第二十一章 ④三峯のオオカミ
三峯の丘・桜色のベンチ。
イレーズが息を小さく吐き出す。
「凛花、ごめん。楽しい
「…………」
気づけば凜花は大粒の涙をボロボロとこぼして泣いていた。
「おっ、おい? 大丈夫か?」
目も頬も鼻先も真っ赤だ。ヒックヒックと呼吸まで荒く乱れている。
「イッ、イレッ、イレーズさんっ! こ、孤独に慣れ、ないで、くだっ、さい……!」
凛花は途切れ途切れに言葉を
ピューーーーーッ…………
風が音を立てる。冷たい北風がヒューン、吹き抜けた。
ガサッ、ガサリッ……。何かが枯葉を踏みつける音が聞こえてきた。
二頭の『
凛花は息を
二頭はふたりの目の前に正対して
イレーズが三峯の銀狼の名を呼びかける。
「カン(寒)、ダン(暖)、
すると
「よお、イレーズ! あたいを呼んだか? 寂しくなったのか?」
「あっ、ゴン子……!」
イレーズが小さく叫んだ。
「ゴン子さん……?」
凛花は驚くのだった。
ゴン子は凛花を指差した。
「おいっ! イレーズの隣にいるそこの女っ! あたいと友達になってくれないか?」
凛花は即座に姿勢を正す。そして元気よく返答する。
「はいっ、もちろんです! 凛花と申します。ゴン子さん、よろしくお願いいたします」
ゴン子は銀狼カン(寒)の背の上で腰に手を当てて
「では、凛花。あたいの『友達』として問う。イレーズを恋人にしないのはなぜだ?」
「え? あの、えっと…………」
凛花は口ごもる。ゴン子は指を差して問い詰める。
「もしや……。イレーズがこの世の者ではないからか? 呪術を
「ちっ、違います!」
「では。愛想が無いからか? 顔が整い過ぎていて自分のプライドが許さないからか? それとも……、
「違います! お願いです、やめてくださいっ! 全部全部、違いますっ」
凜花は浴びせかけられる
イレーズが傷つくのではないかと心配になる。
「ゴン子さん、違います! イレーズさんはこの上なく素敵な男性です。聡明であり清らかで思いやりもあります!」
「じゃあ、何が不足なんだ?」
「不足などひとつもありません! 申し分ない
「そうか……。では改めて問う。イレーズに
「はい。恐らくですが……。群を抜いて聡明であり、一切の
「ふうん? それで?」
「イレーズさんと同様に
「へえ? それから?」
「……。ですからっ! とにかく私のようなチンマリして
「ふうん? じゃあ仮に。
「…………。恐らく」
「そこに一切の『愛』が存在しなかったとしてもベストだというのだな? それがイレーズとっての幸せだというのだな?」
「いえっ! あの、それはっ…………」
凛花は言葉を
「要するに。イレーズは愛する者からは愛してもらえない。その程度の男だということか。……
「違いますっ! 私には愛する資格が無いと言っているだけですっ」
「なんだそれは。人を愛し
「いえ、私はただ単純に完璧なイレーズさんに
「勝手に思い込んで決めつけるな。お前の『本音』は違うだろう?」
「…………。はい」
「今すぐに本音を言え! 早くしろっ!」
「はっ、はいっ! 私はイレーズさんにたくさん笑って欲しいです。たくさんの愛を感じて欲しいです。もしもイレーズさんの恋人になれるのなら……。どれほど幸せなのだろう、……って思いますっ!」
凛花は胸の内を正直に
「……ククッ! イレーズ、良かったな」
ゴン子の声色が聞き覚えのある独特なバスバリトンの低音ヴォイスに変わった。
「え、え、ええっ? その声は……! まさか太郎さん?」
「ハハ。凛花さん、こんにちは」
ゴン子は『太郎』の姿に
服装はスリムジーンズにスニーカー。ジャガード編みのセーターの上からワッフルジャケットカーディガンを羽織っている。大学生らしいカジュアルファッションだ。
太郎は微笑む。
「もう知っているかとは思いますが。イレーズは飛び切りの『良い男(グッドガイ)』ですよ?」
「はい。
「凛花さん、一体なにを迷っているのです? 自分の心に従うだけですよ?」
「……はい」
太郎は小さく息を吐いて肩をすぼめた。
「では特別に。『
「はいっ」
「
「え……、そうなのですか?」
「そうです。ましては『極等万能祭司』の
「
「そうです。たったひとりの
「時代、国籍、年齢、性別さえも超越した
「
「
「いいえ、そうではありません。
「……はい」
「
凛花は思考がぐるぐるして追い付かない。
「あ、あのっ、太郎さんっ! どうしたらよいのか……、まだ正解がわかりませんっ」
「ハハ、ただ素直に
…………シュンッ!
太郎と二頭の
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