第二十七章 ④天の組織図・オーガニゼーション⑴

 極等万能祭司は凛花の人物像と潜在ポテン能力シャルを高く評価した。

 シップが提案する。

「では次の講義レクチャーといこうか。『天の組織図・六世界』について、我々と対話ダイアローグ方式で語ってみよう。どうかな?」

 凛花は嬉々ききとして即答する。

「はいっ! お願いいたします」


 シップが語り始める。

新時代ネオフューチャーは『三界さんがい三世界さんせかい』と『冥界めいかい三世界さんせかい』の合計『ろく世界せかい』によって構成されている。三界三世界とは『無色界・色界・欲界よっかい』をす。冥界三世界とは『黄泉よみ界・魔界・霊界』を指す。それらをあわせて六世界と呼称こしょうする」

 イレーズが解説する。

「六世界は遊星ゆうせい(惑星)の集合体なんだ。各界層ごとに細分化(クラス分け)されたものが集まって三界さんがい冥界めいかい組成そせいされている。死没後の行き先は数値データにのっとって自動的に振り分けられる。着地ールの選択肢はふたつ。『黄泉ターニン』もしくは『霊界ヘル』だ」

 凛花が問う。

「死後はそれぞれの着地ールに自動転送される仕組みなのですね。みなが皆、冥界めいかい(下)に? 三界さんがい (上)に行ける方々はられないのですか?」

 ゲイルが応える。

「そうだな。ひとまず(さしあたって)は黄泉界か霊界だ。極々ごくごくまれだが即座に天界へ行ける果報者もなくは無い。しかし確率はゼロに等しい。六世界の仕組みは冷酷である。ときに天部の神々、天人天衆、魔界の神々でさえもさばかれる。心がけがれれば処罰を受けてちるのだ。ゆえに誰一人として安泰あんたいはない」

 シップが頷く。

「運が良ければ転生可能な黄泉よみ界に。悪運あくうん尽きれば奈落の底の霊界に。それは『オーバー・ 未來王』が判定ジャッジして、『アンダー・冥界王』が制裁サンクションする。もちろん『選ばれしチョーズン』になれれば別枠となり兜率天とそつてんに迎えられる。凛花のように極等万能祭司のディアーになることは、もはや不可能だがな」


 凛花は素朴そぼくな疑問をぶつける。

「あの……? 『魔界』には魔法使いがんでいるのですか?」

 シップは愉快気に笑う。

「おお、魔法使いか……。なるほど。ひょっとするとそうかも知れんなあ。魔界の魔神たちは冥界インフェルノのセレクション(図抜ずぬけた逸材いつざい)である。そして冥界王(魔王)は四人われと同様に『呪術・妖術・幻術・神術』のすべてを自在にあやつるエキスパートなのだよ」

 凛花は問う。

「未來王が統治している限り、六世界(三界冥界)の均衡バランスは保たれるのですか?」

 シップは頷く。

「うむ、それは間違いない。じつのところ、ちまたで『悪魔サタンハデス魔王プルート閻魔エンマ』などと呼称される冥界王(魔王)と未來王は大親友なのである。それに魔界にむ魔神たちとも親しいのだよ。だから現今げんこん兜率天とそつてんと魔界は友好的につながっている。ゆえに未來王時代の六世界は平穏あん安泰たいであるといえるのだ」

 イレーズが微笑む。

「そ。ほんの少し気難しい冥界王(魔王)も。ちょっとだけ残虐ざんぎゃくな悪魔も。未來王とは親友だ。それから、よくわかんないエイリアンとか妖精ようせいとかげんじゅうとか。無駄むだに凶暴な魔界モンスターだって……。意外と憎めなくてカワイイよ?」 

 シップが笑う。

「そのとおりだ。実はなかなかのグッドガイ(良い奴ら)なのだよ」


 ゲイルがく。

「六世界最下層、奈落ならくのどん底こそが『霊界地獄』である。霊界地獄とは、望まなくても誰もが行ける圧倒的人口密度の最底辺到着地ゴールなのだ。愚人ぐじんの心はいやしく浅ましい。汚濁おだくしてけがれている。それゆえ多くのあやまちをおかす。もちろん数値も底辺だ。死没後は果ての果てまで真っ逆さまにちていく」

 クロスは不気味な笑みを浮かべる。

「さらに悲しいお知らせだ。生前やりたい放題だった悪行罪過は冥界王(魔王)によって『六千億倍』に割増加算さんされる。つまり、六千億倍の応報処罰刑を受けるってことだヨ! それも千代ちよ八千代やちよに延々と数値が積み上がっていく……、まさに自業自得ブーメランだよなァ?」 

 ゲイルは眉間みけんにしわを寄せる。

「もはや死没後に逃げ道はない。霊界では同類種同士がお互いを呵責かしゃく(拷問ごうもん)し合うのだ。ってたかってなぶり嬲られ、甚振いたぶり甚振られ、ひたすらに暴行し合う。しかし粉々こなごなに砕かれても再生してしまう。そうしてまた終わりのないバイオレンス・ゲバルト(虐遇ぎゃくぐう)が始まる。無間インフィニティ地獄ヘルとは『死ねず終わらず』の苦しみを表している」

 イレーズが笑う。

「ククッ! 同類にたも同士で勝手に盛り上がって、勝手にさいなみ合ってくれるからさ。余計な手間が掛からなくて助かるよ。まさに『生産性向上』だよね」

 シップは息を吐きだす。

拷問ごうもんは生前の罪の重さに比例して……、そう言いたいところだが違う。空恐ろしいことに、罪なき者に与えた苦患くげん殉難じゅんなん冤罪えんざいは、冥界王によって六千億倍に加算されている。その数値に見合う処罰がくだされるのだよ」

 クロスはあっかんベー、舌を出す。

「どこぞやのインチキはァ! 死没後は『楽園パラダイス』に案内できるってェエ? お布施ふせやらおきよめやら? 因縁やら供養やら? そこにすがれば幸せになれるってェ? 金さえ払えばえら~い『聖者セイント』が助けてくれるってェ?? ……ワァオッ! ザァンネンッ」


 シップが本筋に戻す。

「地獄のあべこべに。人口が少ないのは如来衆(タターガタ衆)が居住している『色界』である。彼らは五欲煩悩(色・声・触・香・味)、(承認欲・睡眠欲・食欲・性欲・財欲)を離れているためあやまちを犯さない。ゆえに奈落に堕ちることがないのだよ」

 クロスは肩をすぼめる。

聖者セイントになるために身を削って難行苦行しゅぎょうして。その末に『悟りの境地』に到達して。そうして、わざわざ俯瞰ふかん不感ふかん人(上から見下ろして感じない人)になったらしいんだヨ! だからタターガタ衆(如来衆)には欲望も無いし煩悩も無い。悲哀ひあいも無ければ感動も無い。そもそも五感を超越しているから特に何も感じないってわけだヨ」

 ゲイルはうべなう。

「そうだな。好意や愛着、苦悶や憂苦……。すべてを超越している者に哀歓あいかん(喜怒哀楽)は無い。つまり『色界』には、不満もなければ満足もない。痛くもなければかゆくもない。面白くも可笑おかしくもない。ならば恐らくきっと、退屈なのではなかろうか……」

 イレーズが補足する。 

「ついでに『無色界』とはさ。精神世界だから実体はないんだ。いわば生命活動維持に必要な『六元素』ようなものだよ。良く言えば酸素みたいに絶対的に不可欠なモノだから『至宝たから』だよね? ま、誰にも気づかれないけどさ」


 イレーズが思いつく。

「あ、そうだ。実は多くの者が思い違いをしている事実があるんだよ」

 凛花は首をかしげる。

「思い違い?」

「そ。それはこの現世げんせの『人間界』こそが『楽園パラダ天国イス』だってこと! 五感(視・聴・嗅・味・触)と歓楽(飲食・遊戯・快楽)があるからさ。際限なく遊興ゆうきょうしたり、みだらな歓楽にふけったり、迷惑をかえりみずに暴走したり、弱いものいじめをしたりしてさ。欲望のまま、本能のまま、やりたい放題の好き勝手し放題! まさにこの世の春。俗にいう『天国』ってわけ。まあそのツケは後払いだけどね」

 クロスが同調する。

「確かになア! 人間は見栄っ張りで欲深い。あげくに狡猾こうかつで意地悪だ。他人の不幸を喜んで、幸せはやっかむ。セコイやから(人間)の邪知じゃち思念しねん(悪知恵)と妄想(思い込み)は不快不愉快! 最低最悪だヨ! なァ?」


 シップが付加する。

じつのところ。我らが居住する『兜率天とそつてん』は五欲煩悩を超越している。つまり『色界』と相似的そうじてき(酷似こくじ)なのだ。しかしえて五欲五感を残して『欲界』に配置してあるのだよ」

 凛花は首をかしげる。

「すでに悟っているのに? 何故なぜですか?」

 イレーズが笑う。

「未來王はさ。俯瞰ふかん不感ふかん人(見下ろして感じない人)なんてつまんない! 日々を楽しく面白く! って、お考えなんだよね。だから感情を残して『欲界』に無理やり居座っているんだよ」

 ゲイルは頷く。

「確かに。兜率天とそつてんには喜怒哀楽の感情が色濃く残されている。しかし、ありとあらゆる欲望は極めて薄い……。ゆえに基本的に何もほっしない。ただ『本物』だけを求め、『本物』だけを受け入れる」


 シップが続ける。

三界さんがいける『欲界よっかい』最上部に位置するのが『兜率天とそつてん』。そのすぐ下は八百万やおよろずの神々や天人天衆がじゅうする『天界』。そして欲界の最下層(一番下)にあるのが『人間界』である。人間界と黄泉よみ界は円錐状えんすいじょう異空間トンネルで繋がっているから基準数値に到達すれば自動的に輪廻リーイン転生カーネイションできる仕組み(ストラクチャー)になっているのだよ」

 ゲイルが補足する。

「例えば。外因がいいんによる不慮の死。情勢不安や治安の悪化による犠牲者。若死わかじに、夭逝ようせい、殺害。不遇な環境下に身を置いて人生を終えた場合など。それらの『御霊みたま(精霊)』には未來王より数値加算さんほどこされ『何らかの才能』が付与ふよされる。そして即座に輪廻リーイン転生カーネイションして新たな人生が幕を開ける。したがって、ネクストステージ(新天地)での成功確率は大いに高まっている」

 クロスが平たく言う。

「つまりはァ! もしも今生こんじょう不遇ふぐうで思うようにいかなくても次なるチャンスがあるってことだヨ! それも相当そうとうどデカイのが、なァ?」

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