第十六章 ②老爺と青年
お腹が満たされて蕎麦屋を出ると、時間はまだ正午だった。
「ねえ、お爺さん! 私ね夕方まで時間があるの。だから一緒に観光しましょうよ!」
「いいねえ」
「あっ、仲良くなった記念に『縁結び箸』を買いましょうか! 名前を入れてくださるみたいですよ?」
「うーん……。それは遠慮するよ。
「大丈夫、大丈夫っ! 恋人なんていないから」
「そうなのかい? ああ、そうだ。『稲佐の浜』には行ってみたいなあ。夕日がきれいみたいだからなあ」
「それじゃあ、お散歩しながら稲佐の浜へ行きましょうか! あっ、ちょっと待ってて」
凛花は小走りして『ご縁横丁』の土産売り場に立ち寄る。売店で
まん丸お爺さんと連れ立って浜辺に向かって歩き出す。
「お爺さん、稲佐の浜まで歩ける? 背中を押しましょうか? それとも手を繋ぐ?」
「ふーっ、ふーっ。はあ、大丈夫だよ」
「頑張って! 稲佐の浜までもう少しだからねっ! 一緒に夕日を見れるといいね」
「ああ、そうだなあ…………」
まん
それは
稲佐の浜。
弁天島を視界に
砂浜の上に広げて敷く。それは白い花模様が織り込まれた可憐な『
「うわあ、綺麗な
凛花は思わず見入って
「ありがとうございます。これは『
爽やかに着座を
…………?
声があまりに若々しい。違和感を覚えてパッと顔を上げた。
凛花は目を
まん丸お爺さんはいなかった。目の前に立っていたのはスラリとした若い男性だったのだ。
青年が微笑む。
「凛花さん、こんにちは。どうぞ、
穏やかで独特なバスバリトンの
「あれ? お爺さんは? あれ、なんで私の名前……。あれ?」
「
「あっ、ああっ! はい! どうぞっ」
スタイリッシュな青年はスッと足を交差させると凛花の横に並んで体育座りをした。
青年は二十歳くらいに見えた。肌は白くスラリとした細身のスタイル。切れ長の瞳に薄い唇の薄塩しょうゆ顔だ。物腰は柔らかく知性に
先ほどまで一緒に居た『まん
凛花は不可思議なる青年に問いかけた。
「あのう、失礼ですが。『まん丸お爺さん』と同一人物ですか? 何ひとつリンクしなくて戸惑っています」
青年はわずかに口角を上げた。
「ああ、先ほどは美味しいお蕎麦をご
「わっ! と言うことは。お爺さんに姿を
「蕎麦屋では不愉快な思いをさせてしまったかも知れませんね。すみません」
「いえっ、全然っ! まん丸お爺さんは
それに、先日亡くなった宇和島の
「そうでしたか」
浜辺に
凛花は青空を見上げて
「あっ、わかりました! あなたは『神様』ですね? カミハカリ(
「神様。……なるほど」
「何となくですが。まん丸お爺さんは
「ハハ、あの
「はい。目が合った瞬間にほっこりして温かな気持ちになりました。きっと
「そうでしょうかね?」
「輝く
青年は肩を震わせる。
「
「わわ? すべてをご存じなのですか?」
「ええ。まあ、そうですね」
青年は打ち寄せる白波の
凛花はこの青年は間違いなく相当な人物(神様)なのだ察知した。
「あの、もしもご存じでしたら『龍使い』の基礎知識だけでも教えていただけませんか? 実はあまりにも
「そうですか? そうでもないのでは?」
「私は寿命が尽きる
青年は肩をすぼめた。
「まあ、確かに。図書館に通ったとしても。多くの文献を読み
「そうなんです……」
「ではザックリでよければ。『龍使いのシステム』をお教えしましょうか」
「わあ、本当ですか? ありがとうございます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます