第二十六章 ②未來王時代(ネオフューチャー)

 稲佐の浜・結界上。

 「実はあらたに『法制化』が必要な項目ができたんだ。それに加えて永続えいぞく中の改革任務も立て込んでしまってさ。それで少し忙しかったんだ」

 イレーズが少し負い目を感じながら話し始めた。

 「立法と改革ですか? 天界にも法律があるのですね?」

 「もちろん。規則ルー規定は多角的に存在する。それに『兜率とそつ天界法てんかいほう』は現世げんせいのものと比較にならないほど峻厳しゅんげんおきてだよ? 根源的に権力者や独裁者だけが得をするような不公平アンフェア禁令きんれいだ。ウィンウィン(相互利益)関係か、『相応そうおう』でなくてはならないんだ」

 「はい。理想的です」

 「近過去において。天上界では『大宇宙マクロコスモス大変革レボリューション』が実行された。三千さんぜん大千世界だいせんせかいあるじは世代交代がなされた。『如来タターガタ時代』から『未來みらいおう時代』へと変転移行した。……凛花はすでに認識済みだと思うけど、『未來王』は柔軟フレキ思考シブルジェン上人トリーだ。だから封建ほうけん的・排他はいた的・奴隷どれい的精神思想のことごとくを嫌悪けんおしている。そして不均衡アンバランスな不平等世界を適正化したいと願われている。『完全数値化』は未來王肝きもいりの大改革なんだ」

 「公平フェアに、平等に……。未來王のもと、相応そう世界おうの実現に近づいているのですね」

 「そうだね。俺たち(極等万能祭司)は過去にさかのぼって多くの事象を再調査した。そして再審さいしんしゃ思想イデオ信念ロギー潜在サブコン意識シャスを徹底分析した。今もそれは継続中なんだ」

 「現在進行中なのですね。どのような方々が再審たい対象しょうなのですか?」

 「脅迫や圧力によって生命ライフ伝統レガシーかろんじた者。だまおとしいれ権力を手中にした者。故意に歴史認識をゆがめた者。狡猾こうかつ手段によって私腹を肥やした者……、とかね? 偽装ぎそう捏造ねつぞう、裏工作、恫喝脅嚇どうかつきょうかく占拠せんきょ強奪ごうだつ。権力闘争による被害者は数知れず。濡れ衣による冤罪えんざい、口封じの殺害のオンパレードだった。明らかになったのは史実しじつゆがめられじ曲げられていたという残酷な事実ファクトだった」

 「嗚呼ああ……」

 「そもそも歴史なんて確証がない。権威者が利己的に監修した『過誤かごなる正義』を『世論』とか『教育』によってり込まれている。戯言ざれごとや悪事でさえも善事だと信じさせて誤認識ごにんしきさせる。それこそ『洗脳ブレインウオッシュ』と同義だよ。教唆きょうさして丸め込めば世俗を操縦コントロールすることなど容易たやすいからね」

 「恐ろしいです。学生時代、歴史を勉強していたときには度々たびたび違和感を覚えていました。例えば古墳飛鳥時代の帰化きか氏族ごう豪族ぞく物語ストーリーはどうしても納得できませんでした」

 「うん。滑稽こっけいだし、過剰かじょう演出だし、ネーミングに悪意を感じるよね」


 イレーズは続ける。

 「嬉しかったことはさ。冥界めいかい最奥さいおう牢獄ろうごくに光が当てられたことだった。未來王が真っ先に光芒こうぼう一閃いっせん照射しょうしゃしたのは歴史的冤罪えんざい被害者だった」

 「ぎぬや無実の罪、ですか……?」

 「そう。彼らははだかにされて地獄のはしっこに追いやられていた。眼球がんきゅうをくり抜かれて暗いおりに閉じ込められていた。くちかせをされて幽閉ゆうへいされていた。それは権威者の一存によってじ曲げた『史実しじつ』を明らかにさせないためだった」

 「そんなっ……、ひどい……」

 「続いて。理不尽な権力闘争に巻き込まれた者と戦乱犠牲者の『御霊みたま』が救済された。怨恨えんこん無念が強過つよすぎて浮かばれず『地縛じばくれい』になっていた者の多くがここですくい上げられた。兜率とそつてんから大いなる光が降り注いで転生のチャンスを得たんだよ。さらにはおのれの犯した罪過を認め改悛かいしゅんできた者たち(支配権力者や偉人)も救済者名簿に含まれていた。……何しろ未來王は『ゆるしの王』とも称されるほど慈悲深いんだ」

 「積年せきねんの苦悩がむくわれたのですね」

 「だけどその対極に。無数の転落者が出てしまった。遺憾いかんなことに転落者の大半が歴史上では『善人』とか『人格者』とか『絶対的権力者』としてあがめられていた人物だった。要は『善人に見せかけた悪人』だったんだよ」

 「マニピュレーター、ですか?」

 「そう。この世は善人をよそおった強欲ごうよくマニピュレーターがのさばっている。虚偽カムフ虚飾ラージュ妄語綺語駆使くしして大衆を支配コント操縦ロールしている。まさに不平等世界なんだ」

 

 イレーズがく。

 「潜在的せんざいてき自己愛型マニピュレーターには『先天性』と『後天性』が存在する。例えば俳優レンジは後天性だった。だから可能性は低くとも改悛かいしゅんの余地があった」

 「後天性……。そうだったのですね」

 「だけど『先天性』の潜在サブコン意識シャスには人間的感情が宿っていない。脳内を占拠せんきょしているのは、過剰な自尊プライと自利を満たす欲望。目先の損得。利用価値の有無メリットデメリット。それだけ」

 「そんな不完全な欠落人間が、心を宿す人間を操縦コントロールできるのでしょうか?」

 「やつらは不遜ふそ尊大なヴァニティ(自惚うぬぼれ屋)だ。狡猾こうかつで計算高い。だから効率よく権力者を見定めて取り入ることができる。さらには目先の浅薄せんぱく学習によって感情を得る。そうして綺語を並べて『徹底的な善人』を演じきる」

 「他人に受容されあがめられるためにみずからを洗脳する。つまり率先して感情構成や人格改造作業をほどこしている、ということですか?」

 「そう。その自己とう陶酔すいした迷演技に大衆は騙される。まどわされて好感を抱く。そうして世俗せぞくの信頼と共感を十分に勝ち得てから餌食えじき(食い物)にする。金づるとか下僕げぼくとか。あわよくば兵卒要員として利用する。要するに奴らにとって民衆とは、代替え可能な『ごま』なんだよ」

 「姑息こそくでずる賢い人間が世を仕切る……。そんな不条理なおろかしさが、今もなお繰り返されているのですね」

 「ん、残念ながらね? 人間ってりないよね?」

 「好意フィーリング人情ヒューマニティを利用して欲望のままに捕食ほしょくする。同類をカモにするなんて最悪です」

 

 イレーズの目に力がこもる。

 「冥界めいかい牢獄ろうごくに繋がれた面々はひたすらに耐え忍んでいた。積年の無念が晴らされて理不尽が修正される時宜じぎ未來ネオフュー時代チャー到来』を指折り数えて待ちわびていた。しかしついに限界を超えて堪忍かんにんぶくろの緒が切れた。冥界の忿怒ふんぬ怨念おんねん隠忍いんにん怒髪天どはつてんいて破裂してしまった。その凄まじい憤激ふんげき三界さんがい冥界めいかいを揺るがしてひずみをしょうじさせた。さらに近い将来、先天性マニピュレーター扇動せんどうの『カタストロフィ(破滅)』の予見プロディク予兆ションを感知した。『ろく世界せかい』は激しく揺らいだ」

 「六世界、ですか?」

 「うん。この大宇宙は『三界さんがい冥界めいかい』によって構成されている。三界さんがいとは(欲界・色界・無色界)を指す 。冥界めいかいとは(黄泉よみ界・魔界・霊界) を指す。それら六つの世界を合わせて『六世界』と呼ぶんだよ」

 「そうなのですね」

 「さらには時代の移ろいは想像以上に早かった。あれよというに革新的デジタル社会へと発展へん変貌ぼうげてしまった。あまりに速くて『旧体制』では変遷へんせん速度スピードに追つけなかった」

 「はい……」

 「六世界(三界さんがい冥界めいかい)の亀裂は広がって猥雑わいざつ混沌こんとんとしてしまった。さらには神々の連携が崩れて機能不全におちいった。このままでは『三界さんがい(欲界・色界・無色界)』が完全消滅してしまう……。大宇宙は『破滅の道筋デストラクション』に向かって、まっしぐらの様相だった」

 「嗚呼…………」

 「三界さんがいは存続の危機を迎えていた。もはや風前ふうぜん灯火ともしびだった。残存余力りょくは減衰して壊滅の瀬戸際まで追い詰められていた。だから必然的に君主交代の熱望待望論が席巻せっけんした」

 「限界を超えて極限値となり、さらには不穏な前知まえ予期ぶれを感知した。……それで気運が高まり世代交代が早まった、ということですか?」 

 「そう。もはやそれ以外に選択肢は無かった。三界さんがい冥界めいかいすべての神々を連携させて統制制御できる才覚者は『たったひとり』しか居られない。三界デストラク破滅ション寸前に最終カード(最後の切り札)が行使された」

 「そうして遂に『未來王』が六世界の未來統治に君臨されたのですね! 待ちわびていた『新時代ネオフューチャー』が到来したのですね!」

 「うん。……まあ、かなり渋々しぶしぶだったけどね? つまりは、旧体制では手に負えなくなったから新体制に移行したんだよ。要は泣きつかれて、頼み込まれて、丸投げされたってこと」

 「そういうことでしたか……」

 「そして刻下こっか(今)、天地がひっくり返るほどの『図抜ずぬけた大改革』の真っ只中ただなかなんだ」

 「わわっ? 天地がひっくり返る?」

 イレーズはくすりと笑う。

 「だけどその物語ストーリーは、またの機会(別枠)にて……、ね?」

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