第2話

ティルルル…


発車のリズムに追い立てられて、座席が満遍なく埋まった車両に乗り込む。


暑さに疲れた私は、ポツンポツンと空いた席を見廻す。


何故か空いた席の真ん前には、必ず人が立っていた。


人が、本能的に避ける場所には。


昔、誰かから聞いた話をずっと憶えている位小心者の私は、動き出した列車の振動に耐えるべくいっとう近い吊革に掴まった。


次の駅で乗り込んだ、華やかな印象の女性は、ひょろリとしたサラリーマンを躱して空いた席に座ると、コンパクトを取り出して化粧直しに余念が無い。


その次の駅では、1人席を立ち、2人分空いた席にカップルらしき高校生が座って、取留めの無い会話で盛り上がっている。


そのまた次の駅で神経質そうなサラリーマンが残りの席に座るのを横目に、私は降車した。


ホームから振り返り、改めて車内を見送る。


コンパクトを覗く女性の首には、荷物棚から伸びた長い手が巻付き、カップルの目の前で長い髪の同じ制服のカップルが笑いながら手首を切り落とした。

神経質そうなサラリーマンが開いたパソコンのモニターから、玩具のサルが手に持つシンバルで彼のコメカミをエンドレスで挟み叩いている。


サンバンホーム、ドアガシマリマス。


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コンクリートのすみ。 嗤猫 @hahaneko

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