第十七章 ①ダイアローグ(龍神信仰って)

 おやつタイムを終えた。

 凛花はこの千載せんざい一遇いちぐうのチャンスを逃したくなかった。もっともっと知りたくて。もっともっと学びたいのだ。

 

 凛花は質問をぶつける。そしてダイアローグ(対話)が始まった。

 「龍使いの任務とは。『契約』をつうじて『龍神信仰』を流布るふさせる目的もあるのでしょうか?」

 「龍神信仰の流布るふですか? そんな必要はありません」

 「それでは龍神の存在に否定的な方々にも等しく『契約』のチャンスがあるということですか?」

 「そうです」

 「私としては。できれば多くの方々に『龍神』のことを好きになってもらいたいです」

 「それは傲慢ごうまんな考えです。龍神を好きであろうとなかろうと関係ありません」

 「世間的には非現実的(幻想)だととらえられている神霊獣『龍神』をしたっていたほうが『契約』に優位に働くのではないですか?」

 「そうではありません。あらかじめ設定された契約ルールとプログラムに合致がっちしていればいいのです」

 「では龍使いは龍神信仰を推奨して流布るふさせる必要は一切ないということですか?」

 「はい、そのとおりです。いかなる信仰も個人の自由です。否定も推奨すいしょうもすべきではありません」

 「本当に『自由』なのですね」

 「そうです。しかしまあ、自由とはいえ最低限のルールは必要ですが」

 「ルール、ですか?」

 「周囲を不快にさせない。たぶらかさない。神仏を悪用しない。……これが最低限のルールです」

 「不快、とは?」

 「どこかの誰かに脳内操縦コントロールされたり。いびつな思想を埋め込まれたり。行動の制限や強制をされたり。そんな横暴をされる筋合いはありません」

 「確かに……。もしかしたら私は『龍神』を強くしたうあまりにりきみ過ぎていたのかも知れません」

 「そうかもしれませんね。ですが凛花さんには『真心まごころ』があります。それこそが龍神たちに愛される所以ゆえんなのではないでしょうか」

 「……そうでしょうか。知識も真心も全然足りていないような気がしています」

 

 太郎は微笑む。

 「凛花さんが鬼ヶ城の浜辺で是契約者に向けてつむぐ言葉は的確です。さらには深い慈愛じあいを感じます」

 「嬉しいです。なぜか口から勝手に言葉が飛び出してくるのです。それがいつも不思議でした」

 「それはフィールリズムに『言霊ことだま』エネルギーが込められているからです。凛花さんの潜在サブコン意識シャスにある『至情しじょう』が言霊ことだま(言葉)となって発せられているのです」

 「見事なまでの先進的システムプログラムなのですね。感服です」

 

 凛花は大きく息を吐き出した。

 「実は。ずっとずっとモヤモヤしていたことがあります」

 「何でしょう?」

 「是契約を交わした方々はたぐいまれなる幸運を手にして世の成功者になります。しかしながら本当に幸せになったと言えるのでしょうか?」

 「なぜ、そのように思うのですか?」 

 「せっかく『ほまれ』を手にしても、結局すべてをくしてしまう契約者が見受けられるからです」

 「ハハ、それは確かに。根幹を見失みうしなってリズムが消滅してしまう人もいるようですね。ですが是契約者たちの大きな成功の裏には並々ならぬ努力の痕跡こんせき(積み重ね)があるのではないでしょうか」

 「はい。しかしながら大多数の人間はリズムを最大値にできません。となるとみなが『普通』を得ることこそが『平等』と言えるのではないですか?」

 「うーん、果たしてそうでしょうか。それでは『普通こそが正義』という定義にも受け取れてしまいます。考えようによってはていよくあきらめるための言い訳にも聞こえます」

 「皆が『同等』であれば平和なのではないですか?」

 「同等こそが『平等』ですか? しかしそれでは才能ある者たちやマイノリティ(少数派)の人間を『変わり者』だと打ち消すことにつながりかねません。際立きわだ才能センス、クリエイティブな個性、地道な努力への否定です」

 「ですが残酷な現実として。凡夫(普通)はむくわれない確率が高いです。それなのに歯を食いしばって頑張り続けるというのはつらいことだと思うのですが?」

 太郎は肩をすぼめる。

 「革新的情報化社会の現代において『世俗せぞく化』は避けられません。しかし過度な世俗化は『凡庸ぼんよう』であることへの肯定こうていです。安易な受容は間違いだと言っているだけのことです」

 

 凛花は問う。

 「大きな願いを叶えるためには飛びぬけた才能と運が求められますよね?」

 「確かに『運』は必要かもしれません。しかし叶うかどうかという結果に対する論議ろんぎは不毛です。大切なのはそこへ至るまでの過程プロセスです」

 「ですが。頑張って難関を突破クリアしたとしても契約不履行によって裁かれます。必死に積み重ねてきた痕跡こんせきすべてを失ってしまいます」

 「厳し過ぎる、と感じますか?」

 「はい……。すさまじいまでに、ハイリスク・ハイリターンだと」

 「ハハ、実はですね。否の制裁によって『空蝉うつせみインコ』に変じてしまったエラー人間には再チャンスが与えられています」

 「そうなのですか!」

 「はい。もともと契約者には才能があるわけです。失敗をバネとして。かてとして。『黄泉よみの国』で心根こころねを入れ替えることができたなら人生を再チャレンジすることが可能です」

 「生まれ変わって、ということですか?」

 「はい。要は『転生てんせい』ですね。転生チャンスはそれこそ全員に、平等に、あります」

 「わあ! なんだか少し安心しました」

 「しかし。心根こころねを入れ替えるのは容易ではありません。ですからあくまでも転生の『見込み』や『可能性』の話です」

 「総合的に見ると『是契約者』の方々はやはり幸運、ということなのですね」

 「それは間違いありません。是契約者は精一杯の努力の先に『運』にも恵まれたのです。結論として。『凡庸ぼんよう』を安易に肯定こうていすべきではありません。日々に努力を積み重ねることこそが重要なのだと思います」

 凛花はうべなった。

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