第二十七章 ⑤天の組織図・オーガニゼーション⑵

 ダイアローグ(対話)は続いている。

 イレーズが話し出す。

「あ、そうそう。実は数年前から『かみいけチャンス』が始まったんだよ」

 凛花は問う。

「神池チャンス……、ですか?」

「うん。冥界いちばん最下層した無間インフィニティ地獄ヘルから『黄泉ターニン』への移行確率は限りなく皆無ゼロに等しい。だけど『かみいけチャンス』によって輪廻リーイン転生カーネイションできる可能性が与えられたんだ」

 ゲイルが頷く。

「そうだ。年に一度、高き天からかみいけつうじて奈落の底の霊界ヘルに『すくいの光芒こうぼう』が降り注ぐ。そこですくい上げられた者たちは黄泉ターニング界へと転送される」

 クロスは不敵に笑う。

「クッ、ククッ、クッ……、奈落の住人には生前犯した罪に比例しておもりが付けられている。しかしる日の或る、その重たい肉体が数分間だけ宙に浮かぶ。その好機の折り(タイミング)に天から差し伸べられた『掬いの光芒』に乗っかることができれば黄泉ターニンへと転送されるんだヨ。まさに奇跡の夜……、だよなァ?」

 シップが補足する。

無間インフィニティ地獄ヘルじゅうするのは、万物の生命を軽んじた傲慢ヴァニ不遜ティ人間、虚偽ペテ詐欺によってぜいを極めた貪欲姑息人間、計算高く底意地の悪いマニピュレーターなどである。しかしそんなやからにも『ゆるしの王』は温情を向けている。それこそが年に一度、極秘執行している六世界合同行事『神池チャンス』である」


 凛花は問う。

「年に一度の神池チャンスを掴むことができれば、霊界(地獄)での苛烈かれつ処罰は即座に終焉しゅうえんするのですか?」

 ゲイルが応える。

「そうだ。浮かんで、すくい上げられて、落ちなければ、黄泉界へと転送される。そして機が熟せば人間界(欲界最下層)に輪廻リーイン転生カーネイションする。つまり、生まれ変わって再スタートができるのだ」

 クロスがおどける。

「そうだヨ! やっとやっと『改悛かいしゅんの心』が芽生えてつかんだチャンスだ。今度こそはコツコツコツコツ数値を積み上げて、最期さいごの日まで悪事あくじや意地悪をせずに生き抜くんだ。そうして死没後に『イイトコロ』に転送されるように精々せいぜい精々せいぜい頑張ればいいんだヨ、なァ?」


 ゲイルは威儀いぎを正す。

「改めて申し述べる! 冥界王(魔王)や魔神の面々は、伝記にいて極悪非道の悪者としてあつかわれている。しかしそのじつ、多くの濡れ衣を着せられ地獄へとされた『被災者』なのである」

 凛花は驚く。

「魔王や魔神が冤罪えんざい被害者ひがい被災者しゃ……、ですか?」

 ゲイルは首肯しゅこうする。

「そうだ。彼らは生前、善人を装った悪人におとしいれられている。不条理にさらされ、理不尽のき目にった過去を持つ」

 イレーズは嫌悪感けんおかんあらわにする。

「そう……。信じていた者に裏切られわなめられた。濡れ衣を着せられて悪人に仕立て上げられた。そうして有無を言わせず抹殺まっさつされた者たちなんだよ。だから冥界インフェルノの魔神たちは人間を忌み嫌い、極度にうらんでいる」


 凛花は問う。

「いつか史実があきらかになって、魔界の神々の無念は晴らされますか?」

 シップは大きなため息をらす。

「うーむ……、残念だがそれはきびしいな。適切な流記るき(年譜)は、遥か昔に燃やされ灰と化した。史実の多くはいまだ解明されずやぶの中。故意にやみほうむられ消失した。そもそも歴史とは曖昧あいまいなもの。さながら、まるで、あたかも、たとえて、しかれば、なのだよ」

 ゲイルが同調する。

「善人(人格者)をよそおった極悪人が史実歪曲わいきょくを指示した。権威者に有利な捏造ねつぞう文書を作成して流布るふさせた。さらに歴史教育や洗脳ブレインウオッシュによって脳内にり込んだ。……そうして捏造ねつぞうと改ざんの虚説ペテン脈々みゃくみゃく綿々めんめんと語り継がれて浸透し、現今げんこんに至っている」

 クロスが吐き捨てる。

「まァそもそも? 真相解明できる頭脳の持ち主と、史実を正しく認識理解できる人間が少なすぎるんだヨ」

 凛花の心は沈む。虚偽虚飾の世界に失望してしまう。

 イレーズが優しくなぐさめる。

「そんなに落ちこまないで? 確かに少し前までは暗中模索あんちゅうもさくの闇の中だった。だけど今は新時代(未來王時代)が到来したんだ。だからこれからの未來は変わるはずだよ?」

「……はいっ」


 シップがべる。

「もはやこの世は世知辛せちがらく『生き地獄』だと感じる者が多いだろう。それは至極当然である。現状はすでに末期まっきなのだからな。

 しかし未來王時代は極大なる『救いの枠』と『すくいの温情』が残されている。再生可能な輪廻リーイン転生カーネイションシステムが稼働かどうしている。さらには六世界の友好関係が築かれている。キングられるこの現世は、かろうじてギリギリの幸運期であるとえるのだ」

 ゲイルはうべなう。

「そうだ。この先もしも未來王が消えたとしたら赦免しゃめん(ゆるしとすくい)は無くなる。冥界との友好関係は終わる。冥界王と魔神たちにかすかに芽生えていたれんじょう(あわれみの心)は消え失せる。そして転生の仕組み(ストラクチャー)は完全消滅する。つまり、すべてがジ・エンド(一巻の終わり)となるのだ。……しかし現今げんこんは奇跡的に六世界の均衡バランスが保たれ神々の連携がある。だからこそ闇雲やみくもに悲観してはならない。希望を失うのはまだ早いのだ」

 クロスは口角を上げる。

「まァ? 俺たちの本音としては? 愚かな人間共どもがどうなろうが知ったこっちゃあねェ。だけど王の下命が『すくえ、ゆるせ、応援しろ』なんだヨ。だから仕方なく……、なァ?」

 ゲイルは首肯しゅこうする。

「極等万能祭司は王のために存在し真価しんかを発揮する。そして我ら四人衆と天界・魔界の神々は未來王を慕い、敬い、愛している」

 クロスはニカーッ、破顔する。

「未來王の基本形は超クール! だけどたまーにワァオッ! スッゲェ優しいんだヨ! ツンデレ……、たまらないヨなァ?」

 イレーズが同意する。

「そ。普段は素っ気なくてつれないけどさ。気まぐれに一緒に遊んでくれるんだ。たまーに長時間お喋りしてくれることもあるよね」

 シップも同調する。

「うむ。過剰に愛想が良いわけではないが、気さくで気取らない人柄である。時折見せる柔らかな微笑ほほえみ……! アルカイックスマイルが美々びびしいのだよっ」


 ゲイルがまとめる。

「現況にいて。黄泉界ターニングと人間界は繋がっている。兜率天とそつてんと魔界は繋がっている。そして六世界は強固な絆を有した『巨大球体』なのである。

 未來王時代の今、『天赦てんしゃ恩赦おんしゃ』は極大である。しかれば今こそ! 世紀末の貴重な時間ときを無駄にするのは勿体もったいない。日々に研鑽して、藻掻いて、足掻いて、奮起して。自らを高め、人生をもっともっと楽しむべきなのだ」

 凛花は得心する。

「未來王が天界と相反あいはんする対極(冥界)をも網羅もうらしているからこそ、六世界を統制マスタ統括リーできているのですね。……清々すがすがしくて高潔ノー冷厳ブルなる世界観、まさに未來王そのものです」

 クロスが調子に乗る。

「オオッ! さすがはイレーズのディアーだな! 賢くって良い感じだゼェ? それじゃあついでに『神池チャンス』について教えてやろうかァ?」

 凛花は瞳を輝かす。

「わわっ、もしかして! 天地がひっくり返ったお話ですか?」

 シップがあわてていさめる。

「こらこら、やめんかっ! 神池の物語は別枠である。それゆえ、この程度でとどめよ…………」


 数多あまたの神々は夢見心地だ。

 極等万能祭司四人衆とは。インポッシブルオーダー(不可能指令)をしれっと完遂かんすいするスペシャリストだ。六世界(三界さんがい冥界めいかい)を支えてくれているカリスマだ。

 そんな彼らの価値ある講話を拝聴はいちょうできた。稀有けうなる姿をの当たりにできた。さらには稀有けうな笑顔を見ることができた! 本年のカミハカリはスペ格別シャルだ……!


 凛花は空を見上げて想起そうきする。

 幼きあの日から今日こんにちまで……。たくさんの出会いと奇跡があった。

 龍神界との本物縁えにし一期一会いちごいちえ契約者たち。たっとき太郎さんとの巡り合い。そしてイレーズさんに恋をした……。

 瑞々みずみずしい『えにし』が新たな縁を呼んだ。その縁が膨らんで広がった。そうして『本物ほんものえにし(極上ごくえん)』をたまわった。

 そのすべては、悠遠ゆうえんなる兜率とそつてんから降り注いだ貴き『天意』だったのだ……!

 凛花は切に願う。

 いつか天地がひっくり返った物語を聴かせてもらいたい。

 そして『未來王時代』がずっとずっと永遠とわに続きますように…………。


 ……ゆらり…………、空気が揺らいだ。


 ついに物語は最終章へ!

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