第十章 ③レンジという男(暴走)
所沢市緑町。
信号待ちをする。ふと歩道に視線を移す。帰宅途中であろう女子中学生の姿がたまたま目に留まった。
俺は思わずゴクリ、
ゴーンゴーン、脳内で鐘の音が鳴り響いた気がした。
……かわいい! 好みのタイプだ!
小柄な少女が目の前の横断歩道を歩いて横切る。白い運動靴にセーラー服姿ということは中学生だろうか。私服であればおそらく小学生に見えただろう。童顔で
……どうにかして少女を愛車に引きずり込みたい!
脳内はもうすでに危険な思考に支配されていた。
少女が大通りから細い路地裏に入り込んだ。タイミングを見計らって優しく声をかけた。
「こんにちは。ねえねえ、俺のこと知ってる?」
少女はつぶらな
「え? うそ! わあっ、本物?」
「誰だかわかるかな?」
「はい! レンジさんですよね? 朝ドラ見てます。すごい! ……かっこいい!」
朝ドラを視聴しているのなら好感度は勝ち得ている。俺のファンであると確信した。
「ちょっと道に迷って困っているんだ。『防衛医科大学病院』に行きたいんだけど……」
「ああ! それならこの先の信号を……」
「ちょっと待って! 一緒に車に乗って道案内してくれるかな? 恥ずかしいけど方向音痴なんだ。病院の場所を確認したらまたここの場所まで送るからさ。申し訳ないけどお願いできるかな?」
道を尋ねるふりをして車に乗って欲しいと
「う、うん……。でも、どうしよう」
少女はわずかに
「ホントに困っているんだ。助けてよ。お礼はするからさ!」
下心を隠して爽やかな笑顔を振りまいた。
「うーんと。じゃあ、わかりました。出来ればあとでサインが欲しいです!」
「サイン、ね? 了解!」
助手席にエスコートされた少女は戸惑いつつも気恥ずかしそうに車に乗り込んだ。
憧れの人気俳優に会えた嬉しさが勝っていたのだろう。警戒心は薄くなる。はにかんで無邪気にはしゃいでいる。
人懐こい少女がニコニコして道案内してくれた。そうして病院の前に辿り着く。
「ありがとう。助かったよ。じゃあさっきの場所まで送るよ」
「いえ! ここからなら歩いてでも帰れるので大丈夫です! 忙しすぎて体調が悪いのですか? すぐに病院に行ってください!」
「はは。優しいね。だけど確かに体調が悪いかな……」
「わあ、大変です。早く元気になってください。これからも応援しています! 頑張ってください!」
少女は車から降りようとする。しかしロックされていてドアが開かない。困った表情さえも可愛らしかった。
「……もう少し付き合って」
俺はエンジンをふかせて車を急発進させた。
あてもなく
少女は戸惑って不安そうだった。しかし構ってなどいられない。
俺はシートを倒して覆いかぶさった。力任せに両腕を押さえつけた。
少女は驚いて小さな悲鳴を上げた。状況を察知したのか泣き叫んで暴れ出した。
「黙れ。静かにしろ。すぐに済む」
俺は低い声で脅した。そうして少女の小さな唇をふさいだ。
はじめのうちは泣きながら
暴走した欲望はもう止まらない。大人しくなった機をとらえて夢中に
溜まっていたフラストレーション(
体内に
最高の
しかし次の瞬間に。
我に返った俺はスキャンダルを恐れた。
ふと視線を下方に移す。
俺は衣服を整えて車から降りた。助手席側のドアを開けて半裸状態の少女を地面に引きずりおろした。
河川敷の草むらにゴロンと転がす。
運転席に乗り込んでエンジンをかける。すぐに走り去ろうとした。だが思いとどまって横たわる少女の脇に一旦停車した。
「お礼だよ。サインはまた今度ね」
車の窓から一万円札を二枚投げつけた。ひらりひらりと宙を舞う。
ブウウンッ! 俺は愛車のアクセルを思い切りふかした。
河川敷の草むらに少女を捨てて。放置して。その場から猛スピードに逃げ去った。
それから数週間は生きた心地がしなかった。
……訴えられるのではないか。悪いニュースが流れてるのではないか。
肝が冷える日々だった。
しかし変わらぬ日常が重ねられ心底安堵した。
事件にはならなかった。
とは言え。当面は大人しくしなければまずいだろう。警戒して自粛した。
己の欲望を押し殺して抑え込んだ。
しかし危険な欲求は
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