拾った猫が可愛くない
1週間前、川辺で捨てられていた猫を家に迎え入れた。
そんなに汚れてはいなかったのだが、初対面の人間に対しても大人しく、可哀想に思った同僚が連れてきたのを猫を飼っていた経験のある私が引き取った…の、だが。
「いっだ!また噛まれた…」
この猫、どういうことか私にだけ懐かない。連れてこられた時にも周りの人には威嚇しなかったくせに、私にだけは勇敢に猫パンチを飛ばしてきやがったのだ。
「ぶっちー、ほらご飯だよ」
先代猫も気に入って食べていたウェットフード(高いやつ)をあげても気に食わないのか知らんぷり。人の家に来たばっかりで緊張しているのは分かるが…、ちょっと当たりが厳しいような気がする。1度病気かと思い病院にも連れて行ってみたが、健康そのものだった。そもそも同僚があげた全く同じやつは食べていたじゃないか。
「かわいくないやつ。」
呟けば通じたのか、またシャーっと威嚇されてしまった。はいはい分かりましたよとその場を離れれば、私が傍に居なくなったのを確認してから食べ始める。なんだかその態度にもイラついて、私も負けじとコンビに弁当をむさぼるのだった。
「顔色良くなったね」
それから数日後、件の同僚にそんなことを言われて思わず目を丸くした。
「私そんなに体調悪そうだった?」
「かなり悪そうだったよ。隈も濃かったし」
…そういえば前は空が明るくなってくるまで起きていた気がする。何となく眠れなかったのだ。
「何?猫パワー?」
「いや、そんな訳…」
からかうように聞かれ、否定しようとしてふと思い返す。あの猫、夜になると私が電気を消すまでにゃーにゃーうるさく騒いだから、早めに布団に入るようになったんだっけ。そうしている内に何だか眠れるようになって…
「…そうかも」
まさか、あの子がそこまで考えて?と思ったが、あのふてぶてしい猫がそんなことに気が回るとは思えない。偶然だろうか。それとも…
「ただいまー」
帰った途端、猫はなんじゃワレ!と言わんばかりにこちらに威嚇してくる。いつもの事なので適当にあしらってご飯を与え(流石に毎日高いものをあげる訳には行かないので、今日は普通のカリカリ)、自分も弁当を温める。
弁当が温め終わるのを待っていると、ふと部屋の隅に脱ぎ捨てていた服が不自然に凹んでいるのに気づいた。触ると、少し温かい。
「…かわいいとこあるじゃん」
ちょっぴり笑うと、早くもご飯を食べ終わった猫は照れたようにそっぽを向いた。
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