エピローグ

 くゆる煙のその先に。

 見えた景色は鮮やかで。

 たしかにはっきりと見えたのだ。

 年中靄がかかったような景色から、くっきりとはっきりと鮮やかに艶やかに。

 輝かしい未来と思しき夢さえも見えたのだ。



 そして見たくもなかった現実もまた、払った煙のその先に見えてしまったのだ。

 貴方と、そして貴方にとても良くお似合いの人が一緒に歩く姿を。


 こんなことならいっそ何も見えなくて良かったのかもしれない。

 煙に巻かれて五里霧中、暗中模索で良かったのだ。

 強すぎる刺激に当てられるくらいなら、靄のかかったこの場所で、白い煙の毒に麻痺しているくらいで良かったのだ。


 しかし不思議と後悔はない。

 後悔するということは、貴方との出会いすら否定するということ。

 貴方との出合いに後悔はない。現実に打ちひしがれた今だって。

 ただ一瞬見えかけた夢が、ただの夢であったことが確かめられただけ。

 それを人は絶望とも言うのかもしれないが、貴方から貰えるものならばたとえ絶望であっても愛おしい。

 もはや多くは望まないのだ。

 くゆる煙のその先は見えなくて良い。

 くゆる煙のその先に抱く希望などもはや微塵もない。

 私はここで貴方と顔を合わせられたらもうそれで良い。

 飄々とした貴方に。

 煙のように掴みどころのない貴方に。

 灰になるまで焦がれるだけで丁度良い。

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くゆる煙のその先に 山橋 雪 @setsu_yamahashi

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