襲撃
「ほう、豪勢なものだな」
神之介は、素っ裸だ。太刀は外でおかみに預けた。今襲われたら、などということを彼は全く考えていない。
「おかみ、いい身体をしているな」
おかみは、浴衣を着ていない。素っ裸だ。つまりそういうことだろう。
「山上様こそ」
おかみは背中に回ると、豊かな胸を押し付けてきた。
「すごい刀傷、これだけの傷があってよくご無事で」
神之介の全身には腕や足といった部分だけではなく、肩口から脇にかけてや、腹など致命傷にならなかったのが不思議なほどの傷が多くあった。
「ああ、俺は普通とは少し違ってな、父親が山の神と一発やってできた子供らしいから。まあなかなかくたばらん」
「御冗談を」
神之介は冗談を言った覚えはなかったが、まあそれはいい。
おかみの指が、全身をこすっていく。前に回ったおかみの指が、分厚い胸板をいとおしそうになぜ回す。
「立派なもの、何人女子を泣かしているのやら」
へのこを優しく包む。
「泣かしてはおらんぞ、ひいひいは、言わしているがな」
「私も言わしていただけるので」
「もちろんだ、そのために今日はやって来た」
「だんな様のことでおいでになったのばかりかと」
「そうでも言わねば、会ってはくれまい」
「まさか、所司代様のお言葉添えがある方をむげには致しません」
「そりゃあ、店では逢うだろうが、ここでこういうふうにはな」
神之介はおかみの豊満な胸に手を伸ばした。
弾力と柔らかさのつり合いが絶妙に取れている。肌はきめが細かく手のひらに吸い付いてくる。
おかみの舌が肩口の傷を舐める、手はへのこを握って離さないままだ。
「おかみ、先ほどの話だが」
「え、何のことでございましょう」
「亭主を殺めたもののことだ」
「そのお話は後」
おかみは妖艶にほほ笑むと、へのこに唇を近づけてきた。
舌がへのこを舐っていく。
「おう、いい、この身体で何人誑かした」
神之介は、そう言いながらもおかみの肩をつかむとその体を向こうに押しやった。
おかみが、なぜというような顔で彼を見上げた
「もちろん味わうつもりだが、それは一仕事のあとだ」
神之介がそう言ったとたんに、風呂場の扉がいきなり開けられた。
おかみは小さく悲鳴を上げ、いざるように逃げる。予定されていた行動だろう
太刀を振りかぶった侍が絶叫とともに飛び込んできた。
実際は飛び込んではこれなかった、鴨居に太刀を斬りこんだのだ。侍の顔が一瞬青ざめた。
立ち上がった神之介は、一足飛びに侍の正面に飛び込むとみぞおちにこぶしを叩きこみ同時に股間を蹴り上げた。
声もなく崩れ落ちた侍を押しのけ、廊下に出た神之介は刀掛けの置かれていた太刀をとり鞘を払った。
廊下には、二人の侍がすでに太刀を抜いて待っていた。
「貴様ら、俺を誰か知っているか」
「知らぬな、金をたかりに来た浪人など」
「そうか、それは残念」
神之介は侍の一人に向けて太刀を無造作に突き出した。
太刀は狙いたがわず、侍の胸を貫いていた、躱す暇が全くない早さだった。
「あっちで閻魔に聞かれたら答えてやれ、山上神之介に殺されたとな」
「あ、あの山上」
が、三人目の侍の最後の言葉だった。侍は右腰から左肩に向けた逆袈裟に切り上げられていた。
その後ろで、腰を抜かした男、番頭だろう。
「残念だったな、今度は、もう少しまともな奴を雇え。少なくとも風呂場で太刀を振りかぶるような愚か者は雇うな」
「は、はい」
番頭の股間が濡れていた。
「ま、次はこの世ではないがな」
いうなり神之介は手首だけで太刀を水平に振った。血が吹きあがり、頭が皮一枚残し横に傾いた。
風呂場の入り口で倒れていた侍にとどめを刺し中に入ると、おかみは気丈にも正座をして威を正していた。
足元が濡れているのは、番頭同様小便を漏らしたのだろう。普通の人間が人が四人斬られるのを見れば当然のことだ。
室町武芸帳 ひぐらし なく @higurashinaku
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