3

 男から受け取った銀色のケースが行き交う車の光を反射し、佐柳にまとわりつこうとする夜の闇を切り裂いた。


 駐車場のガードレールを跨ぎ、車内に戻った佐柳はアタッシュケースを助手席に置いて、ターゲットの情報が入っている端末の画面を見つめる。


 「情報の取り扱い方か……」


 佐柳は男からの忠告を頭の中で反芻した。


 上部の車内のライトに照らされている端末には何かを睨みつけるかの様な目が映り込んでいる。


 これまで上層部より賜ってきた、ターゲットのデータには一寸のミステークも無かった。


 ここまで疑う事を知らずに任務に勤しんできた佐柳にとって、去り際の男の一言は鉛の様に冷たく重たくのしかかるものだった。


 軽く溜息を吐いた後、佐柳は左胸のポケットに端末を挿入した。


 そしてとある場所へ向かうために車を疾駆させる。


 街を構成しているネオンが徐々に光の線となり、小夜を駆け抜ける漆黒の車に屈折した。


 目的地に到着する頃には日を跨いでおり、携帯の時刻表示はAM3:00を示していた。


 佐柳は車の引き出しに入れていた、懐中電灯を片手に暗闇の更に奥へと歩を進めていく。


 懐中電灯の小さな灯りを周囲に散らしながら、目的の所まで歩き続ける。


 「佐藤、新田、前島、小林、関口……」


 いつしか目で追っていた、数々の苗字が佐柳の口から飛び出ていた。


 だがそこには目当ての名字は無く、風に吹かれて鉄の手摺にぶつかる卒塔婆の乾いた音だけが聞こえる墓地をただひたすらに進むしかなかった。


 約10分が経過した時、佐柳は求めていた名前との邂逅を果たす。


 「佐柳 るり」


 それは彼にとって、かけがえのない唯一の家族の妹の名前だった。


 「──すまない」


 佐柳はそう呟きながら、砂と雑草で汚れていた妹の墓石を撫でる。


 すっかり冷たく、硬くなってしまった妹の月日を思いながら佐柳はその場にうずくまった。

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