魔王の親友
よ!久しぶり。元気?随分雰囲気変わったじゃん。垢抜けか?お前、好きな子でも出来たわけ?…なんだよ照れるなって。俺とお前の仲だろ?教えてくれたっていいじゃんか。な?な??
…え、どうしてここに来たかって?
いや、お前に会うために決まってんだろ。10年振りだぜ?俺たち。いや〜なんか急に思い出しちゃってさぁ。10年前のお前はまだ魔力も少ないし気も弱いような奴だったじゃん?虐めてくる周りの奴らからお前を助け出してやってたの誰だと思ってんの。…いやぁ、まあお前は話せば面白い奴だったからな。正直気が合ったというか、こいつともっと話してぇなーって思ったから邪魔の入らないところにお前を連れていこうとしてただけなんだけど。それが結果的にいじめから助け出す事になったってわけ。
…ありがとう?
いやいや、そんな悲しそうな顔で言われても嬉しくないって。こんな立派な屋敷で、慕ってくれる部下も色々やってくれる召使いも居る生活中々味わえないよ?もうちょっと幸せそうな顔しろって。まあ俺はお前はやるときゃやる奴だって信じてたけどな!それにしても凄いよな、ここ。広すぎてたどり着くまでにだいぶ時間かかっちまったよ。ややこしすぎない家の中?俺迷いかけたよ?まあ良いとこだけどな。…ちょっと辺境にあるのが不便だけど…
…え、何?「最後に話せて嬉しかった。殺してくれ」?
いやいやなんてこと言うんだよ。物騒だぞお前。どうした?10年前はそんな事言わなかったじゃん。てかお前殺して俺に何の得があるんだよ。ちょ、泣くなって!ほんっとお前は昔から変わんねえな、泣き虫のまんまだ。
__まあ、世間はお前の死を望んでいるのかもしれないけどさ。お前は人に害をなす「魔物」の支配者なんだから。なんだっけ、魔王?はは、かっけえ。
でもな、国が、世界がお前の死を望んだって俺はお前が大切だ。お前はこんな俺と仲良くしてくれた唯一の友人なんだ。失ったりしてたまるものか。
…え?「でも君は僕を倒す為にここに来たんだろ」?
あー…。まあ、名目はな。確かに俺は神の信託を受けて勇者になったよ。お前を倒す為にって、沢山の人が俺に力を貸したさ。笑えるだろ?親友を殺せと色んな人に言われるんだぜ?最早狂気だよな。俺もちょっと怖かった。…そんな事思ってたらさ、共に旅する仲間とかも出来なかったわ。結局俺はぼっちだよ。ぼっち勇者。ははっ!
__なあ、俺と逃げ出さない?
どうせ魔物を支配してるって言ったって、お前のことだから勝手に向こうが崇拝してきただけだろ?魔王が魔物を作ったわけじゃないんだし。結局ちゃんとお前のこと理解してんのって側近のドラゴンさんだけだよな。さっき扉の前で会ったんだよ。事情説明したらちゃんと納得してくれたし。なんなら「よろしくお願いします」まで言われたぞ?あいつちゃんとしてんな。モテるわあれは。…ドラゴンじゃなかったらだけど。
話が逸れた。で、本題なんだが…
まず俺はお前を殺したくない。けれど国からお前を殺すよう圧力をかけられている。逆らうわけには行かない。で、お前も死にたくないだろ?じゃあもう役目を放棄して逃げちゃえばいい。外の国の人は俺たちの事情なんて知らない。うちの国でかいけど他国とあんまり上手く付き合えてないから情報行ってないみたいなんだよね。
俗に言う「亡命」ってやつさ。大丈夫、俺とお前なら上手くやれるって。昔だってよく授業抜け出してさぼったじゃん。今回だって何とかなるさ。
…「でもこの国の人達はどうするの」って?
お前は優しいな。油断してると殺されるぞ?
…まあ国は大丈夫だろう。魔物を倒せるような強い兵士って案外ごろごろ居るから。あいつらが何とかしてくれるだろ。側近のドラゴンさんはお前の意思でない限り人は襲わないだろうし。
なぁ、俺はもう嫌なんだよ。お前が悪く言われるのも、こんな役目に囚われてんのも。全部投げ出しちまおうぜ!!他の国に行って、ただの無害な一般人として美味しいもんでも食べて暮らせばいい。そのうち運命の人にも出会えるかも…なんてな。
ほら、行こうぜ。
…やっと笑ったな、お前。
うん、やっぱお前は笑ってる顔の方がよく似合う。
長い旅になるぜ、覚悟しとけよ。
それじゃあ___出発!!
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