第8話 手合わせ

 客室に案内し、談話をする王家達。

 酒を片手に両国を話し合っている姿は王家とは思えないほど賑やかな雰囲気だった。

 だが両国の末っ子王女達は睨み合っていた。


「エルよ。何故あそこは睨み合っているんだ」

「ライバルだからじゃない?私は気づいてないお前が怖いよ」


 ライバルって何の?という顔をするニイナに呆れるエルは親友の鈍感さを久しぶりに感じた。


「ニイナはいつも私を守ってくださいます。今回はお父様に頼まれたから行っただけであなたの為ではありません」

「ですが、主君に内緒でわたくしを助けてくださいましたわ。しかも心配だってしてくれましたの」

「ぐぬぬ…」


 乙女の目には炎が灯りお互いの意思は固い。絶対に落とすという意思がお互いをさらに強くした。


 その戦いの横では一方的に繰り広げられた戦いが近衛にぶつかっていた。

 それはアルセンの近衛であるイカラ・チルトがニイナに嫉妬心を抱いていた。アルセンの近衛の期待がイカラからニイナに向けられていたからだ。

 ニイナは気づいているが無視をして大人の余裕を見せる。


「ニイナ。この俺と手合わせをしないか」

「ちょっとイカラ⁉貴方何を言ってるの⁉」

「お嬢様のその感情は俺がこいつに勝てば俺に向けてください。俺はお嬢様にその感情を返すことが出来ます」


 アルセンは戸惑う。リリアは状況を呑み込めなく慌てる。

 ニイナは真剣な眼差しで答える。


「…私は構いませんが陛下、どうしますか。」

「ハハハ!面白いじゃないか。いいんじゃないか?ニイナよ。我が国の騎士団長の強さを叩きこむんだ」

「承知しました」


 ニイナの決意は決まり騎士団の訓練場へ向かう。

 王家の者はワインを持ち、楽しそうな表情で続く。リリアは手をぎゅっと握る。すると、エルが大丈夫と安堵の言葉を投げかける。


「ニイナは…」

「彼奴の目を見てください。ありゃ本気ですよ。心配しなくとも彼奴なら無傷で帰ってきますよ」

「そうだといいんだけど」


 リリアもエルに続き進む。


 訓練場に着くと騎士団の者が居て用意された席に座る王家達。それを見守る国王、王妃、王女、王子の近衛たち。

 リリアの隣にはエルが立っていた。


(ニイナの事だし手加減なんてしなさそうだし。お相手に治癒魔法をかける準備しないとな)


 エルはニイナの心配より相手の心配をしていた。それはニイナがどれほどの実力の持ち主か分かっていて親友だからこそ信頼しているのだ。


 一方、訓練場の真ん中ではお互いを見合う近衛の姿と審判をする副騎士団長のウィル。


(騎士団長といっても女だ。襲われた時だって魔法が効いてただけだろ)


 そんな事を考えるイカラに一言、強い言葉が入る。


「女だからってなめるなよ、私は容赦はしない」

「ふんっ。気前がいいみたいだがそうやっていられるのも今だけだぜ!」


 訓練場に試合の合図が鳴り響く。


 すると、ニイナは動かずイカラが勢いをつけて剣を振りかざす。それをニイナは華麗に躱し、相手の行動を探る。

 ニイナは少し笑い剣を抜き動く。素早さもあり威力もある彼女の剣は当たればただではいられない。

 ニイナはイカラの背後に忍び寄り上から剣を振りかざすとイカラの首元に当たり隕石でも当たったのかという音が王城全体に響く。


 イカラは悶え、ウィルは叫ぶ。


「勝者!ニイナ・カシミア!」


 エルは急いでイカラの傍に近寄る。すると痛々しい姿を見てニイナを見る。


「君ねぇ。手加減しなさそうだなとは思ってたけどさすがにやりすぎだよ」

「こんな実力で王族を守るなど言語道断。それと少しむかついたから力を入れすぎた」

「イカラは治るんですか…」

「治る治る。複雑骨折でもないし。まぁちょっと意識がなくなるだけだから」


 エルは治癒魔法をイカラにかける。それはとんでもない速さで治っていく。


 イカラは、はっとしたようにニイナを見る。すると、ニイナはイカラの首元に剣を向ける。


「お前の動きは単調すぎる。同じことの繰り返しで型にはまっていない。お前の長所は音を消せることだ。動きを悟らせないようにすることがお前のやるべきことだ」

「俺はお前が女だからってなめてたのにお前は俺の長所をしっかり見て責めもしないんだな」

「何気に楽しかった試合だった。下から数えて二番目だがな」

「はぁ⁉」

「おい待て。一番下はそれ私との手合わせか⁉」

「すごいな。よくわかったな」


 感動のシーンかと思いきや雰囲気を壊すニイナの一言。そして怒るエルはニイナを追いかける。

 騎士団員は団長がああいうすぐどん底に落とす悪魔だったことを思い出し絶望する。それと同時にあれが自分らの団長だという事に哀しみを覚えた。




 あの後、リリアに叱られたニイナはリリアの部屋で待機していた。


「リリアお嬢様。そろそろ動いてもいいですか?」

「駄目です。これはお仕置きです」


 ニイナに膝枕させるリリアは少しうれしそうだった。

 ニイナは足が痺れてきているのを我慢していた。


「リリアお嬢様、明日は舞踏会です。そろそろ寝ないと起きれませんよ」

「知ってます…」


 ハマス王家が来たことから舞踏会を開くことになり、早めに寝ないといけないのだった。

 そして珍しくニイナはリリアの近衛として参加するのではなくカシミア伯爵として参加する。



 ニイナは何時までこうするんだという念を持っていたがリリアの寝息が聞こえ、リリアをベッドに戻してまたもや王城に泊まることにした。

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