第五幕 正体(その六)
「いったい何のつもりだったんだろ、あの人」
「単純に引き抜きだったのではないのですか」
「引き抜き?芳田さんの元からってコトなのかな」
確かに、今のチーム芳田は生徒会にとってちょっと面倒くさい集団になりつつあった。殆どが生徒会の、というか会長のアンチになっちゃったし。
「間違ってはいませんが少し違いますね。正味チームカチカチ社、ご主人様と芳田さんのスーパーヒロインコンビからでしょう」
「え、ちょっと待った。それって彼女がアッチ側の人だったってこと?」
「はい、間違いなく」
「オレや芳田さんがソレの当人だと気付いていると」
「そうですね、ほぼ確信しています」
「何時判ったの」
「あの果たし状の文字を見たときからです。彼女の筆跡でしたから。彼女も気付いているモノだと思って接触して来たのでしょうに、ご主人様の朴念仁っぷりに肩すかしを食ったコトでしょう。
或いは自然体のポーカーフェイスに油断ならぬと、無駄な警戒感を持ったかもしれません。いずれにしても良い展開です」
「知っていたら何故教えてくれなかったの」
「知っていたら先程のように平然と対応出来ましたか。ギクシャクして真っ当に受け答えすることも難しかったのではありませんか」
そんなコトを言われたらぐうの音も出ない。戸隠さんがそうと判って居たら間違いなく無様な醜態を晒した筈である。オレのような小心者に腹芸など夢のまた夢なのだ。
「言っていることは納得出来るけれど、面白くないのも確かだよ」
「申し訳ございません。しかし誤解しないでください。私はご主人様の為にここに居ます。ご主人様が全てです。不名誉や不利益になることは誓って致しません」
決して上目線ではなく声には真摯な響きがあって、オレはそれ以上何も言えなくなってしまったのである。
朝の顛末を芳田さんに話したら「あら、まぁ」と言っただけで終わった。
「芳田さんも気付いていたんですか」
「果たし状をもらった辺りから何となく。確証はありませんでしたが」
「・・・・」
ひょっとして、オレは極めつきに鈍いのではなかろうか。察するという技能を何処かに落として来てしまったのではないのか。誰か親切な人が交番に届けてくれていないだろうかと願った。
「あらあら、そんなコトはありませんよ。不確かな思いつきで物事を決め込むよりは十倍マシです」
「オレのココロを勝手に読まないでください」
「判り易いものですから」
全然フォローになっていない。傷口に塩塗り込んで何が楽しいのだろう。
「端から気付かれるであろうと察していたのなら、果たし状に名前書いておけばイイのに」
そうすれば余計な恥をかかずに済んだよ。
「証拠になるものを残しておきたく無かったのではないのですか」
「え、何故」
決闘などやらかしたら最早隠す意味も無い。
「当事者だけが判っていれば良い、周囲の人間に累が及ぶのを好まなかった、とか。
あくまで予想ですけれどもね。ニュートラルグレーさんが一目でそれと知ったように調べれば直ぐに分かります。しかし、一般の生徒のみなさんに何かの拍子で目に触れて騒ぎになることが嫌だった、そう考えれば筋は通るでしょう」
「あ、なるほど・・・・」
ということは相手も公にはしたくないってことか。
それもそうか、正義の味方だの何だのってオレたちだけの話だもんな。しかしそれでも封書の表に果たし状と大きく書き込むのってどうだろう。どう考えたって一般的な内容じゃ無いと一目瞭然だ。
「自分の顔と正体を隠して公開処刑って線もありますけどね。わたしは顔を隠すつもりなどサラサラ在りませんし、向こうもそれを承知の上でしょうし」
それは嫌だ、オレなら全力でご辞退申し上げます。
「わたしはそうだったらな、と思っていますよ。むしろそうしてみようかしら。ギャラリー不可なんて果たし状には書いてありませんでしたし、衆人監視のなかコテンパンにしてやったら溜飲も下がります。あるいはその場で仮面を剥ぎ取って差し上げるというのも面白くはないでしょうか」
「ソレってすっげー性格悪いですね。まるで悪の手先のやり口ですよ」
「相手はコチラをそうだと断言するのでしょうから、その思惑通りに演ずるというのも一興でしょう。むしろ親切と云うべきではありませんか」
この人を敵に回したくは無いな、と思った。
「結果がどちらに転ぼうとも、この学校のお仕事は今週末までです。おパンツの紐を締め直して励むとしましょう」
まぁフンドシではないよね。
「ご主人様、紐付きのパンティをご用意した方が宜しいでしょうか」
「単なる比喩なんだからソコまでこだわらなくてもいいよ」
週末まであと二日であった。
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