三島屋

 うさぎは、寺の前でふるまわれる功徳風呂以外の風呂に初めて入った。

 湯気が立ち上る湯屋、浴衣を着せられ、座っていると汗が噴き出してくる。

「どうだ、なかなかのもんだろう、あの巫女も、いやなんでもない」


 番頭は、うさぎの浴衣に手をかけ上半身をむき出しにすると、手桶で水をかけてきた。冷っとするが、ほてった体に気持ち良い。

 そうか、もみじもこの振る舞いを受けたのか。その時は主人は生きていたはずだが、それでも番頭はそんなことができたのか。


 疑念がわいたがうさぎは考えない、神之介に話をするだけだ。

「冷たいけど、気持ちいい」

「そうかそれじゃ全身にかけてやろう、浴衣を脱ぎなさい」

「番頭さんも、脱いでくださいよ、わたしに擦らせてくださいな」


 風呂は汗をかいた肌を手でこすり垢を流す。風呂場で女が男の垢をすれば、当然なるようになる、

 へのこの垢をすると、というより指で上下すると、へのこはむくむくと大きくなった。


 番頭はうさぎの胸の垢を擦ってくれた、乳首が固くなり、うさぎの口から切なそうな声が漏れる。

「お前、若いのに、感じやすいな、どれこっちはどうだ」

 うさぎは脚を開いた、この男がどんな悪党でも関係ない、とりあえず、まぐわいたかった。




「どうだ良かったか、お前の男に比べてどうだ」

「男なんていません、どっかの男に夜道で操を散らされて、あとはお金をくれる男かおとこ前か適当に相手を変えています。でも番頭さんが一番気持ちよかった」


 番頭の顔がだらしなく、たるんだ。

「どや、今夜は泊っていくか、一晩可愛がってやるし、銭もやる」

「ほんとですか、うれしい」

 うさぎは番頭の背に回ると乳房を押し付けた。

「でも、大丈夫なんですか、私のようなもの泊めて心配じゃないですか?」


「ああ、盗人のことか、心配いらん。もともとこの家に」

「よかった、じゃあ朝まで可愛がってくださいね」

 うさぎは番頭の失言を聞こえなかった振りをした。


 生まれて初めて酒というものを飲まされ、ふわふわした気分で、うさぎは朝までまぐわった

 その間に、番頭はずいぶんいろいろと話をしてくれた。


「おおきに、ありがとうございました、またごひいきに」

 うさぎは番頭の口を吸ってやった。


 それにしても本当に朝までやりまくられるとは思わなかった。ほと全体が少し熱を持ったみたいで痛い。歩くと、じわっと中からこぼれてくるものがあって困った。


「おう、お疲れ、待ってたぞ」

 長岡天神の前で神之介が待っていてくれた。

「え、一晩待っていてくださったんですか、申し訳ありません」

 神之介を待たせて自分は乳繰り合っていたのだ、仕方がないとはいえ、ちくっと心が痛んだ。


「大丈夫だ、ここの巫女にいい女がいてな、そいつとやってたから、気にするな」

 神之介が笑った。



 帰ってから神之介は、うさぎ、もみじと話をした。

 うさぎが言うには、もみじが相手をしたのは主人ではなく、番頭ではないかというのだ。


「うん風呂に入れられ、口取りをして、膝の上に乗せられた。そのあとで四つん這いにされて後ろから責められたよ」

「お前たちそんなにやられたのか」

「あの男、うまかったから」


「ほう、それは聞々捨てならんなあ。俺とどっちがうまい」

「それは」

 うさぎともみじは顔を見合わせた。

「神之介様かな、でも、ほら最近してもらってないから」

 もみじは言外に抱いてほしいと匂わせている。


「ずるい、もみじったら」

「俺は二人一緒でも構わんぞ」

「したい、です。でも今朝まで責められてまだ中がひりひりするんです」

 うさぎは、本気で残念に思った。


「そうか、じゃあ、今日はもみじと、だな」

「またぁ、ずるい」

「今度ちゃんとやってやるから、今日は我慢しろ」

「ほんとですよ」

 うさぎは念を押した、最初に女にされて以来、まだ一度も神之介に抱かれていないのだ。


「ま、それはさておき、うさぎはもみじが呼ばれる前に主人が殺されていた、そういうんだな」

「はい、あの番頭、妹を内儀に押し込んで、あの店を乗っ取ったんじゃないかと」

 番頭が口を滑らせた内容も、うさぎは二人に話して聞かせた。


「また、口の軽い迂闊な奴だな」

 うさぎもそう思う、多分頭の悪そうな小娘だと油断したのかもしれない。

「頭が悪いのはどっちだって話だよね」

 もみじが笑った。


「じゃあ、私は冷やして寝ます。もみじ可愛がってもらいな」

 うさぎはちょっと悔しいが、今日はおとなしく寝ることにした。この件が終わったら腰が抜けるほど神之介様に抱いてもらおうと思った。


「所司代から連絡があったと思うが」

「山上様でいらっしゃいますね、お待ちしておりました」

 所司代から手を回して、三島屋に乗り込む手はずを整えたのだ。


 おかみは、小股の切れ上がったいい女だった、年のころは二十五、六か。そろそろと島のたぐいだが、脂が乗って、しごろともいえそうだ。確かにもみじが言うとおりこの女を抱いている男が、もみじに触手が動くとは思えない。


 神之介は、穴さえあれば誰でもいい、というぐらい節操はない。ただ普通はなかなかそうではないだろうと思う。少なくとも金はあるのだ、同じ巫女でももっとおいしい女を呼ぶだろう。


「して、山上様のご用件は」

「お前を抱きに来た」

 おかみは一瞬息をのみ、そして笑い出した。


「失礼しました、山上様があまり突然に冗談をおっしゃいますので」

 おかみはひとしきり笑った後で、詫びを言った。


「冗談ではないのだが、なあ、おかみ、亭主を殺したのは誰だ」

「それは所司代様がお縄にされた、巫女の」

「それは嘘だな。あの巫女、うさぎが呼ばれた時点で、もう亭主はこの世におらなんだはずだ」


「何の証拠があって」

「それは、番頭が知っている。あの男口が軽すぎる」

 おかみの顔色が一瞬変わった。彼女自身も兄のうかつさは分かっていると神之介にはみえた。


「そこでだ、お前の身体に聞こうと思ってな、ついでにお前の後ろ盾も」

 神之介は小細工は嫌いだ、直截的におかみに問うた。

「風呂があるそうではないか、まず垢でも落としてもらえるかな」











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