第五章 ①否の裁き

 芦ノ湖・コン太の

 呂色九頭龍神在狼あるろうはつくづくと思いふける。

 ……龍使いと鬼ヶ城の朝日を眺望した契約者は、この二年足らずに三桁みけたに迫る勢いだ。スポーツ選手、芸術家、作家、芸人、タレント、サラリーマン、政治家、研究者、音楽家、ダンサー、デザイナー等々、分野や国籍や性別は問わない。『ほまれ』を手中にした幸運者は着実に増大している。そしてそれぞれが想像の域を超えた凄まじい成功を収めている。 

 しかしその一方に、いなに転じる『エラー人間』も増え始めていた。


 コン太は辟易へきえきしていた。

 人間の欲望は終わりを知らない。惜しまず注力じん尽力りょくして真っ直ぐだったはずの心根はいつしかひずむ。初心を忘れて傲慢ごうまん尊大そんだいになって契約をたがえる。

 例えば、承認欲求が抑えられず是の契約者であることを他言たごんして誇示する。

 さらなる高みを欲して龍使いとの再会を画策かくさくする。

 凛花に恋をして我が物にしようと目論もくろむ、そんな不届き者もいた。

 とにもかくにも・契約者に『覚悟』が足りない。

 龍神と是契約を交わして造形無き『ほまれ』を手にした。それはすなわち比類なき幸運を手にしたということ。しかれば、契約不履行ふりこうとなれば『否の裁き(是契約書第七条)』が待ち受ける。これは無論であり当然の帰結きけつだ。


 ……それって当たり前だよねえ? 美味しいとこ取りなんて有り得ないよねえ? そんなの契約書にサインを記した時点で理解していたはずだよねえ? それなのに『』の采配さいはいが『いな』に転じて運命が暗転した途端、浅ましい『本性』がき出しになるのはどうしてだい? 

 見苦しい言い訳、過剰な自己保身、泣き落とし、さらにはおいらに駆け引きを持ち掛ける不遜ふそんやからまでいる(あきれちまう、浅はかすぎる、馬鹿すぎる)。それが通用しないと分かるとギャンギャン泣きわめく、追いすがって命乞いのちごいをする(ウザい、うるさい、面倒くさい) 。

 ……あーあー、汚いねえ? 人間って奴は!


 あっ、そういえば! あの総合トータル美容ビューティーサロン経営者の『コウメ』は醜悪しゅうあく極まりない女だったねえ…………。

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