第二十四章 ①審判(自白・コンフェッション)
映画館・ステージ上。
「やめてええっ! お父さんを殺さないでえっ!」
ピタリ……。
(んん? あれれえ? 一体どうなっているんだい?)
どうやら声も出せないらしい。
しかし脳内は冴えていて
動きが停止したのはコン太だけである。
レンジは『お父さん』と呼ばれて
……まさか? 羽衣が知っているのか?
羽衣は必死に訴えかける。
「知っていたの! レンジさんがお父さんだってこと……、ずっと前から分かっていたのっ!」
「うっ、羽衣?」
「小さい頃から人気俳優のレンジさんに会いたかった。どうすれば会えるのかな、っていつも考えていた。だから羽衣は
「え? ふたりは不倫しているのではなかったの? あのスキャンダルは……?」
「あんなの全部デタラメですっ。不倫なんてしていません!」
「だけど、週刊誌に高級ホテルでの密会写真が……」
「あの写真はホテルのレストランで食事をご
「え、え? じゃ、じゃあ、男女の関係は?」
「そんなの一切ありません! レンジさんはいつだって
「そ、そんな……。つまり羽衣さんは、レンジさんが父親であることを初めから知っていたってこと?」
「そうです。全部知っていてレンジさんに近づいたんです。……だけど欲が出ちゃったの。もっともっと仲良くなりたいって思っちゃったの。だから連絡先の交換も、デートのお誘いも全部、羽衣からお願いしました」
「じゃ、じゃあ、レンジさんとは……? もしや僕は、思い込みでとんでもない勘違いを……?」
「朝も夜も、いつだって! 空に向かってお願いしていました。一年じゅう、神様とサンタさんと彦星さんと織姫さんに『お父さんに会わせて』って祈っていました。その願いが神様に届いたの。だから、レンジさんに会わせてもらえたの……」
輝章は言葉を失った。
そうして涙声で
「あのね? ママはいつも言っていたよ。『レンジさんは世界一、大好きな人』だって」
「……? そっ、そんな馬鹿なっ……」
「あの日、レンジさんと出会えたから『天使』を
「う、嘘だ……。あんなに
「ママはね、
レンジは胸が張り裂けてしまいそうだ。
……信じられない! ナナはこの俺を
……二十三年前。所沢市で出会ったのは愛らしくて親切な女子中学生だった。あらぬ欲望に支配された俺は少女を
ぐったりして地面に横たわる少女に二万円を投げつけた。そうしてアクセルを踏み込んで逃げ出した。
……あのあと、半裸で置き去りにされた
自宅までの道のりを泣きながら歩いたのだろうか。
妊娠が分かったとき、どれほど絶望したのだろうか……。
世間からの冷たい眼差しは耐え難かったはずだ。進学もままならず金銭的にも相当の苦労があっただろう。出産も子育ても、思うようにいかなかっただろうに…………。
レンジは
「俺は……、ほんの少しだけ人間らしい心を取り戻せた。
「レンジ、さん……」
「しかし俺は羽衣の
「でっ、でもっ……!」
レンジは
「羽衣、聞いてくれ。実は『偽装結婚』を解消したんだ」
「え? 偽装、結婚……?」
「サユミと離婚したんだよ。三日前に。この試写会が終わったあとに正式発表するつもりでいた」
「サユミさんと離婚したの? 本当に?」
「ああ。それから俺の資産もすべて整理した。それでサユミと『被害者』に慰謝料を支払う。羽衣の自宅にも、近々弁護士が訪れる。そうしたら提示されたものを拒絶せずに受け取って欲しい。今後の手続きは弁護士に
「べんご、し?」
「おそらく俺は今日を最後に消えてしまうだろう。……だが遠慮は無用だ。せめてもの
そしてどうか家族みんなで幸せに暮らして欲しい……。それが俺の一番の願いなんだ」
「いやっ、いやっ! それじゃあ家族みんなとは言わない! お父さんがいないっ! そんなのいやっ! いやだあああっ……」
羽衣は半狂乱で泣き叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます