第二十四章 ⑤プンスカ・ニンマリ

 所沢市・あか煉瓦れんがベル。

 コン太はいか心頭しんとうでプンスカしていた。不貞腐ふてくされて愚痴が止まらない。

 「あーあっ! おいら完全にだまされたよ! 女たちで結託けったくしておいらをのけ者にしていたんだね? 『みみっちい男』だって陰で笑っていたんだね? ああ、そうだよ! おいらは頭が固くて心が狭い男だよ! あげくにイレーズまで協力していたなんてさっ! まんまと一杯食わされたよ! ひどいよ、 ずるいよ! やられたよっ」

 ノアは笑いながらさとす。

 「ねえ……? もうそろそろ気が済んだ? コン太の想いはミュウズもユウイも十分りか理解しているわよ? だけど凛花がゆるすことを望んだの。羽衣さんに幸せになってほしいって。……だから、ね?」

 凛花は眉をハの字に下げる。

 「コン太、ごめんなさい。私のためにたくさん飛び回って、ずいぶん前から動いてくれていたって、聞かせてもらったよ?」

 コン太はすかさず質問を返す。

 「聞かせてもらった、って。誰にさ?」

 「えっ? えっと……っ」

 凛花がくちごもった。たちまち察する。

 「むうううっ! イレーズの奴めえっ! そうかっ、あいつが協力していたから凛花のサブコンシャス(潜在意識)にノイズ(雑音)が入って透視できなかったってわけか! ……んん? だけど、うーむ……。イレーズはおいらと同様にレンジを殺したいほど憎んでいいはずだよな? それなのになんで『ゆるがわ」に協力したのかな?」

 凛花は答える。

 「イレーズさんも本音は少しだけ葛藤かっとうがあったみたい。だけどね、『幼いころからとらわれていたマイナス霧散むさんして解放されるのなら協力してあげる』って。そう言ってくれて……」

 「ふーん……。あの、イレーズが、ねえ?」

 「私ね、コン太の気持ちがとっても嬉しかった。レンジさんが改悛かいしゅんできたのはコン太のお陰だと思ってる。だから、本当にありがとう」

 「ちぇっ! 結局、極等万能祭司にはかなわないんだよなあ……。だけどどうやら愛情も『極大』みたいだねえ? イレーズは優しいかい?」

 「うんっ! とっても優しいの……」


 コン太とノアはニンマリして顔を見合わせる。赤面する凛花が可愛くてたまらない。

 「次はいつ会えるんだい? 次の神在かみありつきのカミハカリ(神議)かい?」

 「遠くて簡単に会えないから寂しいでしょう? そんな時はどうしているの?」

 「おいらにはわかるよ! 離れていても会話ができるように特殊じゅ呪術じゅつを行使しているのさ。凛花が心の奥で念じればイレーズがこたえてくれるってわけさ」

 「あっ、そういえば! 時々ときどき、部屋の隅っこでほおを染めて独り言をしゃべっているわ!」

 「へええ? なるほどねえ? きっと感応デート中ってわけだねえ? いいねえ!」

 「次に会うのが待ち遠しいでしょう?」

 「イレーズに会いたいかい?」

 凛花は即答する。

 「うんっ! 今すぐにでも会いたいよっ」

 

 そしてそのまま問いかける。

 「あのね、ちょっとだけ気になっていたんだけど……。コン太は本当に『制裁』をしたかったの? もしかしたらレンジさんの心が変わって改悛かいしゅんするのを見届けようとしていただけなんじゃないのかなって……」

 「…………。なんでそう思うんだい?」

 「だって! コン太が輝章さんに書かせた『リレーション・えにし』の物語ストーリーは『ハッピーエンド』だった。紆余曲折うよきょくせつがありながらも、父と母と娘が『家族の絆』を取り戻していた。家族が仲睦むつまじく暮らすエンディング(結末)だった。だからもしかしたら、って……」

 コン太は満更まんざらでもない顔をした。

 「イヒヒッ! 果たしてそれはどうだろうねえ? 過ぎてしまえば真相は分からない。後からなら、都合がいいように何とでも言い訳できてしまうからねえ?」

 「……。そっか」 

 「まあだけど、間違いない事実がある! それはさ、龍神たちはみんな『龍使い凛花』のことが大好きってことさ! そして『ハッピーエンド』が大好きなのさ!」

 凛花は笑顔になる。

 「うんっ! 私も大好きっ!」

 「私も大好きよ!」

 「おいらだって!」

 最強コンビは、むぎゅうっ! 友情の抱擁ハグをした。

 

 ……ストンッ! 

 「…………? なにやってるの? もしかして、おしくらまんじゅう?」

 三人は一瞬だけ呼吸が停止した。そしてシンクロして叫んだ。

 「え? ええっ? イッ、イッ……! イレーズッ(さん)!」

 

 突如とつじょとして予告なしに……。赤煉瓦ベルにイレーズがやって来た。

 コン太は青ざめて慌てふためく。

 「うっ、うわあああっ! あわわわわっ! もしやもしやっ! 勝手な行動したおいらに未來王が怒っているのかい? おいら、これからイレーズにお仕置きされてしまうってことなのかい? つまり今日が、おいらの『命日』ってことなのかい?」

 ノアは焦って取り乱す。

 「イレーズ、やめてっ! コン太は凛花のことを大切に想っているの! だから少しだけ暴走しちゃっただけなの! もしもお仕置きするならお手柔てやわらかにお願いよっ」

 「…………(無言)」

 いつもは冷静クー沈着なノアが泣き叫ぶ。

 「ねえ、イレーズ……ッ! コン太を殺さないで? コン太がいなくなるなんて、そんなの耐えられないっ……! 私からコン太をうばわないでっ! どうかお願いっ! お願いよっ……!」

 凛花も涙ながらに切願せつがんする。

 「イレーズさんっ、私からもお願いします! どうかコン太を許してあげてくださいっ! もともとの原因は私にあります! だから、お仕置きするなら私だけを……っ」

 

 イレーズはあきれ顔をして肩をすぼめた。

 「あの、さ……。この間、横浜で『今度遊びに来て』って、言われたからさ……。だから来たんだけど? 迷惑だった?」

 「……? わわあっ、そうでしたか! もちろん大歓迎ですっ! 嬉しいです」

 凛花はぱあっと笑顔になった。

 「ん。お邪魔、します?」

 ノアは心底安堵あんどした。命拾いしたコン太はいつもの威勢いせいを取り戻した。

 「じゃあさあ! これから四人でタコパ(たこ焼きパーティー)やろうよ! おいら今すぐ角上魚類・所沢店に行ってタコ、買ってくるからさ」

 「あら、いいわねっ! イレーズがたこ焼き食べている姿……、見てみたいわあ」

 

 タコパが始まる。

 イレーズは眉間みけんにしわを寄せた。

 「たこ焼き、ってさ。このげた丸いやつ?」

 「そうです! はい、どうぞ」

 「……。あつっ……。あれ? 意外とおいしいかも」

 「いっぱい食べてくださいね! あ、そうだ! 今度『カフェ・豆うさぎ』に行きませんか? 先週ノアと食事に行ったんですけど『そば粉ガレット』がとってもおいしかったの」

 「へえ? 近くなの?」

 「はい! 歩いてすぐです。デザートもおいしいの!」

 「ククッ……。じゃあ次は、ガレットとデザート、だね?」

 「はいっ」

 

 ノアとコン太は嬉しくてたまらない。

 「ねえ見て? 凛花の顔……。幸せそうね」

 「おいらも驚きだよ! あのイレーズがニッコニコの甘々あまあまだよ!」

 「うふふ。なんだか見ているこっちまで幸せな気分になるわね」

 「おいらも幸せだよ! ノアがどれだけおいらのことを……、ってさ。……うへへっ! 思い出すだけで嬉しくって泣きそうだよ!」

 「あら? 私、何か言ったかしら?」

 「イヒヒッ! どうやら所沢ところざわはハッピーッ! ……みたいだねえ?」


 スマホに速報ニュースが流れた。

 おしどり夫妻と称されていたレンジとサユミの離婚が報じられていた。

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