第6話 襲撃

「あたしは何もしてません」

「諦めろ、お前が押し込みの手引きをした、そうなっている」

「そうなっているって、どういうことですか」

「店のご内儀と番頭がそう申して居る、お前が何を言ったところで変わらん」


 侍は酷薄そうな笑みを口の端にうかべた。つまり、もみじが押し込みの仲間であろうとなかろうと、関係ないということだ。

「仲間のことを話してもらおうか」

 捕り手の男たちが、もみじの着物を剥ぎ取ると素っ裸にした。

「なかなかいい身体をしているな」

「さきに楽しむか」

「そうだな、責めに掛けるのはそのあとでも」


「おい、まずは儂からだろう、手足を押さえておれ」

 侍は袴を脱ぐと、下帯をずらし、へのこを取り出した。

「やめろ、いやだ」

 侍はもみじの頬を思い切り張り倒した。

 口の中に鉄の味が広がった。どこかが切れたに違いない。

「担ぎ巫女風情ががなにをいう、あちこちで股を開いておるんだろうが、いまさらグダグダ言うな」

「どうせ首を斬られるんだ、その前に俺たちを楽しませるのが、最後の務めや」

「なんであたしが」


「誰かの首を斬らねばならん、ならばお前みたいなものが一番いいに決まっているだろう、どこからも何も言われん」

 もみじは悔しくて歯を食いしばった、所詮自分は世の中では犬猫同然なのだ。

「楽しませてくれれば、責めはなしにして、このまま首を刎ねてやってもよいぞ」

 もみじは侍の顔に唾を吐きかけた。

「このくそあまが」

 腹を蹴られ息がつまった。


「まあ、三宅様まずは突っ込んでから、体が汚れると楽しみも。半減します」

「裏返せ、お前たちのどっちでもいい、口に突っ込んでやれ」

 三宅と呼ばれた侍は、もみじの尻を抱えるといきり立ったものを、いきなり突っ込んだ。

「ぐう」

 もみじの口から悲鳴が漏れた。開いた口に取り手の一人がへのこを突っ込んだ。吐き気を催す匂いだった。


「おう、締まる、締まる」

 三宅はもみじの中に遠慮会釈なく放った。ほぼ同時に捕り手も口の中にはなった。

「俺は表がよいな、女子はやっぱり乳じゃ」

「痛い」

 残る一人がいきなり乳首をつねり上げた。

「ほう、ほう、その苦しそうな顔がいいわ」

 三番目の男も三宅のものでぐしゃぐしゃになっているほとに、へのこを突っ込んできた。

「三宅様、このまま首を絞めてもよろしゅうございますか」

「またか、お前それで何人遊女を殺した」

「いいではないですか、どうせ首を刎ねるのですから」


「そんなにいいなら俺がやる、出したら代われ」

 捕り手の男は不承不承ながら頷いた。

 それでももみじが気を失う寸前まで首を絞めると放った。

「三宅様、わしもほとでいかしてくださいな」

「仕方ないのう、さっさと終われよ、首を絞めたいとこの手が騒いでおる」


 何を勝手なことを言っている、もみじは苦しい息の中でわが身の不幸を嘆き、男たちを呪った。

 神之介様、助けてください、だめならせめて仇を、もみじは遠のく意識の中で祈っていた。


「ぎゃぁ」

 突然悲鳴があがった。最初に口の中で放った捕り手の身体が、上下二つに分かれた、血が天井まで吹き上がる。


「なんやおのれは」

 もみじの中にはなったばかりの取り手が、六尺棒を振り上げた。うなりをあげて振り下ろした六尺棒は、闖入者の脳天を砕いたかに見えた。

 振り下ろしたところに闖入者はいなかった。

「こなくそ」


 再び六尺棒が振り上げられたとき、男の上半身は、左のわき腹から肩口に抜ける線で、ふたつに分かれた。

 肩の上に乗った頭部は、なにが起こったのかわからず口をパクパクさせている。

 闖入者はその口に太刀を突き刺すと頭の上に向かって太刀を動かした。

「ぐえ」

 鈍い悲鳴とともに頭部が左右に分かれ脳漿が流れ出た。


「神之介様」

「だ、誰じゃお主、侍所でこのような狼藉、ただではすまぬぞ」

 三宅は震える声で虚勢を張った、へのこが小さく委縮している。


「山上神之介ともうす」

「山上? あ、あの山上様」

 どのように太刀をふるったのか、三宅のへのこが、ぼとっと落ちた。

「ひい」

 三宅の情けない悲鳴が上がった。


「もみじどうする、お前がけりをつけるか」

 神之介が、小刀を差し出した。

「いや、あたしは」

 いくら憎くても、もみじにはやっぱりできそうになかった。

「うんそれでよい、ひとたび手を血に染めると、行きつく先は無間地獄だからな」

「ほれ、とっとと太刀をとれ」


 腐っても三宅も侍だった、太刀を抜くと中段に構えた。と見るや否や。

「きえぃ」

 裂ぱくの気合とともに神之介めがけて切り込んできた。

 神之介が切られた、もみじは思わず目を閉じた。

 何とも言えぬ鈍い音に目を開けたもみじは、頭から股まで左右に分かれた三宅の姿を見た。ほぼ魚の開きだった。

 人の死体なんぞは珍しくないご時世だったが、それでももみじは吐き気をこらえきれなかった。


 さ、帰ろう。太刀の血を三宅の着物で丹念に拭い、さやに収めた神之介はもみじに手を差しだした。

 たすかった、助かったんだ、気が抜けたもみじは腰が抜けた。

「仕方がないな」

 神之介はもみじを抱き上げた。


「狼藉もの、なにものだ」

「所司代の松田に伝えておけ、山上が愚か者を成敗したと」

「山上? 山上神之介様?」

 侍たちは道を開けた。





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