第六幕 宇宙からの侵略者(その九)
あれから暫しの日々が流れた。
オレは相変わらす「スーパーヒロイン」をお勤めする日々が続いている。
毎日ヘロヘロになって帰って来てヘロヘロのまま、部屋のど真ん中へヘロヘロと倒れ込むのも日課になった。
陽に焼けた畳の匂いが鼻腔をくすぐるのは悪くない。好きなときに雑魚寝できるのが日本家屋の強みである。無論、コレだけで全てがチャラにできる訳でもないのだけれども。
このところ短期決戦が続いていて気の休まる暇が無かった。世間のサラリーマンの方々もこんな具合に日々ヘロヘロなのだろうか。それとももっと会社でコキ使われて更にヘロヘロなのか。
ともあれ仕事でヘロっていることに双方変わりはないと思う。もうヤダなぁと思うコトだって一度や二度じゃない。楽しいだけの仕事なんて在り得ないのである。
あれば良いのに。きっと誰も反対なんてしないだろう。
しかしヒーローやヒロインに休息は無いのだ。次の
土日の休みは有るけれど。
「・・・・」
腹が減ったな、と思った。
「ニュートさん、次の予定はどうなるの」
倒れ込んだ上体を起こして彼女に今後の予定を聞いてみた。聞きたくはないけれど逃れられないのだから仕方がなかった。
「本日でようやくケリが着きましたね。今回分の処理が先程終わり、次のプログラムは現在調整中です。赴任日は二日後に通達されるでしょう。それまでは再びトレーニングですね」
そうか、それならちょっとはゆっくり出来る。練習は練習で辛いけど。
制服は既に届いております、と言われた。部屋の隅にキチンと折り畳まれたシャツは白地に紺色の襟が見えた。たぶんセーラー服だ。
「また女子高校生なのか」
「女子中学生の方がお好みでしょうか」
「尚更駄目だよ!」
しかし立て続けに三件目である。二ヶ月にも満たぬ内にコロコロと現場が変わるお陰で馴れる暇がない。一つの現場に三週間以上務めたのは最初の北高くらいのものだ。それに馴れるのが仕事ってもんなんだろうけれど、忙しないコトこの上なかった。
「転校生としての立ち位置も随分と手慣れて来ましたね。JKマスターといったところでしょうか」
ニュートさんは軽く言う。っていうかその二つ名は止めて欲しい。そもそも、学校以外の仕事場に派遣された事が無いというのはどういうコトなのだろう。芳田さんは単純に喜んでいるけれど。木島さんは羨ましいとか言うけれど。正直オレは全く以てそんな気分には為れなかった。
「兎も角、研修期間は次の業務で終了の予定です。ポイント的にはゼロではないプラスといった程度で見るべきものは有りません。ですが概ね順調と言って良いでしょう。動画の方も本社の評価は上々です。再生数がデビュー前の新人とは思えないと言われました」
毎回ギリギリすれすれの闘いが手に汗握る興奮を呼び、視聴者を惹きつけるのだとか何とか。別にオレや芳田さんは狙ってやっている訳じゃない。結果的にそうなるだけで楽に勝てるのならそれに越したコトはないのだ。
よもや本社の担当者は、端からそれを狙ってセッティングしているのではあるまいな。実に在り得そうな話で、次もまたそうなのではないかとイヤな予感が拭えなかった。
「その内ご主人様には高校生ヒロイン専任の声が掛かるのでは、ともっぱらの噂です」
「何処で誰がそんな噂流してるんだよ。って、ああそうね本社の企画部なんですよね。はい分かってて言いました」
オレの女子高生地獄はまだまだ終わりそうにもない。というかこの仕事をやっている限り延々と続いて行きそうな雲行きである。本当にやれやれだ。
「仕事が評価され、引き合いが在ると言うのは喜ばしいコトではありませんか」
「まぁ確かにそうなんだけれどもさぁ」
オレはまた小さく溜息をついた。
「ちょっと前に木島さんのサポート役のヒトから聞いたのだけれども」
「
「カチカチ社が『全人類美少女化計画』とかいう、よく分からない計画を推進しているって本当?」
「はい、本当です。それは全社上げての一貫した計画で、ご主人様が契約されたプログラムもその一環です。ちなみに木島さんが属するヌフ社は『全人類美少年(ココが要注意点です)化計画』を推進しておりますので、カチカチ社とは真っ向から相反するライバル同士です。
ご主人様もご存じの通り、現在は協定企業同士の対決は凍結されていますが、コタツムリの脅威が去った暁には、敵対する企業の筆頭に挙げられることは間違いありません」
うわ、マジか。てっきり冗談か中傷の類いかなと思っていたけれど、出来れば全面否定して欲しかった。
「ちょっと前に聞いた、オレが死ぬまでこの若い女性のままだってコトもそれと関係があるってことだよね」
「勿論です。寿命が尽きるまで(脳細胞の寿命が百年ちょっとなのでソコまで)若い頃のまま肉体は絶好調です。これがこの契約の最も重要なポイントであり、契約者への最大のギフトであり、カチカチ社の業務目的そのものです」
「女性ばっかになったら人類滅ばない?」
「大丈夫です。生殖の時のみ遺伝子の潜在性をうりゃうりゃして、生殖細胞単位での男性因子を目覚めさせ、お互いの子宮内で受精させるので問題ありません。バッチグーです」
「それなら普通に男性が居た方が面倒ないと思うけど」
軽い頭痛を伴いながらオレは密かに溜息をついた。
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