の端から唾液が溢れ出し、顎に伝う。
佐柳はこの状況に深い絶望感を感じ始めていた。唯一の肉親が自分の呼びかけに振り向かない事や俯瞰した時の自らの醜さ。誓ったはずの信念の軽薄さ。
様々な思いが圧縮し、疑念の種となり、佐柳の中で絶望が花開く。
突然の無気力感に維持していた首の筋力でさえも解け、唾液でまみれた地面に佐柳は頬を落とす。
いつしか生暖かい感触は冷たくなっていた。
もう、眠ってしまうか......。
佐柳は広大な光の中、ちっぽけな闇を胸に抱え、そのまま瞑目した。
ドンドンドン。何かの衝突音が聞こえる。
佐柳はその音に導かれるようにして目を覚ました。視界には灰色の壁が広がっており、それが自身の愛車の天井であると気が付くのにそれ程時間はかからなかった。
音がしている方向に視線を送る。
そこには小綺麗な格好した若い女が神妙な表情で窓を叩いていた。佐柳はリクライニングを元に戻し、見知らぬ女と顔を突き合わせる。
車内で横になっていた男が平然と起き上がってくる様子を見た女は窓を叩く事を辞め、胸をなでおろした。
佐柳はそんな外野を気にも留めず、助手席に置いてあった携帯電話に手を伸ばす。
現在時刻を確認した佐柳は驚愕した。
画面は20:00をさしており、ここで休眠を取ってから既に12時間あまりもの時が流れていたからだ。
佐柳は頭を抱える。不意に触れた額や耳の裏が汗で滲んでおり、指先で滑る感触が「光の夢」の存在を確かなものにした。
長時間、気絶してしまう程の壮絶な頭痛は嘘だったのかと思う位に沈静化していて、佐柳は嵐が過ぎ去った後の様な清々しさと安寧を感じていた。
背もたれにどっぷりと体重をかけて、深く息を吸っては吐いた。呼吸を繰り返す度にこそばゆい感覚が肺を駆け巡る。
落ち着く頃には女はいなくなっており、彼女に遮られていた夜景と窓に付着した手垢が目に映りこむ。
「はぁ......」
何に向かって溜息をついたのか、佐柳の脳は追及しなかった。
走光 Miyazawa5296 @fuwasawa
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