第1話 彼の夢


「その夢、叶えて差し上げましょうか」


さっきまで、神社に居たはずだ。いつの間にか白い空間にいて、目の前には見知らぬ男性が立っている。




 部活の帰り道、友人達と別れて近所の神社への道を歩く。いつも部活の帰りに寄っている。それから、いつものようにお賽銭10円でお参りする。


(神様、今日も来ました。

あんまり苦労しないで、プロ野球選手になって、沢山年俸が貰えて、モテますように)

お参りする内容まで、ルーチンワークだ。

この神社が、武芸やスポーツにご利益があると聞いてから、ずっとお参りしている。


子供の頃から、野球が好きだ。テレビで活躍する野球選手達が好きで、ずっと野球選手になりたいと思っている。それもあって、小学校の時には、近所のリトルリーグに入っていた。中学になってからも野球部に入って、続けている。


成長してくると、著名な選手の年俸や、美人な奥さんなどにも興味がわいた。でも、それもモチベーションになって、練習を頑張るなら、良いじゃん、とも思う。



で、不思議な空間で男は夢を叶えてくれるという。


「対価は、あなたの寿命です」

「お願いします! 」

この神社の神様だろうか? 速攻でそう答えたのは、神社の延長という感覚だったのだろう。



 甲子園の常連校に入学した。毎日の練習は辛かったけど、それでも頑張った。2年になってレギュラーになり、その年、夏の甲子園で準優勝した。次こそはと望んだ翌年は、甲子園には行けたが準々決勝で敗退した。


ドラフトでは、指名4位でプロ野球選手になった。数年かかったが、念願の1軍の選手となった。ようやくレギュラーに定着したが、その年は惜しくも球団は優勝を逃した。


球場入りした時に、

「サイン、下さい!」

一人の少年が、マジックとボールを差し出してきた。

「僕も、呉田選手みたいに、カッコいい野球選手に、なりたいです。頑張って下さい」

目を輝かせて、その少年が言った。

「おう、君も頑張れよ」

その少年の去っていく後ろ姿に、かつての自分が重なった。


「良い、だ」

思わず、ほろりとこぼれた。



気がつくと、元の神社の前に立っている。

「あれ、白昼夢? いや、もう日は沈んでるけど」

首を傾げて、家路を急いだ。

「ようし! 明日も練習、頑張ろ。今日の夕飯、何かな」



「やれやれ、いたずら半分でちょっかいをかけましたが。大した収穫にならず、残念です。

ふっふっふ。

この時代も、色々な人々がいて面白そうですね」

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