5-7 『侵略者から地球を守ってくれ』
終業の時間になったが、わざわざオレのクラスまでやって来て「帰りにお茶でもしませんか」と誘う芳田さんにすいませんと断りを入れ、その足で生徒会室に向った。
「彼女を袖にして宜しかったのですか」
「うーん、何故だか判らないけれど学校の外で彼女と二人っきりっていうの。
何だか落ち着かないんだよ。ソワソワしちゃってさ。
別に彼女の事を嫌っている訳でも無いし、人格的にも仕事の先輩としても尊敬しているから自分でも不思議なんだけどさ」
「成る程。危険を察する能力は高いのですね」
「え、なに。それはどういう意味?」
「何でもありません。それよりも何故このタイミングでわざわざ敵の牙城へ?」
「牙城ってコトないでしょう、ただ単に彼女が生徒会長っていうだけで。
それにちょっと訊いてみたいこともあるしさ。
気が進まないのならニュートさんだけ一人で帰ってもいいけれど」
「そんな邪魔者あつかいしなくても良いではないですか。それとも本当に私が居ては不都合が在るのでしょうか」
「在ると言ったらどうするの」
「何時になく冷たいですね」
「キャプテン・グラージ、いや木島さんがオレの下宿に来た時に彼女の相棒とかいうヒトが居たでしょう。
同じように生徒会長にもサポートのヒトが居たら喧嘩にならないかなと思ったんだよ」
「無用の心配です。
現に何度も戸隠会長とは対面しているではありませんか。
それにあの時はアレが相手だったからです。
誰彼構わず喧嘩を売っている訳ではありません」
「それを聞いて安心したよ」
「棒読みの台詞に聞こえます」
「何時になく冷たいね」
ニュートさんとのやり取りをしている内に生徒会室の前に来た。
部屋の中に人の気配は在るものの果たして彼女が居るかどうかは分からない。
どうかなと思ってノックをすると「どうぞ」との返事があった。
「あら、いらっしゃい。その気になってくれたのかしら」
部屋の中には会長ともう一人の男子生徒が居た。
「そのつもりは無いのですが、それ以外にちょっとお伺いしたいことがありまして」
「それはわたしとあなた、個人的な相談事という事なのかしら」
「個人的というか何というか、まぁそうかもしれません。学校関係の話では無い事は確かです」
「そう」
軽く返事をすると少し目を眇める仕草をした。
視線の行き先がオレの目線を少し外れて、左肩の辺りを眺めているような気がする。
「沢川くん、少し席を外してくれるかしら。この方と二人きりでお話をしたいの」
傍らの男子に話し掛けているハズなのに、視線がオレの方から外れることが無かった。
:ご主人さま、わたしも席を外します。
突然頭の中に声が聞こえて一瞬ビビったが、それでも素知らぬ振りは押し通す事が出来た。
そのままふっと左肩の小さな重みが消えて、彼女の気配は男子生徒と共に部屋の外に消えていった。
「それで、どんなご相談なのかしら」
「少し前に芳田さんへ手紙を出しませんでしたか」
「ああ、果たし状のお話ね。もっと切羽詰まった内容かと思ったわ」
「決闘とは剣呑です」
「そうかしら。わたし達の間柄ならば穏便な手段だと思うのだけれど。
禍根を残さず、という訳にはいかないでしょうけれども周囲に被害も与えないし、ソコで決着が着けば一区切り着けられる。
邪魔も入らないししがらみも無い。
少なくとも勝った方はスカっと出来るわ」
「もう隠すつもりもサラサラ無いのですね」
「今更でしょう。
件の彼女ですら素顔を晒して居るというのにわたしだけコソコソしているのが莫迦莫迦しくなっただけよ。
ひょっとしてそれを確かめたかったというだけ?」
「いえ、他にも幾つか。
戸隠さんが組みしている組織が急に掌返ししたのは何故なのか、とか、学校を拠点にしているわりにはやっていることは随分と穏当だな、とか。
素朴な疑問というヤツです」
「随分と直裁的ね。もっと寡黙で大人しい性格だと思っていたわ」
「搦め手や腹芸は苦手なので。色々と悩むよりも本人に聞いた方が早いと思いました」
「普通は思っても直ぐに実行しないものよ。しかもこんな直球で。訊けば答えるとでも思っているのかしら」
「ダメ元です。行動しなければ何も始まりませんから」
「まったくもう。師匠から研修生だと聞いていたのだけれども、そうとは思えない大胆さね」
「師匠?」
「あら、とうに気付いているものだと思っていたわ。わたしはゴールデン・ゴーグルの弟子、G・G二号よ」
「えっ!」
「そんなに驚くほどのコト?」
「・・・・」
「・・・・ちょっと。どうしたの、動かなくなっちゃって」
彼女の声かけで我に返った。
「い、いえ。ちょっと意外に過ぎて・・・・」
驚いたというのは随分と生ぬるい表現だ。
ホントにちょっとだけ意識が飛んでいたのかも知れない。
「そ、そう。ソコまでかしら?それで何だったっけ、そう、掌返しがどうとかという話だったわね。平たく言えば初志貫徹ということよ」
「どういうコトです」
ちょっと意外だった。
真っ向から質問して真っ当に返事がもらえるとは思っていなかったからだ。
言質は兎も角、精々ヒントかなにか得られればソレで充分と考えていたからだ。
「わたしたち末端は上の意向に振り回される存在だけど、時折その趣旨を直々に聞かされることもあるわ。
例えば大口の契約が入り営業方針が一八〇度変わるときとかね」
「裏切りでしょ、それ」
「物の見方が違うだけよ。
それにわたしが務めているクォッタツゥムリの方針がより正しく正義を貫いていると云えるわ。
何故そう言い切れるのか?
簡単よ、地球政府から直々に『侵略者から地球を守ってくれ』と依頼があったからよ。
本社はそれを実行に移したというだけの話。
わたしたち地球人にしてみれば正しい判断よね。
侵略者にしてみれば反逆もよいところだけれども」
「は?」
「ソコも知らされてないの?一番肝心な部分なのに。全くブラックもイイところだわ、あなたたちの所は」
その実、地球世界には統一された巨大な意思決定機関が在る、彼女はそう語り始めた。
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