第二十七章 ①極等万能祭司四人衆

 出雲いずも大社おおやしろ・御本殿上空。

 ピカアアァッ……! まぶしい。センセーショナル(大げさ)に空が光った。

 キラリッ! ピカッピカッピカッ……! キラキラキラッ、ピカァァッ……! 無数の閃光せんこうきらめいて明滅めいめつする。天使の梯子はしご光芒こうぼうがふんだんに降り注ぐ。

 ひらりっ……! ひらっひらっひらっ、ひらり、ひらひらひらひら……! ドバーンッ! 季節外れの桜の花びらが舞い上がって舞い踊る。大放出された花びらは花吹雪となって地上に舞いる。

 ビュウウウゥーッ、ビュウウウゥッ……! 瑠璃るりいろの風が吹き抜けた。強風がクルクルッ、うずを巻いて竜巻トルネードになる。それはお祝いのクラッカーの形となって光芒こうぼうと花びらを巻き込んだ。……パンパーンッ! パンパカパパーンッ! ドッカーンッ……! 

 巨大クラッカーが盛大にはじけた。


 シン………………


 フェスティバルさながらの慶祝けいしゅく気分ムードだった。しかし今は、水を打ったような静寂せいじゃくに包まれている。

 凛花はイレーズの腕の中で目をパチクリさせていた。目の前に神々こうごうしい光背ひかり(後光)を放つ三人の男性が並び立っているのだ……。


 本年本日の出雲いずも大社おおやしろ。未來王の四大弟子『極等万能祭司』が勢ぞろいしていた。

 比類なきカリスマ四人衆がそろっておおやけの場に登場するのなど前代ぜんだい未聞みもん一大事いちだいじである。

 八百万やおよろずの神々は吃驚びっくり仰天ぎょうてんして腰を抜かした。スーゥゥ、ハーァァ……、大きく深呼吸する。心をしずめて状況をのみ込んだ。

 ……四人かれ容貌よう年齢ぼうは三十歳くらいだろうか。全員がモデルのような長身に抜群のスタイルだ。それぞれ個性は違えども洗練された外見ルックスは圧巻だ。美し過ぎて、もはや凶器だ。それにしても凄まじい存在感と威圧感である。

 コン太は瞠目どうもくしてつぶやく。

「マジかよ……。極等万能祭司四人衆は実在していたんだな。……うへえぇっ! それにしても全員がイレーズレベルの容姿所有ホルダーなんてヤバ過ぎだよっ! ……んん? まさかまさかっ! 『婚約祝い』に降りて来たってことなのかい?」


 極等万能祭司の三人は凛花を凝視ぎょうししてただちに緻密ぶん分析せきを開始する。……十秒後、うなずき合う。三人衆は柔和にゅうわに笑った。

 和装姿の祭司がしずやかに祝意を述べる。

「この度は婚約おめでとう。私の名は『雨間あままシップ』。四人衆の中では一番の年長者である。

 凛花よ、貴女あなたは龍神界から提示された好条件の駆け引きを拒否した。有望人間(しょう)とのえにしを目の前に差し出されても迷わなかった。龍使いの任務継続を即座に選択した……。

 その不屈なる決意の成果として、未来王が提示したえにしこそ! 極上ごくえん者イレーズとの『無限の時間とき・共有の道』であった。……みょうみょうたる選択! 実にエクセレントである。従って、我らの仲間として認めよう……」

 シップは畳まれた扇子せんすを握って結城ゆうきつむぎの着物をみやびやかに着こなしていた。髪は後ろにひとつにゆるく束ねて、足元は厚底のハーフブーツを履いている。うっとりするような端正な顔立ち。しなやかな立ち居振る舞い。まごうことなき極上の男前びな男子だ。漆黒しっこくの瞳からは奥深い慈悲を感じる。物腰柔らかな典雅優艶ゆうえんなる人格者という印象だ。


 シップの隣に立つ精悍せいかんな顔つきの祭司が爽やかな笑顔を向ける。

「この度は婚約おめでとう! 私の名は『疾風はやちゲイル』である。四人衆の中では中堅の次男坊、といったところだな。

 凛花よ、きみは龍神界から信頼を得ている。そしてさとく、あたたかい人間だ。イレーズのてついた心をかし、安らぎを与え、笑顔を引き出してくれた。イレーズは宇宙一の直感力イントゥイションを有している。ゆえに選択セレクト回答アンサーを間違うことはない。きみはまさしく『相応ふさわしき者』である。我ら一同、ふたりの未來を祝福し、仲間として歓迎する!」

 ゲイルは中世ヨーロッパを想起させる繊細な刺繍ししゅうほどこされたロココ調のよそおいをしていた。ウエストコートとブリーチズを着用しロングブーツを履いている。つややかな長髪を後ろに束ねて、切れ長の瞳はキリリ、凛々りりしい。有象無象うぞうむぞうことごとく魅了してとりこにしてしまうような正統派のハン男子サムだ。その風貌はまるで、おとぎの国から抜け出した王子様のようだ。


 ゲイルのとなりに立つ祭司は長身の大男(二メートル十五センチ)だ。ニヤリ、不敵な笑みを浮かべる。低い声を発した。

「クッ、ククッ、クッ……。実に目出めでたいねェ? コングラチュレーション(おめでとう)! 俺の名は『たるクロス』。四人衆の中ではゲイルと同期の三男坊だヨ!

 凛花ァ、どうやらお前は只者ただものではないようだ。なぜなら宇宙一の極上天才ジー男子アス見初みそめられ『想い人(ディアー)』になった。さらに同値どうちの関係を築き上げ婚約を成立させた。そして『恒久使命』をたまわるプライビレッジ(特権)を入手した。死後は『判別魔はんべつまがん』を授けられ、未來に尽くす一員となるだろう…………」

 クロスは黒のゴシック調のレザーロングコートを羽織って全身モノクロームの装いだ。強いくせ毛の髪は後ろにひとつにまとめ、足元はいかついエンジニアブーツを履いている。ミケランジェロ彫刻のような完璧なスタイル。悪魔的魅力を有した超絶イケ美形メンだ。屈強な体格と重低音ボイスにはすごみがある。だけどどこか茶目ちゃめがあって憎めない。やんちゃ悪童といった印象だ。


 凛花は深々と頭を下げる。恐縮しつつも笑顔でご挨拶する。

「シップさん! ゲイルさん! クロスさん! はじめまして。凛花と申します。

 未來の時間軸ではイレーズさんと『無限の時間とき』を共有する至福ブリス頂戴ちょうだいいたしました。互いを受容尊重し、喜悦きえつや苦痛も分かち合って、大切な時間ときを重ねていけたらと念願しております。そして日々に愛が溢れ、心穏やかに安らげる関係継続に努めてまいります。未熟で至りませんが、どうぞよろしくお願いいたします」


 シップは穏やかに微笑ほほえんだ。

「うむ。イレーズは私たちの無二なる仲間であり、家族であり、可愛い末っ子でもある。

 したがって、今日より凛花は我らの仲間であり家族だということだな。皆で仲良くしようではないか! 以後、よろしく頼むぞ」

 ゲイルとクロスが口角を上げる。

「イレーズは宇宙ナンバーワン極上ごく上級ょう男だ。そして我ら自慢の弟だ。……のちに凛花が藍方らんぽうせいに迎えられたあかつきは共に任務に励もう。頭脳レベルが高く心根が美しい君の活躍、心より期待しているぞ!」

「クッ、ククッ……。お前は、がん彼岸ひがん延々えんえんに働き続ける未來を選択した物好きだ。つまり、今日から俺たちは仲間であり家族ってわけだ。凛花ァ、ドーゾ、よろしくなァ?」


 凛花の瞳はうるみだす。

「あっ、ありがとうございます! イレーズさんの大切なご家族(仲間)に受け入れていただけて嬉しいです! ……とてもとてもっ、嬉しいですっ…………」

 イレーズは無造作むぞうさに髪をきむしる。そしてボソリ、つぶやく。

「あの、さ……。えーっと、うーん……。その、なんていうかさ。……あ、り、がと」

 三人衆は瞠目どうもくして顔を見合わせる。

 ……オイオイオイッ! イレーズがはにかんでいるぞ! 耳と首を赤くしているぞ! まさか……? 照れているのか? ワァオッ! ブヒるッ! 萌えるっ! ファンタスティックッ!


 ゆらり、ゆらり……、シップとゲイルとクロスがイレーズを囲み込んだ。ニヤーッ……、よしありげに笑う。

 イレーズは不吉な何かを察知する。……ヤバいッ! この場から逃げ出したいッ。…………しかしどうやら手遅れだ。

 がばっ! 

 がしっ! 

 むぎゅうっっ……! 

 三人衆はイレーズに抱きついた。ぶちゅう! ぶちゅうっ! ぶっちゅうっっ……! ひたいほおってたかってキスをする。

「ちょっ……! やめてよっ! ふざけんなっ、……調子に乗るなっ」

 イレーズは拒否る。不機嫌顔をして抵抗する。

 しかし三人衆はお構いなしだ。ゲラゲラ笑って伽羅きゃらいろのサラサラ髪をわっしゃわっしゃとき回す。

「もうっ、なんだよっ! しつこいよっ! ……クッ、クククッ、……あははっ!」

 兄貴たち(シップ・ゲイル・クロス) のハートフルな祝福にイレーズはつられて笑い出した。


 未來王の四大弟子・極等万能祭司四人衆とは聡明そうめい叡智えいちなるスペシャリスト集団だ。彼らは非常に気難きむずかしいくラディカル(過激)な性質だ。そんな彼らが公衆の面前で大笑いして、じゃれ合って、大はしゃぎするなど珍奇ちんきなまでに嬉しい椿事ちんじであった。

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