名探偵くまのぬいぐるみ

郊外のとある住宅街に、警察も認める腕のいい探偵の男が住んでいた。どんな難事件であろうと的確に犯人を見つけ出し、どんなトリックだろうと暴いてみせるその姿は多くの人を虜にし、男の所には沢山の難事件が届く。

そして今日も名探偵は、「相棒」と共に事件現場へと向かった。

「今日もよろしく頼む、相棒。」

「おうよ!」

男の腕の中、元気よく返事をした彼の相棒は__少し色褪せたクマのぬいぐるみだった。

       

         ☆


「今回の殺人事件の容疑者は4人です。まず__」

都内で起こった、典型的な殺人事件。その現場で探偵は、相棒にこっそり話しかけた。

「…で、今回の犯人は誰だと思う?」

「この女の人だよ、間違いないね」

ぬいぐるみが指したのは、被害者の妻である女性の写真だった。成程、被害者である夫の財産目当てと考えれば納得は行くが…

「何故そう思った?証拠は?」

「あるわけないじゃん、そこは君の仕事でしょ」

ぬいぐるみに聞いても、帰ってくるのはそんな答えだけ。探偵はため息をつきながら、現場をよく観察する。他にも凶器や近くに落ちていたものを調べ、近隣の住民などから情報を集め__

「犯人は貴方だ!」

探偵は、ぬいぐるみの言っていた女性を指さした。現場から判断した証拠、トリックなどを解き明かせば、女性は膝から崩れ落ちる。

「そうよ、私がやったのよ…」

女性はすぐに逮捕され、今回も事件は無事解決となった。

「いやあ、流石名探偵。どんな難事件も解決してしまうとは恐れ入りました。」

警察のそんな言葉に、探偵は笑う。

「いやいや、相棒こいつのお陰ですよ」

探偵が腕の中のクマのぬいぐるみを指して笑うと、警察はよく分からない、と言った様子に首を傾げた。


        ☆


「今日もお疲れ名探偵。」

探偵は事務所に帰ると、クマのぬいぐるみにそう声をかけた。…なにせ、彼が今こうして探偵として食っていけるのは、この確実に当たる勘をもつ相棒のお陰なのだから。

「はっはっは。明日も頑張ろうな、相棒!」

クマのぬいぐるみは、腰に手を当てて豪快に笑う。

(あっという間に大きくなったな…)

まだ買ってもらったばかりで動くことも出来なかった頃、探偵の男が少年だった時代に、一緒に探偵もののアニメを見ながら男が目を輝かせていたのをぬいぐるみは思い出す。

目の前の探偵は、あの頃と変わらないまま、それでも確実に歳をとって幸せそうに笑っていた。

(君のためなら僕はいつまででも動こう。僕は君のためだけに犯人を見つけよう。だから…)

(置いて行ったりしないでくれよ、相棒)


今日も、名探偵は事件を解決する。

腕の中に小さな相棒を抱えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る