第六章 ①龍神と龍使いの友情

 都内某所・テナントオフィス。

 真珠色龍神ノアは『一般財団法人・リンカ』を立ち上げて人間界で就業している。国内外に慈善活動を行う元手もとで篤志家とくしかからの『寄付』である。『財団リンカ』には莫大な寄付金が集まっていた。

 それには理由がある。

 ……龍使い凛花への感謝を形にしてあらわしたい! そう望む契約者たちからの強い想いが龍神界に届けられていた。

 龍神界はその願いを思念して顧慮こりょした。その結果として『財団リンカ』設立に繋がった。つまり、寄付金の大半が『契約者』からの善意と感謝のかたまりなのだ。


 財団運営は当然順調だ。代表者はその名の通り凛花である。しかし経営にはノータッチだ。役員であるノアが中心となって財団をになっている。

 社員は少数精鋭だ。それは遺児いじ孤児こじ支援に際して知遇を得た若者数名と、悪魔の病と呼ばれる原因不明の難病・トゥレット症候群と共生している若者数名を雇用している。 

 彼ら(彼女ら)は世間からの差別の只中ただなかにあると云っても過言ではない。しかし境遇や難病を言い訳にせず、ひたむきに生きようと努力している。彼らの心根は澄んでいて美しい。まるで天使のような社員たちだ。ノアは英俊なる朋友ほうゆうたちと協働きょうどうしているのだ。


『一般財団法人・リンカ』は財団運営の指針を明示する。

 〇遺児孤児などの不遇境遇者の人生ハンデに対する資金援助活動。真心こもる寄付だからこそ若者たちの未來の支援にてる。

 〇原因不明の難病・トゥレット症候群への啓蒙けいもう活動。その他、あらゆるマイノリティに対する偏見差別をなくし理解を得るための活動。

 〇不平等の調整資金として運用する。あらゆる場面を想定し、その必要性に応じて適正な支援をする。

 切望するのは思いやりの連鎖である。


 ……これこそが凛花の意志である。

 未來型支援団体『財団・リンカ』は的確な指針にのっとって運営されている。財団には賛同者から善意の寄付金が集まってくる。凛花は表舞台に立っていなくとも『財団代表者』として中心をになっているといえるのだ。

 だからこそノアは凛花に報酬を受け取って欲しいと伝えた。しかし凛花はかたくなに拒んだ。やむを得ず、ノアは凛花名義にこっそり貯蓄をする。

 しかし先日、それがばれてしまった。

 

 赤煉瓦ベル。

 ふたりは目を逸らさず向かい合う。凛花はいさめる。

「あのね、ノアの気持ちは嬉しいよ? でも私ね、財団の報酬は本当にいらないの」

 ノアはいきどおる。

「そうは言っても! 凛花、あなたは財団の指針を示した代表役員なのよ? それに今はともかく、いてからお金は邪魔にならないでしょう? 迷惑かしら?」

「ううん、ノアの気持ちはすっごく嬉しい! だけどそのお金は、本当に必要とされているファンクション(使途)でこそ価値が高まるはず。是契約者からの善意のかたまりは『未來の希望』に投資すべきだと思うの」

「だけどこれは当然の『権利』なのよ?」

「あのね私、今が幸せなんだ! ノアが居て、コン太が居て、日々が友情とか感謝であふれているの。だからもう両手がいっぱい。持ちきれない」

「だけど……!」

「もちろん、この先の未來がどうなるかなんてわからない。だけど護られ過ぎたら弱くなっちゃうよ? 私はノアに助けてもらって今を生きている。だからこそ精一杯頑張ってみたい。ノアとコン太の『親友』だって胸を張りたい。だから…………!」

 

 ぎゅうぅっ! ノアは凛花を抱きしめた。

「わかった、わかったわ! 将来のために貯蓄をしておけば、万が一に備えておけば、凛花が安心して喜ぶはず! ……なんて、そんなふうに思ってしまったの。私の浅さが恥ずかしい……。ごめんなさい」

「ううん。ノアの気持ちだけ受け取るね! それに私ね、大学でデジタル分野を学んでいるから、将来はフリーランスで仕事して生計を立てるつもり! だから大丈夫!」

「そう、……わかったわ。それじゃあ凛花は自力で稼いでね?」

「うんっ、任せておいて! 大食いコン太の食費分だって稼いでみせるから! それに特売品の買い出しと節約は得意なの」

「もう……、凛花ったら! ……大好きよ」

「私もノアが大好き! いつも一緒に居てくれて、ありがとう」


 ノアの瞳から涙がこぼれた。

 ……龍使い凛花が宿す『フィールリズム』とは、どこまで温かくて崇高なのだろうか。他者を優先して思い遣る真心はどれほど深くて大きいのだろうか……。

 凛花の美しい心根にひれ伏す。愛おしさがいや増した。

 ……感服だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る