第一章 ②病院にて
総合病院・集中治療室。
命が助かったことを
……みかん畑で発見されたとき、すでに虫の息だった。下半身から大量出血していて死んでいるかのようにぐったりしていた。
「龍が……、龍が…………」
意識が
緊急手術が
術後の麻酔が切れて、つぶらな
幼い娘は病院の真っ白いベッドに横たわって小さな寝息を立てている。点滴に繋がれてはいるものの、寝顔はいつもの通りに愛らしい。そしていつもの通りに清らかだ……。
いつもと何ひとつ変わっていない。けれど何かが変わってしまった。
次に目覚めたとき、何と声をかけようか? 愛嬌のいい人懐こさは失われていないだろうか? 以前のように屈託なく笑ってくれるのだろうか? 希望を失わずに生きてくれるのだろうか? この先も延々と続く
涙が止まらない。ただただ
父が嘆く。母が嘆く。
……
家族は絶望の
数日後。
招かざる客が訪れた。その来客は
「今回の件は
そう淡々と述べると、法外な『口止め料』を提示した。しかし、代理人から被害者を
「ふざけるな! 金を払えばいいというものではない!」
父親は逆上して
「犯人はどこだ! 今すぐここに連れてこい! 絶対に許さない……、許さないぞっ!」
母親は思わず取り乱す。
「
代理人を名乗る男はせせら笑う。
「お金はいりませんから! 誰にも口外いたしませんから……! だからお願いします。二度と私たち家族に関わらないでください! お願いよ……、出て行って……。出て行ってええぇっ……!」
母親は悲鳴を上げた。幾千万もの言葉を封じ込めて泣き叫ぶのだった。
神無月の宇和島の夕刻。
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