第八章 ④輝章の新作

 都内イベントホール。

 まぶしい。無数のフラッシュが明滅している。

 輝章が脚本・監督を務める新作映画のキャストが大々的にメディア告知された。多くの記者やカメラマンが集まっている。

 

 今回の制作発表はいつもと明らかに違っていた。それは今までの定説を大きくくつがえすものだった。

 定説とは以下の通り。

 【人気脚本家・輝章の作品には新人や無名俳優が積極的に起用される。そして俳優たちはその作品を起点として次なるチャンスを掴んで売れっ子になっていく。有名俳優たちがどれほど出演を熱望したとしても叶うことがない】

 今までは。輝章の作品のすべてが定説にのっとっていた。

 しかし今回は違う。すでに売れっ子の人気俳優が起用されたのだ。

 

 ワイドショーやネットニュースはセンセーショナルに取り上げた。

 新作映画の主演は一流大物俳優レンジだという。準主役は人気絶頂アイドル羽衣だ。

 レンジと羽衣の不倫疑惑が連日報じられる最中さなかでの制作発表だった。

 世間は輝章のキャスティングを最悪だと批判する。話題集めの宣伝活動だと非難する。ネットには悪意を込めた書き込みが渦巻いた。

 スタッフは困惑する。不安になる。

 この新作映画の制作が打ち切りにならないことだけを祈るのだった。

 

 映画の撮影がクランクインした。

 主演俳優レンジの首筋には二十代後半から淡いあざがある。

 それは十五年前。真珠色龍神によって刻された『空蝉うつせみ模様』の焼印だ。

 龍神界からの指名手配の証憑しょうひょうである『空蝉模様の烙印』が色濃く鮮明に浮かび上がる。その輪郭があらわなる。

 

 制裁が始まろうとしていた。

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