第九章 ①未來王からのメッセージ

 天上界のその上の、遥か高き天空の彼方に、優美典麗なる『兜率とそつ天』が存在する。

 兜率内天院ないてんいんたっとき未來王はす。内天院をぐるりと囲む数多の星を総称して外天院と呼ぶ。外天院には多くの天人天女の『天衆』が暮らしている。

 

 外天院に渦巻く小惑星のひとつに、際立って蒼くきらめく星がある。それは深い瑠璃色の『藍方らんぽうせい』である。其処そこは人間を拒絶した冷厳さと何物も寄せ付けない気高さと透明感がある。せい金石きんせきを主成分とするラピスラズリから藍方らんぽう星の住人は、わずか一桁ひとけたしかいない。

 内天院から見える藍方星は少し地球に似ているらしい。

 藍方星には四つの豪壮なる城が建ち並ぶ。未來王の四大弟子である『ごくとう万能ばんのう祭司さいし四人よにんしゅう』が各々の居城を構えて暮らしているのだ。

 彼らは稀有けうなる『極等級』を有した万能祭司である。ずば抜けた才腕の呪術師シャーマンである。それぞれが突出したアビリティ(才能)をそなえて異彩を放つ。途轍もない才覚を有したジーニアス(天才)である。さらに加えて、揃いも揃って眉目秀麗びもくしゅうれいなのである。

 人間界の願いを叶え、にごりを取り除き、時に幸福を与え、時に制裁を下す。人知を超えた能力は魔法使いの如くに指先ひとつに職務を貫徹かんてつする。彼らの別格なるスペシャリティは『カリスマ』と天上人から畏敬いけいされあがめられている。

 

 この比類なき四人衆は、人間界にぜんなる救いを及ぼしてくれる聖人君子のように思えるかもしれない。

 だが、決してそうではない。

 彼らの本質は冷たい。人間に対して猛烈な嫌悪感を有している。空恐ろしいほどに冷徹れいてつ冷淡れいたんなのである。

 日々の善なる聖業は、叶えや癒しや救いの任務は、別に本意ではない。貴き『下命かめい』ゆえに、淡々黙々と(仕方なく)遂行すいこうしている作業のひとつに過ぎない。

 そもそも未來王からの下命かめいでなければ従わない。やる気もない。人間との接触など冗談じゃない。お断りである。

 しかしながら、無慈悲な制裁任務に関してはやる気がある。そこに一切の躊躇ちゅうちょはない。


 極等万能祭司四人衆は気難しい。呆れ返るほど刺々とげとげしい。

 彼らが跪拝きはいするのは唯一無二なる未來王、ただひとりだけ。未來王への畏敬いけいの念は計り知れないほどじんじんである。彼らの心は未來王への無条件の敬服と敬愛と恭敬の念に満ちている。

 しかし、そのに対してはべつして辛辣しんらつだ。

 その極端な二面性こそが、気難しい神々をも魅了してまない所以ゆえんなのであろう。

 兜率とそつ外天院の『極等万能祭司四人衆』はなかなかラディカル(過激)な性質なのである。


 そして今日も、彼らが天上界と人間界を結び普遍ふへん的に救いを渡している。崇高なる指令のもとに清々せいせい粛々しゅくしゅくと善なる任務を遂行している。

 

 シュンッ…………! 


 貴き未來王から龍神界に向けて、転瞬メッセージが届いた。

 下命かめいを受諾した龍王や数多の龍神たちは一斉に平身低頭へいしんていとうしてひれ伏した。

 ……今年の『神在かみありつき』は特別なる起首きしゅとなるであろう。未來王直々じきじきの『カミハカリの演算』がすでに動いているらしい。神在月の出雲いずも大社おおやしろに参集する日が待ち遠しい……。

 

 コン太は神通力を使って親友であるカリスマ神霊獣しんれいじゅう使いと会話をしていた。この男性こそ! 愛称『コン太』の名づけ親であり、親友であり、極等万能祭司四人衆のひとりなのである。

 「ねえねえ? 『あの要望』……、聞いてくれるよねえ?」

 「は? 嫌だよっ、冗談じゃない」

 カリスマ神霊獣使いの男は眉をひそめて不機嫌顔をした。コン太は負けじと食い下がる。

 「うーん、だけどねえ……? これは、未來王からの下命かめい、なんだよねえ? それでも断るのかい?」

 「……。(無言)」

 「いくら稀有けうなる極等万能祭司といえどもさあ、未來王からのお願いとあってはさあ、さすがに断るのは難しいよねえ?」

 「…………。(無言)」

 「イヒヒッ! じゃあ、そういうことで! よろしくねえ!」

 「………………。(無言)」

 

 未來王は仏頂面ぶっちょうづらの極等万能祭司を見澄ましていた。そして愉快そうに口角を上げた。肩を震わせ、静かに笑う。

 それはたっときアルカイックスマイルだった。

 

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