カミハカリの演算 ネオフューチャー・ドラゴンゴッド

第十二章 ③集結(コン太のレクチャー)

　凛花主催の『食事会』を終えたタイミングに黄金龍王トールが要請する。

　「コン太、富士の五大龍神の『神話』を凛花にレクチャーしてやってくれないか？」

　緋色（ひいろ）龍神ミュウズも頷（うなず）く。

　「そうね！　龍使い凛花の知識拡大のために。おしゃべりコン太が適役ね！」

　コン太はうんうんと頷いて同意する。

　「おいらが愛するノアのご両親（パパンママン）の頼みとあらば喜んで！　それに大事な親友凛花のためだしねえ！」

　凛花は思わず笑顔になる。講義が楽しみすぎて姿勢を正して正座する。

　ノアとミュウズの母娘（おやこ）が同じ言葉をかける。

　「凛花、痺（しび）れちゃうから足は崩して！　気楽に聞けばいいの！　気楽にね」

　「あっ、はい！」凛花はアヒル座り(内股座り)に直した。

　コン太は軽快に語り始める。

　「ではでは！　『富士の乱波（らっぱ）五大龍神』神話（しんわ）のはじまり、はじまりーっ！」

　……その昔。富士五湖の五大龍神の仲は険悪だった。エネルギーを持て余した癇癪（かんしゃく）持ちの龍神たちの諍（いさか）いが絶えなかった。血気（けっき）盛んな五体は激しくぶつかり合って喧嘩（けんか）に明け暮れていた。

　村人は富士の五大龍神を『乱波（らっぱ）』と陰で呼称した。粗悪凶暴な乱波（らっぱ）たちに戦々恐々（せんせんきょうきょう）として怯（おび）えていた。

　昼夜（ちゅうや）を問わずに荒（あら）くれ者の龍神たちが暴れ狂う。轟（ごう）雷（らい）が鳴り響いて豪雨が降り続く。村はどんどん荒廃（こうはい）していく。

　村人は困り果てて途方に暮れていた。

　……どうか乱波（らっ）龍神（ぱ）を鎮（しず）めてください！　

　村人たちは天に向かってひたすら祈った。悲痛な願いを感知した黄金龍王トールは憂患（ゆうかん）苦慮（くりょ）した。　

　そして妻の緋色（ひいろ）龍神ミュウズをオーガナイザー(まとめ役)として富士の麓（ふもと）、鳴沢（なるさわ）へと送り込んだ。

　富士五湖の統括（とうかつ）龍神に正式任命された緋色龍神は『八（はち）大万能（だいばんのう）龍神』の一尊である。

　流石（さすが）の乱波（らっぱ）五大龍神も緋色龍神ミュウズを重んじた。だから敬意をはらう。遵従（じゅんじゅう）して逆（さか）らわない。

　しかし。生得（しょうとく）の荒っぽい性質変えるのは簡単ではなかった。血の気の多い乱波（らっぱ）たちはどうしても些細（ささい）なことでぶつかりあってしまう。なかなか最善の策が見つからない。

　苦悩する日々が数年経過した。そんな中に緋色龍神は活路（かつろ）を見出（みいだ）した。

　五体に相応（ふさわ）しいパートナーを選んで『共同龍体』を創出（そうしゅつ）することを思いついたのだ。

　まずは天上界の許可（ゆるし）をもらう。そして乱波たちに見合いをさせてパートナーを確定させる。

　緋色龍神の直感力は凄まじかった。ビビット(鮮烈（せんれつ）)な感性によって合わさった(マッチした)パートナーとの相性はドンピシャリだったのだ。

　こうして乱波（らっぱ）に相性抜群の妻を娶（めと）らせて五組の夫婦（めおと）龍神が誕生した。

　乱波の首には夫婦の証（あかし）として龍（ドラゴン）宝珠（ジュエル）が埋め込まれた。五体それぞれの首元に埋め込まれた龍（ドラゴン）宝珠（ジュエル）の中に妻の女龍神が棲んでいる。

　……内緒だけど！　乱波の妻たちは一見すると麗しい。だけどめちゃくちゃ強くて怖いらしいんだ。完全なる『かかあ天下』だと噂されている。　

　乱波はすっかり尻に敷かれた。妻たちの絶妙（ぜつみょう）巧みな夫操縦テクニックによって五大龍神は禍根（かこん）を残すことなく仲良くなって見事に鎮（しず）まった。

　なんやかんやで富士の村は静寂と平穏を取り戻した。村人たちはようやく安堵（あんど）した。

　乱波（らっぱ）は夫婦二体の龍が一体となって活動している。だから龍神界では『ハイブリッド型夫婦（めおと）龍神』とも呼ばれている。

　ま、要するに！　緋色龍神ミュウズは『名仲人（めいなこうど）』あり、『縁結び達人』だったってわけさ。

　……はい、これにてお終（しま）い！　チャンチャンッ！

　凛花がパチパチと拍手（はく）喝采（しゅ）を贈る。

　「コン太、さすがだね！　とってもわかりやすかった。ありがとう！」

　褒められて調子に乗ったコン太はさらに続ける。

　「イヒヒ！　富士の五大龍神には夫婦共同体の名前が付けられている。じゃあ大サービスして紹介しよう！」

　……本栖（もとす）湖の『藍（あい）鉄色（てついろ）葵（あおい）珠（たま）龍神』。学力向上、仕事運や立身出世運を引き寄せる。

　……精進（しょうじ）湖の『藍（あい）鉄色（てついろ）鬱（う）金（こん）珠（たま）龍神』。才能開花、金運と勝負運を引き寄せる。

　……西（さい）湖の『藍（あい）鉄色（てついろ）撫子（なでしこ）珠（たま）龍神』。悪縁消去、新天地での良縁と発展運を引き寄せる。

　……河口（かわぐち）湖の『玄（げん）色（いろ）薔薇（ばら）珠（たま）龍神』。恋愛成就、良縁と美（び）を引き寄せる。

　……山中（やまなか）湖の『月（げっ）白色（ぱくいろ）珊瑚（さんご）珠（たま）龍神』。厄除け、病気の平癒と健康運を引き寄せる。

　ちなみに本栖（もとす）湖（こ）・精進（しょうじ）湖（こ）・西湖（さいこ）の藍鉄色の龍神は三兄弟なんだ。見分ける方法は髭（ひげ）の長さと龍眼の色だよ。

　首に埋め込まれたそれぞれの宝珠(妻龍神)のカラーと龍眼の色はおんなじなんだ。

　元来（がんらい）。富士の山は女人（にょにん）禁制（きんせい）の男体山（なんたいさん）だった。しかし今では女性の登山者や外国人観光客も多く訪れている。云わずと知れた日本（くっ）屈指（し）の『パワースポット』だ。

　男龍神が持つ『富・栄誉・祓（はら）い』。女龍神が持つ『美・癒し・良縁』。乱波夫妻は得意分野を共有して最高にいい感じになった。さらに富士五湖の五体が協力することによって相乗効果が生まれてパワーアップする。

　乱波（らっぱ）は『進化（しんか）系（けい）ハイブリッド龍神』なんだ。