第四章 ①龍神都市伝説

 座敷童わらしが日本の由緒ある寺に出没するという伝説は『迷信』と化していた。没却ぼっきゃくされて流布るふすることがなかった。

 しかしなぜだか、風説に否定的な人間までもが『龍神・都市伝説』を口にした。


 五色の瑞光オーラを放つ龍使いの女に遭遇そうぐうして、龍神と契約を交わすことができたなら、壮大な夢が叶うのだという。

 あまの岩戸の名水から創られた『オーロラペン』を掴んで、契約書にサインをしるせれば、富・名誉・栄光、そのすべてを手中にできるのだという……。

 どうやら龍使いの女は関東の内陸に暮らしているらしい。

 首都圏での目撃情報が多いらしい。

 小柄な若い女らしい。

 鉄のおきてとして、契約者が龍使いの身体に触れることは決して許されないらしい。


 龍使い凛花は、ひとりでも多くの才能あふれる人間にめぐり会いたい! そう強く望んでいた。その美しい真情に感激した数多あまたの龍神は『龍神・都市伝説』の噂をあえて広めようと決意した。

 日本中の龍神が人間の姿に化身けしんする。他言無用の龍神・都市伝説を吹聴ふいちょうして拡散かくさんした。

 そうして龍使いの話題がちまた席捲せっけんした。老若ろうにゃく男女なんにょによる瑞光ずいこうオーラ探索の『龍使い狩り』があちらこちらで急増した。


 ノアとコン太はあきれる。

 龍使いの瑞光オーラを目撃するのは簡単ではない。まずは自らの才能を磨き上げ、リズムを最大値にしなければならない。タイミングの一致はその後のプロセスであって闇雲に歩いて出会えるものではない。たとえ雑踏ざっとうの中に龍使いとれ違っていたとしても、自らが『グラビリズム』もしくは『モアレリズム』状態でなければ瑞光オーラを視認することができないのだ。 

 

 しかしその一方に、天上界から『不可欠』と判定された者は、必ず龍使いに巡り合う。そして『契約』へと導かれる。

 それは日本中のどこにいたとしても関係ない。あらがえぬ強烈な『引力作用』によって吸い寄せられて引き寄せられる。たっとき不思議な力にいざなわれて『未來の宿命』がおとずれるのだ。


 シュンッ…………!

 天上界のその上の、遥か高き優美典麗なる星から『龍王』にてんしゅんメッセージが送られてきた。

 龍王は驚きに目を見開く。即座にたっと下命かめいにおこたえする。

かしこまりました。すべて、おおせのままに…………』

 じんじんたるけいの念を表してひれ伏した。


 転瞬メッセージの送り主は、わずかに口角を上げて微笑んだ。それはたっとき『アルカイックスマイル』だった。


 龍使い凛花の運命が大きく動き出そうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る