第十二章 ④集結(乱波の伝授)

 コン太のレクチャーが終わった。

 富士の強面こわもてイケオジ(五大龍神)は凛花を取り囲んだ。

 乱波らっぱたちは首元の『龍宝珠ドラゴンジュエル』を取り出して妻龍神を投影とうえいする。そうして凛花の目の前にスッと差し出した。

 凛花が五つのドラゴン宝珠ジュエルに顔を近づけてジッと覗き込む。映し出されていたのは美しい女龍神の姿だった。凛花に向かってフレンドリーに手を振っている。

 「わあっ、見えた! 凛花です。初めまして。皆さんとお会いできて嬉しいです」

 「あなたが凛花ね! はじめまして!」

 乱波の妻龍神たちの快活かいかつな声が響いてきた。

 「噂の凛花に会えて嬉しいわ!」

 「黄金龍王トールから唯一認められた龍使いなんですってね?」

 「簡単に心を許さないクールなノアと仲良く暮らしているんですってね?」

 「あの! 気難しい(ディフィカルト)コン太をあっという間に懐柔かいじゅうしたんですってね?」 

 「凄腕すごうで龍使いって評判よ!」

 宝珠の中から乱波の妻龍神たちが興奮してしゃべり倒している。

 ノアがくすりと笑う。

 「凛花はね、天然の『龍たらし』なのよ」

 ミュウズも会話に加わる。

 「私も永い昼寝から久々に目覚めたでしょう? そしたら! あっという間に! 龍使いに懐柔かいじゅうされてしまったわ。もう凛花のことが可愛くて仕方ないの」

 凛花は満面の笑顔で応える。

 「私には家族がふたつあります。宇和島の家族と龍神たちが家族です。是非とも皆さんとも仲良くしたいです。今日から『家族』として仲間に入れていただけますか?」

 乱波の妻龍神たちは凛花の瞳を照覧しょうらんする。フィールリズムを有する龍使いの眼差しににごりはない。瑞光ずいこうオーラの如くに澄み渡って輝いている。

 「もちろんよ! よろこんで! これからもよろしくね!」

 女性陣はトークに花を咲かせてキャピキャピと盛り上がり始めた。

 強面こわもて乱波らっぱたちは女性陣の楽しそうなやりとりを見つめて目を細めた。

 

 乱波が凛花に伝える。

 「それでは特別に。富士の五大龍神と心を通わせる方法を伝授してやろう(西)」

 「富士五湖の湖畔の浅瀬の『龍神ドラゴン特定ポイ箇所ント』から指先を入れて二〜三秒ほど湖水に触れさせるのだ。それだけで龍神に波動エネルギーが伝わる。左右のどちらの手でもいい。どの指でも構わない(精進)」

 「それぞれの場所ロケーションからは富士の山がよく見える。富士山が眺望ちょうぼうできて浅瀬あさせのある場所こそがドラゴンポイントだ(河口)」

 「しかし本栖湖湖畔こはん特定ポイ箇所ントからだけは富士の山は見えない。そのかわり龍神伝説が残る竜ヶ岳がよく見える(本栖)」

 「富士五湖それぞれの龍神ドラゴン特定ポイ箇所ントを見つけてみるのも楽しいだろう(山中)」

 「例えばそんなふうに指先から波動を繋げて龍神とまみえる参拝手段も『アリ』なのかも知れない(西)」

 

 黄金龍王トールが総括そうかつする。

 「凛花、良いかい? 基本的に寺社詣でやパワースポット探索は指定のルールにのっとって安全に楽しめばいいんだよ。

 しかしそこにはゆずれない条件がある。神聖な場所だからこそ、周囲を不快にさせる行動をしないことが肝要だ。

 参拝やお詣りや観光というものに目的意識や実りを見出そうとするならば。まずは清々すがすがしい心で五感を研ぎ澄ます。そうして心に『光』が差し込んでくるのを感じることが望ましい。

 清らかな瞳に映る景色。差し込む木漏れ日。澄んだ空気を深呼吸して。そよぐ風を肌に感じて……。そんな清浄なる心中しんちゅうに『神聖なる何か』が流れ込んでくる。そうして未來が明るく照らされていくのかも知れないね」

 コン太も頷く。

 「おいら、非常識で無神経な奴らは大っ嫌いだよ! だけどウキウキして楽しそうにしている人たちを見ると気分が良いよ! 

 何となくいい気分になって、元気になってさ。ささやかでも希望が湧き出してきたならさ。きっとそれでいいんだよ! 

 堅苦しくて生真面目なのも悪くはない。けれど折角せっかくの人生なのだからワクワクして楽しめばいいのさ。笑顔を減らして我慢と忍耐と愚痴ばかりでは人生がもったいない。柔軟性フレキシブルが大事だよ!」

 凛花は納得して大きくうなずく。

 「はい! ドラゴンポイントを探索したくてウズウズしてきました。今度ノアとコン太と行ってみます。ねっ、コン太。三人で行こうね!」

 「ん、んん? ……ああ! そうだねえ、行こうねえ…………」

 コン太は一瞬、言葉を詰まらせた。しかしすぐに笑顔を向ける。

 「だけどさあ、凛花。ほうとうと吉田うどん。どっちを食べるか悩むねえ!」

 「そっか、そうだよね。どうしよう、両方食べきれるかなあ」

 「じゃあさあ、残ったらおいらが全部食べてやるよ!」

 「やった! それじゃあ、鳥もつ煮も食べたいな」

 

 黄金龍王一族は凛花とコン太のほんわか会話を聞きながら心をなごませる。

 しかし柔らかな表情の対極には。うれいを帯びたかげりが隠されていた。

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