第二十三章 ⑤制裁(因果・コーザリティ)
映画館・ステージ上。
凛花はレンジに澄んだ眼差しを向ける。そうして
「あなたは
思いがけない言葉に足元がぐらついた。しかし即座に叩き返す。
「いや違う。これは
「そうでしょうか……」
凛花はそっと息を吐き出した。
「レンジさん、覚えていますか? 数年前に起こった
「震災……?」
「レンジさんは真っ先に
「あ……、いや、それは……」
「各地での台風被害に際しても同様でした。いち早くボランティアに駆けつけて被災されたお宅の片づけ作業をされていました。炎天下に汗を拭って、顔までも泥まみれになって…………」
レンジは声を荒らげる。
「違うっ! あんなものは下劣な茶番劇だ! 俳優レンジの好感度維持のために
「いいえ。たとえ動機や
「いや、違う。
「だとすれば。紛れもない事実がもうひとつあります。レンジさんの率先した善なる
レンジは首を横に振る。
「いや……。俺の行動の裏側には、いつだって汚い
凛花は微笑む。
「レンジさんの呼びかけは『真心の
凛花はさらに続ける。
「数年前に刊行されたレンジさんの
「え……? あ、あんなものを……?」
「レンジさんは幼少期から子役として活躍されていた。しかし
レンジは
「は、ははは……。そうです。いつの間にか両親の金銭感覚は狂っていた。子供の稼いだ金を奪い合って競って使い込むようになっていた。互いを責め立てて
「はい……」
「親権者は母親に決まった。それでも父親は金の無心に訪れた。連日連夜、飲み屋の女を
「……」
「とは言え母親も相当な『ろくでなし』だった。
当時未成年(十三歳)だった俺は事務所の社長に引き取られた」
「確か……、中学生から成人するまでの数年間は事務所の社長宅にお世話になっていたのですよね?」
「そうです。社長が俺の親代わりでした。……それから半年後、ホストに捨てられた母親が社長宅に乗り込んできて
「……」
「そんな母親もすでにこの世にいない。俺が十七歳の時に自殺した。理由は当時の彼氏に捨てられたからだった。失踪先のアパートに遺書のような走り書きのメモが残されていた。そこには【捨てないで。愛してる】とだけ書かれていた。
凛花は小さく頷いた。
「レンジさんの
「
「レンジさんは被害者でもありますよね?」
「いや、俺は加害者にほかならない。そして
「はい。確かに心の傷の『
「いや! 俺の仕出かした罪は
ピュン……!
凛花は真珠色龍神ノアの背に
そうして高らかに宣言する。
「レンジさん。私はあなたを
「え…………?」
コン太は焦る。当事者の申し渡しによって制裁執行を中止しなければならないのだ。
「やめろ! 凛花っ、
凛花はにっこりする。
「コン太、もういいの。だって私は今こうして生きているでしょう? 幸せに暮らしているでしょう? だからもういいの……」
「ダメだっ! レンジの暴行のせいで命が助かっても女性の機能のすべてを失ったじゃないか! 内臓がぐちゃぐちゃに破壊されて子供を
レンジは立ち尽くしたまま涙を落とす。たった今、残酷な事実を知ったのだ。
「そ、そんな、ま、まさか……?
……どうやら俺は正真正銘の『鬼畜』だった。俺が宇和島の幼女の純潔を奪った。さらに女性機能のすべてを破壊していた。輝くはずの『未來』の光を奪って取り返しのつかない暗い影を落としていた……。
どれほど罪過を悔いても時は戻らない。金では解決できない。俺の罪は決して赦されてはならないのだ……!
レンジは
「是非とも死んで償いたい。在狼くん、頼む。俺を、殺してくれ……」
「はいよ、了解だよ!
「はい。どうぞよろしくお願いします」
コン太はほくそ笑む。レンジの首筋に
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