第二十七章 ②天界法の重要性

 出雲おお大社やしろ・結界上。

 凛花の前に四人衆が並び立つ。シップが問いかける。

「イレーズよ。今回の立法内容について凛花ディアー委細いさい説明したのかな?」

「あ……、(してない)」

 シップはあきれる。ふうっ、ため息をらす。

「まったく仕方のない奴だな。では、私から説明するぞ」

「うん(長いから助かる)」

「……。この度、異時いじ空間くうかんでの『極上ごくえん』が発生した。それにともない『兜率とそつ天界法てんかいほう』に新たな項目を追加した。兜率天とそつてんと人間界における婚約期間に関するおきて(要項)を定めたのだ。つまりは、ふたり、イレーズと凛花のための立法である」

 凛花は驚く。

「え……? 私たちのための立法、ですか?」

 イレーズは肩をすぼめる。

「ま、確かにそうだけど……。そんなに恐縮しなくていいよ? ふたりのためだけ、ってわけじゃないからさ」

 ゲイルが爽やかに笑う。

「そのとおりだ。『未來よけ予見図んず』によれば、我ら四人衆はこれより二百数十年後に増員され『五人衆』となる。そしてどうやら、その五人目祭司も存命中の『人間ヒト』と恋に落ちるらしいのだ。つまりは極等万能祭司四人目と五人目のための立法ということだ」

 クロスはニヤリ、口角を上げる。

「ち、な、み、に、だけどなァ! 俺たち四人衆の初恋相手はそろいもそろって『同一人物』なんだゼ? それが誰だか知りたいかァ?」

 シップとゲイルは顔を見合わせる。

「うーむ。初恋、か……。確かに彼女はとびきり魅力的であるからなあ。まさしく我らは骨抜きのメロメロである。……ハッ! もしかすると五人目祭司も……?」

「ま、まさか? そんなことは……? いや、だがしかし。おおいにありる」

 凛花は瞳を輝かす。

 ……わあっ! この四人衆をとりこにしてしまうなんて! 不謹慎だけど、ちょっとだけ興味がある。きっと澄み渡るような心を宿す絶世美女に違いない!

 クロスがニヤリとする。

「それじゃァ、発表するゼェ? そのスペシャルオンリーワンのカワイコちゃんのはァァア……ッ! 『ゴン子』、だヨ!」

「わっ、ゴン子さんっ」 

「クッ、ククッ! まァ残念ながら? 誰ひとりとして相手にされず撃沈げきちんしたけどなァ? オオゥッ! 我らがいとしのゴン子ッ! あいつは、罪な女だゼ……」


 凛花は回想する。

 ……座敷わらのゴン子さん。イレーズさんの初恋相手だ。そして私たちの愛のキューピッドだ。

 ……恋愛なんて一生無縁だとあきらめていた。けがこわれた自分の身体にどこか引け目を感じていた。劣弱れつじゃく意識に支配されかたくなだった。イレーズさんを愛しているのに想いを断ち切ろうとしていた……。

 そんな私の背中をポンッ! 押してくださったのがゴン子さんだった。奥秩父の三峯神社で巨大銀霊獣の背に乗って現れた。そして私と友達になってくれた。 

 仁王立ちする姿が可愛くって。少し辛口だけど憎めなくて。あたたかくて頼もしくて。特別な存在であり大好きな友人だ。

 ……ん? あれ? だけどゴン子さんって……? う、わわあっ、納得っ!


 四人衆は凛花を透視して笑う。シップが続ける。

「今回の立法の詳細として、ことなる『かい』にける婚約者フィアンセ(ディアー)との共有時間が確定した。それは年間『八百八十八はっぴゃくはちじゅうはち分間』とする」

 ゲイルが補足する。

「想い合う婚約者ディアーにとって、年間八百八十八分間程度では少ない……。そう感じるかもしれない。だがしかし、デートでは瞬間テレポー移動テーションによって移動時間の短縮が可能である。さらには今日こんにちのような王の下命任務にいての接触は別枠となる。ふたりの時間ときは消費されないゆえ、安心せよ」

 シップがびる。

「イレーズが短い、足りない! などと駄々だだをこねるから調整が大変だった。しかしこれが平常任務のあるイレーズに与えられる時間の限界なのだ。限りある寸刻を工夫して遠距離恋愛を楽しんでくれ。すまないな……」

 イレーズはあわてる。

「ちょっ……! それ、言わないでよ」

 凛花は深々と頭を下げる。

「私たちに『共有時間』を付与ふよしてくださり感謝いたします。イレーズさんと一分一秒、大切に大切に使い切ります」

 三人衆はうん、頷いた。


 シップが提案する。

「よい機会だ。どうかな、凛花よ。『兜率とそつ天界法てんかいほう』について知りたいかい?」

「ご示教いただけるのですか?」

 思いがけない好機に恵まれ凛花は喜んだ。

「うむ。では簡単カジュアルに解説しようか……」


 ゲイルが先陣を切る。

「では始めるぞ! 新時代ネオフューチャー統括ユニフィ統制ケーションする『兜率とそつ天界法てんかいほう』とは数値を基準としたデジタル方式が適用され、常に最新状態にアップデートされている。さらにすくいやゆるしの領域を多角的にしつらえた柔軟フレ臨機応変キシブルおきてである。しかし法則をおかせば神々や天人天衆さえも冥界めいかいへととされる。表裏ひょうり一体いったいの対極は情け容赦ない峻厳シビ冷厳おきてでもあるのだ」

 クロスが続ける。

ちたやからの行き先(到着地)は、数値やジャッジにのっとって瞬時に振り分けられ自動転送される。処罰サンクションは冥界王(魔王)と四人おれた委細いさい (期間・内容)を決定している。つまり現今げんこんは! 極等万能祭司が『六道りん輪廻』の根幹をになっているってことだヨ」

 ゲイルが言明する。

「我ら四人衆は未來王から膨大なる活力エナジーを与えられている。そのけたちがいの威力パワー森羅万象しんらばんしょうすべてに影響を及ぼす。運命かい改変へんや救済。処罰や抹殺。ときに惑星を砕くことさえ指先ひとつでできてしまう。しかしそのたぐいまれなる才腕さいわんは、未來王と築き上げる『新時代ネオフューチャー・円滑遂行』のためのみに行使こうしする」

 シップがく。

「すべての『界』に規制統制は不可欠である。正しき仕組みや規制ールがあるからこそ『平穏』があるのだ。……例えば我らがすべての任務を放棄して『無法地帯』になったとしよう。恐らくその場合、人類滅亡どころでは済まされない。眺望のすべては極彩色いろどりうしなってちてびて腐敗ふはいする。生命体は滅び去り、邪悪霊魂に支配される。そうして彼岸ひがん(あの世)で待ち受けるのは筆舌ひつぜつに尽くしがたい凄惨せいさん極まる日々だろう……」

 ゲイルは首肯しゅこうする。

「六世界の神々は未來王時代到来を歓迎し一致団結している。まりに溜まった老廃物ろうはいぶつ根絶そう除去のために三界さんがい冥界めいかい連携れんけいしている。まさに今、取捨しゅしゃ選択せんたく新陳代謝メタボリックの真っ最中なのだ」

 シップが補足する。

新時代ネオフィーチャーは数値化システムが確立されて許容範囲が広がった。不公平が適正化されて転生回数チャンス増幅ぞうふくした。至高シュプリームなる兜率てん天界法かいほう遵守じゅんしゅできぬ者は新時代に合致がっちできない『陳腐ちん人間』であることを意味する」

 ゲイルは同意する。

「そうだ。人類は真実を見極め学び修得する努力をすべきである。もういい加減に『姑息いじ陰険わる傲慢ヴァニ卑屈ティ似非いか虚栄さま』などの負の心(マイナス)から脱却すべきである。死没後、再生不能な霊界ヘルの底(奈落)にちてから悔やまぬよう、即座に心を改め奮い立つことを進言する」

 イレーズはため息をつく。

「ま、やる気のない奴らなんか放っておけばいいよ。それにさ、生前踏り返って威張いばっていたやからに限ってさ、ぎゃんぎゃん泣きわめいて大騒ぎするから鬱陶うっとうしいよね。霊界地獄に堕ちるのを怖がって助けをうてさ。必死に無駄な弁解なんかしたりしてさ。往生おうじょうぎわが悪くてウンザリするよ。だけど未來王が『面白がって適当に遊んでください』って、励ましてくれるからさ。だから俺たちは(いやだけど我慢して)頑張っているんだよ……」


 凛花は感激に打ち震える。

 ……極等万能祭司四人衆とは。ずば抜けた超人的感覚能力を有したエキスパートだ。さらには誠実オネスティなるカリスマだ。純真無垢な心の持ち主だ。

 彼らが『輪廻てん転生せい』の根幹をになっている。六世界(三界さんがい冥界めいかい)の均衡バランスを保っている。『界』のけ橋になっている。人間ヒト嫌忌けんきしながらもバックアップしてくれている……。

 その根幹究極にあるのはただひとつ。唯一無二なる未來王を敬愛リスペクトし、根源から忠誠を誓っているのだ!


 凛花は深謝しんしゃした。

 未來王に。極等万能祭司四人衆に。到来した新時代ネオフューチャーに……。しんおうからひれ伏した。

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