第十五章 ①表龍王一族
「あっ!
凛花は思わず声を上げた。
目の前に現れた二体の龍神の風貌は高貴で気品に満ちていた。そのうちの一体は熊野の鬼ヶ城の海に
至極色龍神は
けれども。これほど至近距離でまみえたのは初めてだった。
「凛花、紹介しよう。妻の『
凛花は驚いて目を
「ええっ?
「うむ。雷紋と凛花は『
「はいっ!」
「雷紋は役に立っているかね?」
「もちろんです。至極色龍神から是契約者に与えられる『
「ほう、そうかね」
「それにしても! 奥様の
凛花は率直に心の内を申し述べた。
至極色龍神が気さくに声をかける。
「やあ、龍使い凛花。ようやく会えたね。まみえることができて嬉しいよ」
「はい! 私もお会いできてとても嬉しいです。今日は身に余る光栄な出来事ばかりです」
「アハハ。それにしても僕は誰かさんのお陰で朝が忙しくなってしまったよ。働き者の龍使いが
雷紋は冗談めかして肩をすぼめた。
「あっ! わわっ! すみません……。ちょっと
「アハハッ! 冗談だよ、冗談! まったく可愛いなあ。そうそう、これから僕のことは『
雷紋は
「はいっ! じゃあ、雷紋。これからも遠慮なく『
「アハハ、参ったな。ますます仕事が増えそうだ」
「はじめまして、凛花。わたくしのことは『ユウイ』と
「はいっ! ユウイさま。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「龍使いは龍神界にとって大切な家族です。仲良くしてくださって有り難いですわ」
凛花は感激する。
「もったいないお言葉です。私こそ仲良くしていただいて幸せです」
「うふふ。実はわたくしと
「わあ、そうなのですね! 私はミュウズママのことを一目で大好きになりました。ユウイさまのことも! もうすでに大好きです」
「うふふ、嬉しいですわ。わたくしは
ユウイは
至極色龍神雷紋は黒味の強い
貝紫色龍神ユウイは赤みを帯びた
すかさずコン太が口を挟む。
「要するにさ。
「なるほど」
「そして
凛花は納得する。
「うん! 雷紋は紳士的で色っぽいよね!
「イヒヒッ! ちなみに人気の二位はおいらかな(たぶん)」
雷紋が皮肉めいて返す。
「コン太が二位か……。さて、それはどうかな?」
「おいおいっ! 今日のところは大サービスして、おいらが二位ってことにしておいておくれよ」
「そうだな。確かに僕はモテる。圧倒的に女龍神たちから愛されている。チヤホヤされてもてはやされている。……だけど僕は二位だ。どうしたってコン太には
そっと目を伏せる雷紋に凛花が問う。
「どうしてそう思うのですか?」
「その答えは簡単だ。ノアに選ばれたのがコン太だからだよ。龍神界ナンバーワンの『美龍神ノア』のハートを射止めて恋人の座を
「ああ、確かに!」
コン太はニヤリとする。
「まあ、順位なんてどうだっていいけどさ。だけどおいらが龍神界一の幸せ者ってことは間違いないかもねえ!」
「だろう? だから僕が二位なんだよ」
「だけどそもそもさ! 雷紋はポリアモリー(複数性愛者)だからねえ……。龍神界の子孫繁栄に欠かせない特別な存在なんだよ。天上界に選ばれしプリンスこそが『雷紋』ってわけさ」
雷紋は天を
「まあ、そうなのかもね。だけど僕としてはさ。コン太もポリアモリーになるべきだと思うけど? コン太が有している高い有能遺伝子を残すためには多くの女龍神とパートナー契約をすべきだよ」
「いやいやいやっ! おいらは雷紋のように器用じゃないからねえ。複数性愛者なんて無理無理無理! アンリーズナブル(めちゃくちゃ)になっちゃうのが目に見えているよ」
「そうかな? もしかしてノアに気を遣ってる?」
「違う違うっ! そうじゃないよ! おいらの唯一の欠点は! ノアしか愛せないことなのさ!」
凛花は思わず考え込む。
……どうやらポリアモリーである至極色龍神雷紋には複数の妻や恋人が居るらしい。
確かに雷紋は魅力的な男龍神だ。気高き王家の
女龍神たちは雷紋を一途に想い続けているのだろう。
しかし凛花は雷紋の妻である女龍神たちに憧れなかった。
ノアとコン太の仲睦まじさを
ノアとコン太は、お互いが『特別に』想っている。お互いが『特別に』優先している。お互いが『特別に』尊重している。
重んじて、
そんな一途なふたりにこそ憧れた。
……自分の人生に恋愛とか結婚とかは無縁だ。だけどもしも万が一。間違って恋をしてしまうことがあるのだとすれば……。
贅沢かもしれなけれど、互いに『特別』に想い合いたい。
たったひとりの運命の相手と巡り会って。お互いを尊敬して
そんな恋ができるならば。……たった一度だけでいい。
だけどもうすでに多くの『
宇和島に温かな家族がいる。親友のノアとコン太がいる。龍神界にたくさんの家族がいる。
もしかすると私は『特別』を求めてはいけないのかもしれない。
なぜなら私は。もう十分過ぎるほどに幸せだから……。
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