夢現
喫煙所を出た。刺すような夏の日差しが私を出迎えた。
目が眩み、思わず目を細めながら下を向いた。
自分の心とは裏腹な夏の陽気に思わず小言が出た。
「酷い日差しだ」
見覚えのある靴が視界の端に見えた気がした。
「ええ、本当にね」
聞き覚えのある声だった。
聞きたかった声でもあった。
「…………何だか久しぶりですね」
返答できたは良いが、顔を上げられない。まだ目が眩んでいる、ということにしよう。
「そうですね、中々会えなくて寂しかったですよ」
「…………私も」
「…………何か悪いものでも食べました?」
「いいえ?」
「そうですか。何だか想像もしてなかった嬉しい言葉が聞けたので」
「……ほ、本心を…………述べただけです」
「……そうですか。……ここから出てきた、ということはもう煙草は吸い終わったってことですよね?」
「はい」
「そうですか、夏休みに入っちゃう前に最後に一緒に一服でもなんて思ってたのですが。少し遅かったですね」
「…………」
「…………」
「あの」
「はい」
「その……」
目も明るさにすっかり慣れている。けど顔は上げられなかった。顔が熱い。いま顔を上げたら…………また…………でも……
「…………じゃあ、お昼ごはんでも食べに行きますか」
「は、はい」
「煙草の吸える喫茶店で。ゆっくりお話しましょうか」
「……はい」
「思えば僕たち、お互いのことあまり知らないですしね」
「はい」
「…………そうしたかったのでしょう?」
ドキリとした。思わず顔を上げてしまった。彼と目があった。あの綺麗な、悪魔のように美しい、見惚れてしまう笑顔があった。
目が離せなかった。先の言葉を否定しようとしたのに。本心を見抜かれたことが気恥ずかしくて、でも何だか嬉しくて、そんな気持ちを紛らわすために否定しようとしたのに。言葉が出ない。
「そうだったら嬉しいなって思ったんです。僕もそうしたかったから。じゃあ早速行きましょうか」
「……はい」
彼と私は歩きだした。
不思議な関係性、煙草が繋いだ関係のその先に。
くゆる煙のその先に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます