第二章 ②是の女性歌手・ツボミ(誉)
熊野市・鬼ヶ城。
ノアにいざなわれて。辿り着いた先は
「ここは熊野の鬼ヶ城の浜辺。リアス式海岸の最南端ね。
もはやツボミは夢見心地だ。
「こんばんは」
降ろされた暗がりに突然声をかけられた。ツボミは驚いて飛び上がった。
立っていたのは表参道のカフェテラスで声をかけてきた『凛花』だった。身体からは瑞光オーラが発せられ菩薩の光背の如くに輝いている。
「カフェでは驚かせてしまってすみませんでした。お会いできて嬉しいです」
凛花はにっこり笑って。ぺこりと頭を下げた。再会を予言した言葉の通りに。本当にまた会えたのだ。
ツボミも慌てて頭を下げた。
……凛花さんの自然な笑顔は屈託がなくて好感が持てる。龍使いとはいえども特別な
汚い心が綺麗な何かに包み込まれて和らいでいく。いつの間にか。胸中に居座っていた
それよりも。これから
水平線を
「時間よ」
ノアが
この瞬間。ツボミは造形無き『
凛花が告げる。
「たくさんの人があなたの歌声を求めています。インスピレーションを信じてください。あなたが愛する音楽を
日本を飛び越えた世界でも。求められるところすみずみまでも。美しい歌声が響き渡りますように。そう密やかに願っています。
もう二度と会うことはできないけれど。ツボミさんの輝く未來を応援しています」
龍使い凛花の優しい声と励ましの言葉が
ふと
……あのリアルな出来事が夢であるはずがない。私は龍神と契約を交わしたのだ!
未來は誰にもわからない。それでも。私の未來は輝いている! そう確信できている。
だけど。凛花さんとはもう二度と会えない。きちんと感謝の言葉を伝えたかった。友達になりたかった……。
しかしそれと同時に。無数の音符が空から降り注いできたのだった。
ストリーミング再生・一億回超え!
アーティスト・ツボミが二十五歳の誕生日にアップした楽曲は
派手にバズったコンポジションが契機となって。大手音楽事務所との専属マネジメント契約に繋がった。
ツボミはミリオンセラーのヒット曲を連発させる。
アーティスト・ツボミの最新曲は『R・アール』。人気連続ドラマの主題歌だ。
ツボミの記事が音楽雑誌に掲載されていた。
【『R・アール』は。私のかけがえのない恩人に捧げるつもりで制作した一曲です。
家族や友人や恋人など。大切な人と過ごす日常があることは当たり前ではありません。分かち合う時間があることは当たり前ではありません。もしかしたらそれは。
時間には限りがあります。だからこそ。感謝の言葉を率直に伝えてください。敬慕の心を照れずに伝えてください。
状況によっては。大切な人はいるけれど二度と会うことが叶わない。そんな方々も
それでも心は繋がっている! そう信じることで頑張り続けることができます。
だから私は。空を見上げて感謝の言葉を伝えています。
いつもありがとう。あなたに会えて良かった。ありがとうございます!】
空前の大ヒットとなった『R・アール』はいくつもの記録を塗り変えていく。音楽業界に新たな歴史を刻んでいく。
大切な人への感謝と
所沢市。
赤煉瓦ベルの一室では。凛花が鼻歌まじりに料理をしていた。
口ずさむその曲は。アーティスト・ツボミの名曲『R・アール』だった。
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