第六章 ②龍神カップルの馴れ初めって?

 赤煉瓦ベル。

 いつもの三人は、いつものように和気藹々わきあいあいと夕食を終えた。

 不意に凛花が問いかける。

 「あのね、ネット配信のドラマを見ていたんだけど……。恋って、どんな感情なのかな? 全然わからなくて……」

 コン太が返す。

「ああ! 輝章くん脚本の純愛ドラマかい? ときめきが止まらない! って、大評判らしいねえ?」

「うん、そうみたい。だけど恋愛したことがないからかな? ストーリーに共感できなくて……。もしもいやじゃなければ、ふたり(ノアとコン太)のれ初めを聞かせてくれる?」


 コン太は即、うべなう。そして大げさなジェスチャーをまじえて饒舌じょうぜつに語り始めた。

 「イヒヒ、おまかせあれ! おいらとノアとの出会いは出雲大社おおやしろ! 神在かみありつきの『カミハカリ』に神々が参集したときだった。だいぶ前から、しまの真珠色龍神は絶世の美龍だと風の噂で聞いていた。だけどそれは噂以上だった! おいらの体温はグーンッ! 急上昇した。そしてドッキドキ! 動悸が激しくなった。さらにはクラックラ! 眩暈めまいがした。そのうるわしい姿に二度見ならぬ三度見をして、たちまち恋に落ちたんだ! つまり、一瞬でハートを撃ち抜かれてメロメロになったんだよ!」

「うんっ! ノアには見惚みとれちゃう気持ち、……わかる!」

「イヒヒ(照)! それからはりふり構わずの猛アタックさ! おいらの熱い求愛に根負けしたノアが、恋人関係になってくれたってわけ!」

 ノアは笑って補足する。

 「コン太からのアプローチはすさまじかったのよ? 昼夜ちゅうや問わず、神出鬼没しんしゅつきぼつに現れて、何度も何度も求愛してくるの。あまりのしつこさに、初めのうちはちょっと困惑したの。だけど、不思議と憎めなくて、何だか面白くて……。たまに任務が立て込んで会えない日もあって、そうしたらなぜだか寂しくて……。いつの間にかコン太を待ち焦がれている自分が居たの。それでやっと、ああ、そうか、これが恋なのかって……。それに真珠色の龍体とは対照的な呂色の漆黒色にたまらなくかれたの」

 ノアの率直な言葉に、コン太は身悶みもだえしてデレた。

「同じ時空ときを生きて出会えること! ましてや心が通じ合うなんて奇跡だよな! おいらは龍神界一の果報者、ノアと出会えて最高に幸せなのさ! 今だってフワフワ夢見心地だよ! まあだから要するに! 『恋』ってのはいもんだから、すべきだ、ってことさ」

 凛花は淡く頬を染める。お似合いの二人の姿を見て、大いに納得する。

「うん! 恋って素敵だね!」 

 

  ノアとコン太はうれう。そして願う。

 ……凛花には物欲や金銭欲が少ない。『龍使いに任命されて生きる意義を与えられただけで幸せ過ぎる。日々が穏やかで満足だよ!』……そう言って、屈託なく笑う。

 龍神と龍使いの友情にヒエラルキー(階級)は存在しない。駆け引きや打算も通用しない。不可欠なるものは、お互いを無条件に許容する広大無辺の『尊敬』と、見返りを求めないじんじんなる『愛』のみだ。

 龍使い凛花から、柔らかな癒しを与えられている。日々が慈愛に包まれている。

 その深慮しんりょに応えたい。真心を返したい。


 ノアとコン太は切実に願う。

 ……どうしたら凛花が幸せになれるのだろうか? できるなら、凛花が誰かと恋をして、ときめく心を知って欲しい。過去の出来事にとらわれて、恋愛することを諦めてほしくない。

 凛花が誰よりも大切な存在だからこそ、幸せになってもらいたい……!

 

 シュンッ…………!


 突然、ノアとコン太のもとに『たっとき御方』から転瞬メッセージが届いた。

 ノアは驚きすぎて数秒呼吸が止まった。コン太は動揺して腰を抜かした。 

 それは遥か高き場所、優美典麗なる星からの『テキスト影像」だった。

 ふたりの脳裏のうりに『る男性』の顔が映し出された。


 ふたりは顔を見合わせて大きく目を見開いた。それから深く首肯しゅこうした。

 龍神カップルはけいしてひれ伏す。たっとき『下命かめい』を了承して受け取った。


 確信した。

 凛花はそう遠くない未來に、誰かと『恋』をするだろう…………。

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