第二十章 ③ブランチタイム
三峯の丘の上。
ノアがしびれを切らす。
「ねえっ! そろそろお弁当タイムにしましょうよ! お腹が空いたわ」
「うんっ! すぐに用意するね」
凛花はリュックから弁当を取り出して
コン太は右手に三角いなり、左手に唐揚げをつかんだ。大きな口でかぶりつく。
「ムグムグムグ。あー、やっぱり
「ほんとよね! 凛花、
厚焼き玉子をつまんでノアはご機嫌だ。
イレーズの目の前に重箱を差し出そうと、凛花は勇気を絞り出す。
「あ、あのっ!
「え……」
イレーズはわずかに
「うーん。じゃ、食べて、みようかな……」
コン太とノアは
「お、おいっ! イレーズ、吐き出せよ!
「そうよ、無理しないで! イレーズは人間の手作りなんて恐ろしくて
「わっ、
凛花は
「あれ? ……味がした」
イレーズがぼそり、
「凛花、味がしたよ! 不思議な味だけど
「味がした、……ですか?」
イレーズが微笑む。
「俺たちのいる『
「五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)はあるのですね?」
「うん。五感だけでなく第六感(ESP・超感覚)まで
「わ、そうか。第六感(ESP)も……」
「とはいっても。あらゆる『欲求』が薄いからさ。食べても食べなくても、飲んでも飲まなくても、眠っても眠らなくても。どっちでもいいってだけ。だけど気が向くとフルーツを食べたりするよ」
「
「当然あるよ。悟りを開いての『
「え? 確か修行をして目指すのは『無の境地』ですよね? 到達すべきは
「ククッ、確かに世間的にはそう言われているよね? だけど王は違う。
「ええっ?」
「そもそも何も感じない奴に苦しみや痛みがわかるのか、って考えなんだよ」
「それは確かに……」
「だから
「本当に先進的なのですね。まさにネオフューチャーです」
「あ、そうだ。人間界では『太郎』の母親の料理なら何度も食べたことがあるよ」
「わ! 太郎さんのお母さま!」
「お母さまって……。ククッ! 太郎の両親は驚くほど庶民的だよ? しかしどうやら料理の腕前は凛花が
「そんな……」
凛花は恐縮した。
コン太とノアはある確信をする。これは
ノアが声をあげる。
「あっ、あらあっ、嫌だわあ! いっけない! きゅ、急用を思い出したわっ。い、急いで行かないとっ!」
声が裏返っている。相変わらず白々しい演技だ。しかしコン太にとっては
「イヒヒッ(まったくノアは可愛いなあ)! じゃあ、おいらとノアは急用ができたから先に戻るよ。ごめんよ、悪いねえ?」
凛花は
「えっ、待って待って! すぐに片付ける」
「いやいや!
「そっ、そんなそんなっ、とんでもないです! 私もノアと一緒にすぐに帰ります。お弁当を食べていただきありがとうございました! お会いできて嬉しかったです!」
頭を下げて早口で
「あのさ、凛花。もしも迷惑でなければ少し気晴らしに付き合ってもらってもいい?
そんな凛花の姿にイレーズは目を細めた。
「そんな、迷惑なんて……。よろしいのですか?」
思いがけない提案だった。
「今日はさ、なぜか急にオフになって
「……はっ、はいっ!」
気づけばレジャーシートと重箱弁当は消えていた。ノアとコン太はもうそこにはいない。
「クク、コン太らしいな。じゃあ、こっちに座ろうか?」
イレーズは
冬晴れの薄い日差しが並んで腰かけたふたりを暖かく包み込んでいる。
凜花の目には、強い風に誘われて動く白い大きな雲が映っていた。
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