第十三章 ④凛花の直感(ハンチ)

 赤煉瓦ベル。

 「うーん、うーん……。う? うううーーーーん…………」

 腕組みしたコン太が口をとがらせてうなっている。苦悶くもんしながら難題への対策を練っている。

 凜花に、おいらの親友であるカリスマ神霊獣使いを紹介すると約束した。凛花は無邪気なまでに喜んでいた。

 だがしかし。実のところ。このミッション(任務)は簡単ではない。非常にリスキー(危険)な案件なのである。

 ……うーん、ヤバいぞ。一抹いちまつの不安がよぎる。いや、大いなる危機感を覚える。

 

 コン太はアンビバレント(複雑な心境)だった。

 親友のカリスマ神霊獣使いとは。未來王の四大弟子『ごくとう万能ばんのう祭司さいし四人よにんしゅう』のひとりである。

 極等万能祭司四人衆の個体能力値は尋常じんじょうではない。さらにはルックス最高! スタイル抜群! レベル違いの飛びぬけた天才(ジーニアス)集団である。至高しこうなる彼らには神々でさえも滅多にお目にかかれない。超ウルトラハイスペックてん上人じょうびとなのだ。

 その中でもあいつは際立きわだって美しくてかしこい。キラッキラの美青年である。それに加えてキチガイレベルの天才だ。非の打ちどころのない完全無欠のパーフェクト男である。

 

 しかし羨望せんぼうまとであるあいつに近づくことは、ほぼほぼ不可能だ。

 なぜならあいつは! 『スーパー偏屈へんくつ男』なのである。

 無表情の無感情の不愛想。ドライでクールが基本形である。あいつのユージュアルモード(平素普段)はすさまじく冷たくて驚異的にない。冷淡非情のつれない性格だ。

 あげくに人間という生命体を心から嫌悪けん軽蔑している。

 要するに。人(龍)懐っこい凛花とは正反対の類型タイ性質なのだ。

 

 【神霊獣使いのふたりを出会わせて友人にさせてください】

 ……実はこれこそが未來王からの下命かめいである。未來王は気軽にサラーッとおっしゃられていた。

 だがしかしこの任務は簡単ではない。無謀むぼう極まる難題なのである。

 

 アップアップしながら思案熟考してみる。

 どこか似通にかよう感覚や感性を持ち合わせているかも知れない。わずかでも意気投合する可能性があるかも知れない。奇跡的に気が合って打ち解けるかも知れない。

 そうだ! ふたりには『神霊獣をつかさどる者』という共通点があるではないか。ふたりとも独特な命名センスがある。

 …………。いやいやいやっ! ほのぼの和気あいあいの光景がまったくもって想像できないぞ! やっぱり無理なのか? 

 しかしながらとりあえず。極々ごくごくわずかな確率に賭けてみるしかすべはない。

 とにもかくにも。おいらは未來王から課されたミッションを粛々しゅくしゅく遂行すいこうするしかない。

 もしも結果がともなわなかったとしたら……。まあ、それはそれで仕方がないことなのだ。


 ノアは眉をひそめて顔を曇らせる。そして大きなため息をく。

 「ふう……。凛花は龍使いなのだからすべての神霊獣を統括とうかつしている『カリスマ神霊獣使い』にいつかは会うべきなのよね?」

 コン太はうんうんと頷く。

 「そうだねえ。おいらたち龍神も神霊獣だからねえ……」

 「だけど本当に会わせて大丈夫? きっと冷罵れいばされて嫌な思いをさせられるわよ? ひどって泣かされてしまうかも知れないわ!」

 「うーん。おいら、いっぱい悩んで考えてみたんだけどさ。結局なんにも解決策が見つからなかったんだよ」

 「そうよね。相手は極等万能祭司ですもの。そもそも太刀打たちうちできるはずがないわ。だけどそれでも何らかの対策を考えないと……」

 「だけどさ、おそらくきっと! 何とかなるような気がするんだよ! たぶんだけどさ」

 「たぶんって……、無責任ね! あの冷血漢れいけつかんよ? 氷の男よ? 笑った顔なんて一度も見たことないわよ? 何とかなるわけないじゃない!」

 「うーん、確かに。だけどまあ、どちらにせよ未來王の下命かめいだしねえ? 指示どおりに進めないとだしさ」

 「ああ、そうね。そうよね。凛花は未來王にお仕えしている龍使いなのだから、さすがに微塵みじんにされはしないだろうけど……」

 「とは言えどもさ。念のために最悪の事態は想定しておかないとだよねえ……」

 「ええ、確かにそうだわ! 凛花っ! こわがらないで! いざとなったら私とコン太が命懸いのちがけで守るからっ」

 凛花は目を丸くする。

 「えっ? 命懸け? どういうこと?」

 「ああっ、どうしましょう! 不安だわ! もはや不安しかないわ」

 冷静クー沈着なノアがめずらしく心を乱している。

 

 ノアの曇った表情が気にかかる。飛びっていた会話はなかなか物騒ぶっそうだった。ふたりが『命懸け』とまで言うのだから相当の危険人物なのかも知れない。

 凛花は少しだけ心配になる。

 ……短気で怒りっぽいのかな? もしかしたら攻撃的で凶暴なのかな? ちょっとだけ気難しい仙人みたいなおじいさんかも? 

 凛花はイメージをふくらませる。しかしそこに恐怖感はない。

 コン太の親友であるカリスマ龍使いに会えることが楽しみで仕方ない。悦喜えつきの念がまさっている。

 実はずっと以前から『コン太』という愛称を付けたカリスマ神霊獣使いに一目でいいから会ってみたい。そう天に向かって祈っていたのだ。

 

 一見すると取っつきにくい呂色九頭龍神在あるろうを『コン太』と名付けるなんて最高にセンスがいい。

 コン太の憎めない可愛らしい属性ぞくせいを理解している。コン太に対する信頼や愛情を感じる。

 カリスマ神霊獣使いは数多あまたの龍神や神霊獣の個性を熟知しているに違いない! きっと只者ただものではない! そしてもしも叶うならば神霊獣使いとしての心得や基礎知識を教導きょうどうしてもらいたい! そう思っていた。いつの日か会ってみたいと熱望していた。

 密かに尊敬していた人物にもうすぐ会えると思うとワクワクする。浮き立つ心が抑えられない。

 凛花は期待いっぱいに胸をおどらせていた。

 

 或るたっとき人物が龍使いを見澄ましていた。彼の『カミハカリの演算』によって凛花の運命デスティニーが動き始めていた。

 愉快そうに口角を上げて微笑みを浮かべる。

 それはたっときアルカイックスマイルだった。

 

 龍神物語は、ネオフィーチャー(新たな未來)のステージへと大きくかじを切った。

 さあ、出発だ。

 

 いざ、出雲いずも大社おおやしろへ!      

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