第十六章 ①まん丸お爺さん
凜花にとっては初めての
本殿の参拝を終えて。まずは『縁結び守』と『壮気健全守』の肌守りを一体ずつ求めた。
そうして
日本一の『
コン太の教導に従って帰路の境内は右側を歩く。
歩みを進める。
これから『
「わあ、カフェで出雲ぜんざい、良いかも! ぜんざいケーキ、おいしそう……! あ、しじみ汁も飲みたいなあ」
『そば処・出雲えにし』の
凛花は奥のテーブル席に案内された。即座にお品書きと
ガラリッ! 大きな音を立てて引き戸の扉が開いた。
「なんだよ、昼前なのに混んでるなあ。あー、あーっ! それにしても腹が減ったっ」
ガサツで
シ————ン……。店内はまるで水を打ったように静まり返った。
その老爺は坊主頭にでっぷりとした体格だった。身に着けている衣服には土やら染み汚れが付着していて薄汚れている。
店内の客たちはあからさまに
「おいっ! どこに座ればいいんだよ」
老爺はちんけ(粗末)な
「お嬢さんひとりかい?
客たちはドン引きした。標的にされた若い女性に同情する。一斉に
「おいっ、
観光客たちは眉間にしわを寄せた。この老爺は
凛花は座ったまま
……なんだかほっこりした。ふと。宇和島の
……
爺は一見すると粗野で
天に召される
凛花は満面の笑顔で
「どうぞどうぞっ、大歓迎です! 座ってください」
「……。良いのかい?」
「はい、もちろんです! 実はね、ひとりで食事するのは寂しいなあ、って思っていたの。だからとっても嬉しいです」
「へえ、そうかい」
凛花はサッと立ち上がって向かい側の
「すまないなあ。はあ、どっこいしょっ」
観光客たちは悪口をピタリと
若い女性の思いがけない親切対応を
凛花は
「ねえ、お爺さん。注文するけど
「そうだなあ。腹が減っているからなあ。腹いっぱいに喰えればなんだっていいよ」
「それじゃあ一緒にお
元気よく注文を済ませる。そうして
「お爺さんの洋服には土がついているけれど。
「ああ、汚れているかい? もしや気分を害したかな?」
「ううん、全然っ! 私の実家は宇和島でみかん農家なんですよ。だから家族はいつも畑の土に
「そうかい。みかん農家かい」
「幼い頃から一番の好物は祖父の作ったみかんでした。だけど私の
「へえ、そうなのかい」
「そのせいか。可愛らしいまん丸お爺さんを見ていたら大好きだった宇和島の
「そうだったのかい。それは寂しいねえ。じゃあ親切にしてくれたお嬢さんには
凛花は首を横に振る。
「ううん! 私に
「へえ、
「それにね! 自慢じゃないけど節約上手なの。だから一緒にお蕎麦を食べてくださるお礼にご
「へえ、いいのかい? どうやら遠慮はいらないようだ。これは
ふたりは店内の
「お爺さん、美味しいね! お
「うーん。もうだいぶ腹がふくれたなあ」
「ええっ? もう? 私ね『あご野焼き』と『
「お嬢さんは見かけによらず
他愛ない世間話に花を咲かせる。食事を終える頃にはすっかり打ちとけて仲良くなっていた。
「ああ、大盛りは多すぎた。おいしかったが腹がいっぱいだ。だけどまあやっぱり、自分の
老爺はそう言って
「ああっ? こりゃ参った! どうやら財布を忘れたらしい。お嬢さんがいなかったら
もはや店員も店内の客たちも呆れ返って笑ってしまった。
「もう! お爺さんったら!
凛花はにこにこして会計を済ます。
店内からはなぜか
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