第四章 ②帰省と出会い
愛媛県・
大学が春休みになった凛花は帰省するため
だけど今回は途中下車をした。
寄り道の目的は
浮き浮きとした足取りで八幡浜駅に戻る。時刻表を見ると次の電車は約一時間後だ。
待合室には二十代半ばくらいの男性がひとり、ノートパソコンを広げて何やら真剣に作業をしていた。その青年が不意に顔を上げて凛花を視界にとらえた。その
凛花はすかさず声をかける。
「こんにちは。私は凛花と申します。観光ですか?」
「…………。観光、です」
青年は
そこへ『
「私は真珠色龍神ノア。あなたは龍使いの瑞光オーラが見えたのね? この契約書を……」
「オーラなど……、見えていません!」
青年はノアの言葉を
「だけど、あなたは……」
「迷惑です! 僕のことは放っておいてくださいっ」
差し出された是契約書を手に取ることを
凛花とノアは顔を見合わせる。なぜならこの青年は、ふたつのリズム(グラビリズムとモアレリズム)が最大値という非常に
「私は宇和島湾に居るから、もしも彼の気が変わったら、念じて呼んで……」
ノアは凛花に耳打ちをした。そして音もなく飛び去った。
気まずい
ガラガラの車両は貸し切り状態だ。青年はキョロキョロして
「あ、あのっ! 先ほどは感情的になってしまって、すみませんでした……」
青年はバツが悪そうに頭を下げた。
「いっ、いえ、こちらこそ! 初対面なのに驚かせてしまって、すみませんでした」
凛花は他意なく微笑んだ。
青年は柔らかな
「えっと……、
「はい。地元は宇和島です。四国は初めてですか?」
「そうです。数日間滞在するので、初めての四国を満喫する予定です。卒業旅行の
「卒業旅行なのですね! 私は数か月ぶりの帰省です。
「どこかおススメの観光場所はありますか?」
「今の時期だと南楽園の梅が見頃かもしれません。だけど一番の絶景は、実家のみかん山からの景色です。実は私、みかん農家の一人娘なんです」
「そうなのですか! 本場の『みかん』は美味しいでしょうね」
「はいっ、
青年は思わず笑みをこぼした。凛花の
ふたりは次第に打ち解けて会話が弾む。そうして話題は卒業後の『将来(未來)』に転じていた。
青年は自信なさげに
「大学院の
「就職先は、希望の職種ではないのですか?」
「いえ、内定先は大手企業です。就活はそれなりにうまくいきました。両親は『将来は安泰だ』そう言って喜んでくれました。祖父母からは『早く良い相手と結婚してひ孫を見せてくれ』そんなことを言われています」
青年は薄く笑う。
凛花は確信する。
……この青年は心からやりたい『何か』を封じ込めている。今まさに、グラビリズムとモアレリズムが最大値に到達している。そして龍神と『是契約』を交わせる
凛花は提案する。
「もしも行き先が決まっていないなら、私の実家の『みかん山』を見に来ませんか?
青年は車窓から空を見上げて思案する。
「みかん山の絶景、か……。うん、良いですね!」
「私の実家は
「…………。」
青年は言葉を詰まらせる。凛花の屈託ない笑顔に
「あっ、あの実は今日、宇和島のゲストハウスに宿泊予定で……、それで偶然にも宇和島駅でレンタカーを予約してあって……。だからその、凛花さんをご実家まで車で送ることができます」
「わあ、
「はい。そして是非とも『絶景』を見せてください」
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